1.試用期間
長期雇用制度の下の正規従業員の採用にあたり、一定期間を試用期間として労働者の能力、適性をみることは多くの企業において行われています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕400頁)。
試用期間は労働者の能力、適性をみるための期間ですが、ある程度継続して働きぶりを観察しなければ、能力や適性を正当に評価することはできません。
それでは、試用期間の満了前に、勤務態度不良等を理由に解雇(留保解約権行使)することは、許されるのでしょうか? 試用期間は、満了時点で雇用契約を維持できるのか否かの判断権を留保するものであり、満了前に不適格者の烙印を押すことは想定されていないのではないでしょうか?
この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令3.8.4労働判例ジャーナル118-56 小野寺工務店事件です。
2.小野寺工務店事件
本件で被告・被控訴人になったのは、土木工事業等を目的とする株式会社です。
原告・控訴人になったのは、被控訴人の営業職として採用された方です。令和2年7月3日、試用期間を3か月とする期間の定めのない雇用契約を締結しました。
しかし、試用期間を1か月以上残した令和2年8月25日、被告は、
休日許可なく出勤することについて注意されたにもかかわらず、許可なく休日出勤をしたこと、
会社支給の携帯電話に連絡をしても返信などの応答がないこと、
毎日提出すべき日報の提出がなかったこと、
を理由に原告を解雇しました。
これに対し、原告は、地位確認や未払賃金の支払を求める訴えを提起しました。一審裁判所が請求を棄却したことを受け、原告側が控訴したのが本件です。
本件で控訴人は、
「被控訴人との間の労働契約では、入社3か月後に成績等を考慮して本採用を判断するものとされているから、試用期間の途中で解雇することはできず、本件解雇は無効である。」
と主張しました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥し、控訴を棄却しました。
(裁判所の判断)
「本件労働契約における試用期間中の法律関係は、解約権留保付労働契約であると解されるところ、このような解約権の留保は、労働者の採用に当たり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他の適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に収集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、使用者は、労働者に対し、このような解約権留保の趣旨、目的に照らして、試用期間の途中であっても客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認できる場合には、留保された解約権を適法に行使することが可能である。そして、解約権の行使が違法、無効である場合には、特段の事情がない限り、労働者は、使用者に対し、解約権行使後の賃金を請求することが可能である(民法536条2項)。」
「前記認定事実のとおり、被控訴人は、控訴人に対し、休日及び休日出勤に関する定めについて入社時に説明し、これに反して休日出勤していた控訴人を注意したにもかかわらず、控訴人が所定休日及び上記注意に従わずに合計11日にわたり休日出勤していたことが認められる。また、控訴人は、業務連絡に必要な携帯電話の貸与を受け、当該携帯電話を使用して業務連絡を行う旨説明を受け、実際にも本件LINEグループに参加し、携帯電話を操作して本件LINEグループにアクセスし、被控訴人からメッセージとして送信されてきた業務連絡を読み、確認していたにもかかわらず、これに応答しておらず、被控訴人がこれを注意していたことが認められる。そして、控訴人は、被控訴人の営業部において、従前月1、2回行うことにされていた営業報告が、令和2年8月3日以降は毎日行うべきことに変更され、本件LINEグループで上記変更を連絡されたにもかかわらず、当該業務命令に反して営業報告を毎日行っていなかったことが認められる。」
「控訴人の業務内容は外回りの営業であり、会社からの求めに応じて実際に従事した営業活動を定期的に報告すべき立場にあることに加え、控訴人が日給による賃金の支払を受けていることも踏まえると、営業報告を毎日行うことが不当な業務命令ということはできず、また、被控訴人から携帯電話への業務連絡に応答することや休日出勤に対する指示も容易に対応することが可能であるにもかかわらず、控訴人はこれに従わなかったのであるから、控訴人は被控訴人の業務命令を軽視する態度が顕著であるだけでなく、控訴人が被控訴人の基本的な指揮命令に従って営業として業務を遂行していく能力や資質を欠くことは明らかであり、これらが試用期間中に改善する見込みもなかったといえる。そうすると、被控訴人が控訴人に対し試用期間の途中に解約権を行使したことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができる。」
「よって、被控訴人による本件解雇は、適法な解約権行使として有効であるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件解雇後の賃金を請求することができない。」
3.改善の見込みなしと簡単に言い切れるのか?
上述のとおり、裁判所は、試用期間通に改善する見込みがなかったとして、解雇(留保解約権行使)を適法だと判示しました。
能力や適性を見極めるためとして想定された期間の3分の1を残していながら改善する見込みがないとするのは、やや厳しすぎる感があります。その判断の妥当性には疑問もありますが、こうした裁判例もあるため、試用期間満了までは解雇されないはずだとは軽信しない方が良さそうです。