弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

被害者への報復はセクハラ行為をした時の最悪手

1.ハラスメントへの対応

 ハラスメントの加害者になってしまった場合、被害者には速やかに謝ってしまった方が良いと思います。軽微なハラスメント事案では、謝罪をしたことが、違法性の認定を妨げる事情として考慮されることもあります。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2020/01/13/232200

 しかし、ハラスメントの加害者の中には、自分の行動を正当化するために明らかに無理のある弁解をする方も珍しくありません。それだけならまだしも、声を挙げた被害者に対して報復行為に及ぶ方もいます。

 こうした行動は、ハラスメント加害者になった時の対応として、賢明な判断ではないように思われます。懲戒処分を重くする事情になるほか、被害者から損害賠償請求をされた時に、支払わなければならなくなる金額を増やしてしまうからです。

 近時公刊された判例集に掲載されている裁判例(徳島地判令2.1.20労働判例ジャーナル96-54 日本郵便事件)でも、報復は損害賠償との関係で藪蛇でしかないことが分かります。

2.日本郵便事件

 この事件で被告になったのは、日本郵便株式会社(被告会社)と、その従業員複数名です。

 原告になったのは、歓送迎会でセクハラ被害を受けた被告会社の女性従業員です。

 原告の方が歓送迎会で受けた被害は次のように認定されています。

「平成28年6月24日午後8時頃、原告は、遅れて本件歓送迎会に参加した。当初、原告は、会場である座敷の一番奥の長机に座っていたが、被告dに呼ばれて、同人と被告cに近い席に移った。」
「席を移動した後、原告は、被告dから、被告cが、原告の同僚のjや原告からみて男性として魅力的に感じるかと尋ねられ、これに肯定的な返答をしたところ、被告cから握手を求められたり、被告dから被告cとキスするように言われたりした。原告が、上記のキスの求めを断ると、被告cは『うわあー、ショック』などと言ったうえ、被告dに対し、原告のことを指差して、『逆にどうです?』、『キスとか色々できます?』などと質問をした。これに対し、被告dは、原告を指差して、『これはデブ過ぎる』などと答えた。」
「その後、被告cが携帯電話を取り出し、被告dとともに画面を見て二人だけで笑いながら『これはあかん。失礼だ』などと話し始めたため、原告は、被告cらとは別の者と会話するようになった。」
「その会話の中で、原告が以前に病院で勤めていたことや看護学校で学んでいたことなどを話していたところ、これを聞きつけた被告dが会話に参加してきて、原告に対し、『下の世話は得意?』、『看護職・介護職の人はいやらしい』などと執拗に性的な発言を繰り返した。」

 こうしたセクハラを受け、原告の方は、「容姿を揶揄されて傷ついたなどと記載した記事」(本件記事)をフェイスブックに投稿しました。

 これを知った被告cは、喫茶店で原告に対し「埋める」などと発言する挙に及びました。裁判所で認定された経緯は次のとおりです。

「原告がフェイスブックに被告cらを非難する本件記事を掲載していることを知った被告eは、平成28年6月25日、原告に連絡し、翌日、喫茶店で、原告と会い、本件歓送迎会で何があったかを尋ねた。その際、被告eは、被告cに聞いたがそんな事実はないと言っている、被告cはそんなことをする人ではない、原告の勘違いではないかと言い、原告が第三者に伝わるように本件記事をフェイスブックに投稿したことは良くないと言った。」
「これを聞いた原告は、被告cに謝るとして、同人に電話を掛けてフェイスブックに本件記事を投稿したことを謝罪したが、同人から直接会って謝罪するように求められ、一度はこれを断ったものの、被告eから説得されて同人とともに被告cと会うことになった。その際、被告eは、原告に対し、被告cに言いたいことがあるなら言わないといけないとも言った。」
「被告eは、本件記事がフェイスブックに投稿されていることを同人に知らせたhにも連絡し、四人で本件喫茶店で会うこととし、原告とhとともに、本件喫茶店で、被告cが来るのを待った。」
「その後、被告cが本件喫茶店に来たが、同人は、先の電話での原告の応答に不満を感じていたことから、席に着くと、持っていたたばことライターをテーブルの上に叩きつけるように置き、原告をにらむようにして座った。そして、原告がフェイスブックに本件記事を投稿したことについて、会社を辞める覚悟で投稿したのかなどと言って非難し始めたところ、原告が会社を辞めればいいんでしょうなどと応答したことから、被告cは怒り、本件喫茶店のテーブルを強く叩き、原告に対して『ええかげんにせえ』、『埋める』と発言した。また、このやり取りの最中には、興奮した被告cの足がテーブルにぶつかり、テーブルが揺れることがあった。」

 裁判所は、歓送迎会での被告らの言動、被告Cの言動に違法性を認めたうえ、次のとおり損害額を認定しました。

(裁判所の判断)

-本件歓送迎会における被告cらの共同不法行為による損害について-
「原告は、本件歓送迎会において原告が性的対象となるか尋ねるなどした被告cの発言及び原告の容姿を揶揄した被告dの発言により、精神的苦痛を被ったものと認められる。」
「そして、上記の共同不法行為の性質及び態様、本件の全証拠から窺われる原告の心情、その他本件における一切の事情を考慮すると、原告の上記精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と認めるのが相当である。」
-本件歓送迎会における被告dの不法行為による損害について-
「原告は、本件歓送迎会において被告dがした原告の意に反する性的な発言により、精神的苦痛を被ったものと認められる。」
「そして、上記の不法行為の性質及び態様、本件の全証拠から窺われる原告の心情、その他本件における一切の事情を考慮すると、原告の上記精神的苦痛に対する慰謝料を10万円と認めるのが相当である。」
-本件話合いにおける被告cの不法行為による損害について-
「原告は、本件話合いにおいて原告に身体的危害を加えられる恐れを抱かせ、畏怖させる被告cの一連の言動により、精神的苦痛を被ったものと認められる。
 そして、上記の不法行為の性質及び態様、本件の全証拠から窺われる原告の心情、その他本件における一切の事情を考慮すると、原告の上記の精神的苦痛に対する慰謝料を20万円と認めるのが相当である。」

3.報復行為の方が元々のセクハラよりも厳しく評価されている

 裁判所は報復行為で受けた被害者の精神的苦痛に対する慰謝料を、元々のセクハラの慰謝料の倍額と認定しています。

 絶対額としてはそれほどの金額になっていませんが、裁判所が報復行為に対して厳しい視線を向けていることが読み取れます。

 法は逆恨みや報復を許容していません。ハラスメントの加害者になってしまった場合には、傷つけた被害者に対する配慮というだけではなく、自分自身を守るという観点からも、せめて二次的な被害を与えないことが望まれます。