弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

代引き(代金引換)での注文-「商品を受領する義務」は生じるのか?

1.「代引き」注文で受取拒否される問題

 ネット上に、

「大迷惑!『代引き』注文で受取拒否…トンデモ客を排除できる?」

との記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_18/n_10334/

 記事には、

「ネットショッピングは浸透してきたが、その支払いをめぐってトラブルも相次いでいる。支払い方法は幅広く、クレジットカード、銀行振込、最近ではキャリア決済も一般的になってきた。この中で、トラブルが多発しているのが、代引きを使った取り引きだ。」

「弁護士ドットコムに寄せられた、ネットショップや通販の担当者たちからの相談をみると、被害は深刻だ。中には、長期不在を理由にしてキャンセルすることを繰り返す常習犯もいるという。」

「客としては軽い気持ちでやっているのかもしれない。しかし産経WESTによれば、代引きの中止に踏み切ったネットショップもあるという。」

「店側としては『商品をキープされるのに、支払ってもらえない』『戻りの送料がかかって困っている』など損害も出ているようだ。法的にはどう考えられるのだろうか。」

と書かれています。

 これに対し、回答者となっている弁護士の方は、

「ネット通販は、購入者の『申込み』(注文)と店側の『承諾』(「注文を承りました」など、「売ります」という意思)とで売買契約は成立します。」

「代引き購入では、売主(店)が売買の目的物(商品)を送付している以上、買主(購入者)には売買代金の支払いとともに、目的物を受領する義務が生じます

と回答しています。

 しかし、買主に受領義務が生じるというのは本当かな? とやや疑問に思います。また、一般の方がこれを真に受けて行動すると、少し危ないのではないのかなと感じます。

2.受領遅滞

 民法413条は、

「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」

と規定しています。

 日常語に噛み砕いていうと、

商品の引渡しを請求できるはずの買主が、商品の受け取りを拒んだときは、商品を提供された時から、受取を遅滞したことに伴う責任を負わなければならない、

という意味になります。

 民法413条との関係で買主に目的物を受領する義務が導かれるかに関しては、これを肯定する見解と否定する見解の二つがあります。

 しかし、最高裁(実務)は債権者が受領義務を負うことに否定的な見解を採用しています。

 具体的に言うと、最二小判昭40.12.3民集19-9-2090は、

「債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法はの予想していないところというべきである。民法四一四条・四一五条・五四一条等は、いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては、供託・自動売却等の規定を設けているのである。されば、特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない旨の原判決は正当であつて、論旨は採用することができない。」

と判示し、

債権者にも信義則の要求する程度において給付の実現に協力すべき法律上の義務があり、給付の不受領はあたかも債務者が履行しない場合と同じく債務不履行となるものと解すべきである

との上告理由を退けています。

 要するに、特段の事情がない限り、債権者は給付を受領しなくても債務不履行にはならない(給付を受領する義務までは負わない)ということです。

 売買契約の約定の中に商品の受領義務が規定されていたり、契約解釈の問題として受領義務を導けそうな契約内容になっていたりすれば話は違ってくるかもしれませんが、単にネット上で物の売り買いをしただけでは、買主に商品を受領する義務が生じるとは言いにくいように思われます。

3.なぜ、このようなことを指摘するのか

 なぜ、このようなことを指摘するのかというと、記事を読んで受領義務があると誤信した方が面倒なトラブルに巻き込まれないように注意喚起するためです。

 受領義務が認められないというのは、

「商品を受け取ってもらえないので、契約を解除します。」

とは言えない(言っても法的な意味が生じない)ということです。

 記事の中で回答者の弁護士の方が、

「何度も代引きの受け取りを拒否する悪質な客は、その商品を受領する意思がないことを表明していると言えます。店側は、その客との契約を解除して、これまでの損害賠償を請求することができます。」

と述べているとおり、迷惑を被っている店としては、売買契約を解除したいと思うのが普通だと思います。

 その時、

「商品を受け取ってもらえないので、契約を解除します。」

という言い方をしたのでは、有効な契約解除の意思表示にならない可能性があります。

 実際、上記の最高裁で支持された原審(広島高判昭39.11.24LLI/DB判例秘書登載)は、

「控訴人の本訴における主張は、要するに、控訴人が被控訴人から注文を受けて請負つた控訴人主張の膨張タンクその他の器具の製作取付につき、約定の期限内に膨張タンク外一点の注文品を完成し、その他の注文品も殆んど完成したので、被控訴人にその引取方を求めたところ、被控訴人においてこれに応じない意思を明らかにしたので、右請負契約を解除して損害の賠償を求めるというのであつて、債権者たる被控訴人のいわゆる受領遅滞にもとづき右請負契約を解除したことによる損害賠償の主張に帰するものであるが、債権者は債権の目的物を受領すべき債務を負うものとはいえないから、債権者が債権の目的物の受領を遅滞したとしても、債務者において債権者の債務不履行を理由として契約を解除することはできないと解すべきである。」
「したがつて、控訴人の本訴請求は、その前提たる右契約解除が認められない以上、その理由のないことは明らかであつて失当として棄却を免れない。

と受領遅滞に基づく契約解除を前提とした損害賠償請求を棄却しています。

 受領遅滞を理由に契約関係を清算しようとしても、その効力は認められない可能性があるのです。

4.一般の方にとって法律文書は書けそうに見えても書きにくい

 では、どうすれば契約関係を清算することができるのでしょうか。

 この場合、受領遅滞ではなく、代金を支払ってもらえないこと(債務不履行)を理由に契約を解除することになります。

 代金の支払を催促し、それでも代金を払ってくれなかった時に、

代金の支払義務を履行してくれないから、契約を解除します。」

と通知することになります。

 このような形で契約関係を清算しておかないと、契約の解除の効力が生じたかどうかを巡って、更に余計な揉め事が起きかねないことになります。

 法律文書は、ちょっとした言い回しの違いで、その法的な意味内容が異なってくることがあります。契約関係を清算するつもりが、書きぶりをしくじったため、後になって派生紛争を生じさせたという例も見ないわけではありません。

 一般の方にはネットに掲載されている法律情報の真偽、書式の適否の判断は難しいと思います。書式の個別事案へのカスタマイズはもっと難しいと思います。法律文書を作成するにあたっては、面倒だとは思いますが、逐一、専門家に相談するなり、文言を専門家にチェックしてもらった方が安心だと思います。