弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

職場で暴力を振るったら契約更新は期待できない?

1.職場で暴力を振るって契約更新を拒絶された事件

 職場で暴力を振るったことなどを理由とする雇止めの適否が問題となった事案が公刊物に掲載されていました(大阪地裁平30.12.20労働判例ジャーナル87-99沢井製薬事件)。

 この件で原告になったのは、医薬品の製造販売及び輸出入等を目的とする株式会社の学術部学術グループで、部署内業務の補佐及びそれに付随する業務を担当していた方です。

 平成26年11月1日に雇用され、3か月の使用期間を経て、平成27年3月18日に、契約期間を同年4月1日から平成29年3月31日までとする有期雇用契約を締結しました。

 しかし、平成29年2月28日、被告会社は原告が職場で暴力事件を起こしたことなどを理由として雇止めにすることを通知しました。

2.暴力の内容

 本件で問題となった暴力は次のとおりです。

「e、f及びh(職場の同僚 括弧内筆者)は、平成28年11月10日午前10時頃、上記ケのSPASを確認してSPAS確認表に入力する作業の分担について話し合っていた。その際、eの向かいの席に座っていた原告が、eに対し、確認表の内容では、SPASの運用をテストする上で不十分である旨話かけてきた。eは、原告に後で話を聞く旨述べたものの、原告が更に話をやめることなく話し続けてきたことから舌打ちをした。これに対し、原告は、大声で『お前なんやねん、その口の利き方は。なめんとんのか。』と言って、eに詰め寄った。そして、原告は、両手でeのシャツの襟の辺りを掴んで上に引き上げた(以下『本件暴行』という。)。これに対し、eは、抵抗らしい抵抗は見せず、なされるがままになっていた。」
「gは、・・・、eの席の近くにあるコピー機辺りにいて書類をコピーしていたところ、原告の・・・声を聞いて振り返り、原告が本件暴行に及ぶのを目撃したため、原告を止めに入り、自席付近にいたkと2人がかりで両者を引き離した。」

3.裁判所の判断

 裁判所は次のように述べて雇止めを有効としました。

「原告は、勤務時間中、多数の従業員がいる中で、同僚の態度に怒って『なめんとんのか』などと大声を発しただけでなく、詰め寄って両手でシャツの襟辺りを上に引き上げたのであって、殴るなどの行為には及ばなかったものの、無抵抗の者に一方的にそのような行為を行い、他の同僚に2人がかりで引き離されるまでそれを止めなかった・・・。この点、eが舌打ちしたなど同人に全く非がないわけではないにしても、思わず声を荒げてしまったというだけであればともかく、更に詰め寄ってシャツの襟辺りを掴むといった身体に対する有形力の行使まで許容されるものではなく、明らかに過大な対応といわざるを得ない。これによって直接被害を受けたeの精神的ショックは大きく、また、このような事態を目撃した同僚が受けた衝撃も大きかったことは容易に推察される。そうすると、本件暴行は重大なものであったといわざるを得ない。

これらの事情からすれば、原告が本件暴行後に謝罪していること等を考慮しても、原告が本件契約の更新を期待することについて合理的な理由があるとはいえず、また、仮にその期待に合理的な理由があるとしても、被告による本件契約の更新申込拒絶は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性であるといえる。」

4.何があっても暴力はダメ

 雇止めの有効性の判断枠組みは二段構造になっています。

 具体的に言うと、先ず、

「有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」か否か、

が審査されます。

 ここで、契約更新への期待に合理的な理由があると認められる場合、次に、雇止めに客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められるか否かが審査されます(労働契約法19条柱書及び同条2号参照)。

 沢井製薬事件では、同僚への暴力行為が、客観的合理的理由・社会通念上の相当性の段階ではなく、契約更新への期待に合理的な理由があるかという部分で考慮されています。

 職場で暴力行為に及んだ場合、殴るなどの行為に及ばなかったとしても、契約更新を期待することさえダメだ、第一段階での審査さえクリアできないと判断されました。

 何があっても暴力が正当化されることはありません。暴力は言い訳が効きにくい非違行為の一つです。

 その職場で働き続けたい場合、何があっても暴力だけは振るわないことが肝要です。