弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

取締役解任に合理的な理由はいるのか?

1.ゴーン氏とケリー氏の取締役解任

 日産のゴーン氏とケリー氏が取締役を解任されたとの報道がありました。

 そのことに関し、弁護士資格を持つ方から、

「無罪推定の原則は、株主総会の議決を左右しない。」

「勿論、何らの明白な合理的理由もなく株主総会で解任の決議をすれば、当該株主総会の決議が無効とされる場合があり得るが、日産の内部で相応の調査が行われており、その調査自体には何の瑕疵もないということであれば、まず当該株主総会の議決が無効になったり、取り消されるようなことはない。」

との論考が寄稿されていました。

https://blogos.com/article/369775/

 無罪推定の原則と株主総会決議とが無関係であるのはその通りだと思いますが、「何らの明白な合理的理由もなく株主総会で解任の決議をすれば、当該株主総会の決議が無効とされる場合があり得る」

という部分は若干正確さに欠けるのではないかと思います。

2.解任に理由はいらない

 株式会社と取締役ほか会社役員との関係は、委任に関する規定に従うとされています(会社法330条)。

 民法上、委任契約は各当事者がいつでも解除することが可能とされています(民法651条1項)。解除権の行使には「受任者に対しその理由を告知することを要しない」(最三小判昭58.9.20判時1100-55)とされていることから、本条に基づく解除権は無理由解除権とも言われます。

 取締役と会社との関係も委任に関する規定が適用されるため、別段、合理的な理由はなくても取締役を解任することは可能です。ただ、当該取締役に相応の実績があり、かつ、決議を可決させるために多数派工作が必要になるような企業の場合、何等かの合理的な根拠・理由がなければ、人を説得しにくく、決議を可決させることが難しいというだけです。

 実際、多数派工作が必要のない会社、具体的には、一人株主が代表取締役である会社において、代表者と対立した他の取締役が一方的に解任されるという事態は、普通に仕事をしているだけでも、それなりに目にします。

3.解任された取締役はどのように守られるか?

 ただ、解任に対して取締役は何ら保護されないかといえば、そのようなことはありません。解任に正当な理由がない場合、解任された取締役は会社に対して損害賠償を請求することができます(会社法339条2項)。

 取締役の地位には、正当な理由がなくても解任は可能であるものの、その場合には金銭で解決するという制度設計がなされています。

 損害賠償額の基準になるのは、余程長期間でもない限り、基本的には残任期分の報酬相当額になります。

4.株主総会決議が無効になる場合

 株主総会決議の効力の争い方は、取消しの訴え(会社法831条)、不存在確認の訴え(会社法830条1項)、無効確認の訴え(会社法831条2項)の三つの方法があります。

 このうち、株主総会決議の無効理由は、「決議の内容が法令に違反すること」と書かれています(会社法830条2項)。

 取締役の解任決議は正当な理由がなくても可能とするのが法の建前であるため、普通に考えれば、合理的な理由がなくても、無効にはならないと思います。

 解任の手法があまりにも一方的であるといったように、決議の方法が著しく不公正であるといったことは、株主総会の取消事由にはなっても(会社法831条1項1号)、無効理由にはなりません。専門的に言えば、取消事由と無効理由とは別物として区別されています。