弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

勤務間インターバルが短かったことが業務起因性の判断にあたり考慮された例

1.勤務間インターバル

 勤務間インターバルとは、

「1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するもの」

をいいます。

「労働者が日々働くにあたり、必ず一定の休息時間を取れるようにする」

という考え方であり、ここ数年で関心が高まっています。

勤務間インターバル制度について

 勤務間インターバルの考え方は、

事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない」と規定する

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法2条1項など、法制度にも取り入れられています。

 こうした法制度への組み込みの一つに労災の認定基準への反映があります。

 令和3年9月14日に「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」という労災の認定基準の改正がありましたが、その際、評価項目に「勤務間インターバルが短い勤務」が追加されました。

脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832041.pdf

 こうした法制度への反映は、裁判例にも影響を与えています。近時公刊された判例集にも、疾病(右被殻出血)の業務起因性を判断するにあたり、勤務間インターバルが短かったことが指摘された裁判例が掲載されていました。福岡高判令5.9.26労働判例ジャーナル142-56 国・岡山労基署長事件です。

2.国・岡山労基署長事件

 本件は労災の不支給処分への取消訴訟です。

 原告(控訴人)になったのは、平成26年4月3日に右被殻出血(本件疾病)を発症し、平成28年3月24日に死亡したE(亡E)の遺族です。本件疾病が業務に起因していることを理由に遺族補償給付の請求をしたところ、岡山労働基準監督署長(処分行政庁)は支給しない処分(本件処分)を行いました。

 これに対し、原告の方は、本件処分の取消を求める訴えを提起しました。原審が請求を棄却したことを受け、原告が控訴したのが本件です。

 本件控訴審は、原審の判断を破棄し、次のとおり述べて、本件疾病の業務起因性を認めました。

(裁判所の判断)

「本件疾病発症前6か月間における亡Eの1か月当たりの時間外労働時間数は、発症1か月前97時間58分、2か月前50時間13分、3か月前67時間37分、4か月前82時間11分、5か月前94時間06分、6か月前97時間20分であり、発症1か月前及び6か月前はほぼ100時間に及んでいたほか、5か月前は90時間を、4か月前は80時間を超えていた。また、発症前6か月間の平均時間外労働時間は81時間に達し、発症前2か月間ないし5か月間の平均時間外労働時間もいずれも70時間を超えている。」

「したがって、認定基準に照らしても、亡Eは、時間外労働の点において、発症前の長期間にわたって疲労の蓄積をもたらす加重な業務に従事していたといえる。」

「亡Eは、平成25年10月20日から同年11月1日までの13日間、同年11月25日から同年12月6日までの12日間、平成26年1月6日から同月18日までの13日間、同年2月12日から同月22日までの11日間、同年3月3日から同月14日までの12日間に、それぞれ10日を超える連続勤務を行っていること、本件疾病発症前1か月の間に勤務間インターバルが11時間未満の日が7回存在していること(平成26年3月5日から同月6日、同月6日から同月7日、同月13日から同月14日、同月22日から同月23日、同月24日から同月25日、同月25日から同月26日、同月31日から同年4月1日)が認められ、このような勤務状況は、亡Eの疲労の回復を阻害し、疲労を蓄積させたものと考えられる。」

「また、亡Eは、本件疾病発症の9日前である平成26年3月25日から翌26日未明にかけて、18時間01分に達する長時間の労働を行っており、その内容も、取引先でのトラブルの対応という突発的かつ重要なもので、精神的な負荷が大きなものであったと考えられる。そして、次の勤務まで5時間程度しか勤務間インターバルがなかったこと、その前日(同月24日)の時間外労働時間が約5時間30分、その翌日(同月26日)の時間外労働時間が4時間30分であったことなどからすれば、同月30日が休日であったことを踏まえても、疲労蓄積の負荷を看過することはできない。

「そして、亡Eは、懇親会等においては付き合い程度に飲酒をしていたものの、その他の場面では特に飲酒をしておらず、従前、1日10本に満たない程度のたばこを吸っていたが、平成25年4月頃から禁煙していたこと、平成25年8月の健康診断においては、血圧が高めとの注意を受けたものの、その数値は基準値をわずかに上回るにとどまっていたことなどの事実が認められるところ、飲酒や喫煙についてその程度が著しいものとはいえないことなどに照らすと、これらの事情が、本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定するに足りるものとまでは認め難い。」

「以上によれば、発症前6か月間の亡Eの時間外労働時間数が長時間であったことに加え、連続勤務及び勤務間インターバルの不足などの負荷要因があったこと、亡Eに本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定すべき特段のリスクファクターも見当たらないことを総合的に考慮すれば、上記労働時間にはゴルフや会食の時間が一定時間含まれていること、亡Eは、概ね1週間に1日は休暇を取得していたほか、本件疾病発症前6か月間、毎月1度は2日間以上の休暇を連続して取得し、発症前1か月間においても3連休をとることができていたことなどの事情を考慮しても、本件疾病の発症は、業務に内在する危険が現実化したことによるものと認めるのが相当であって、業務起因性が認められる。

3.勤務間インターバルの短さが明示的に言及された

 以上のとおり、本件控訴審では、勤務間インターバルの短さが明示的に言及されたうえ、業務起因性が認められました。

 労災の認定基準の改正が民事訴訟(行政訴訟)における裁判所の判断に反映された事案として、実務上参考になります。