弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

生理休暇中に墓参りに行ったり商業施設に行ったりしたら、生理休暇を不正取得したことになるのか?

1.生理休暇

 労働基準法68条は、

「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」

と規定しています。これを生理休暇といいます。

 「生理日の就業が著しく困難」とは、「生理日において下腹痛、腰痛、頭痛等の強度の苦痛により、就業の困難な女性をいう」とされています。

 ここでいう「苦痛は、主観的なものであり、この苦痛についての厳密な医学的な調査は不可能であるので、就業が著しく困難であるかどうかは、その本人の証明にまつよりほかにはない。その証明の手続をあまりに厳格にすると、本制度の趣旨が没却されるおそれがある」と解されています(厚生労働省労働基準局編『労働基準法 下』〔労務行政、平成22年版、平23〕755頁参照)。

 それでは、生理休暇を取得して休んだ日に、墓参りや商業施設に行くなどしていたことが発覚した場合、どうなるのでしょうか? それは生理休暇を不正取得したという扱いになるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令5.9.28労働判例ジャーナル142-32 大阪府・大阪府教委事件です。

2.大阪府・大阪府教委事件

 本件で原告になったのは、大阪府の公立高等学校の教員の方です。

 次の二つの事由に基づいて停職3日の懲戒処分(本件処分)を受け、その取消を求めて出訴したのが本件です。

(処分事由)

「原告は、4月から6月までの間、認定外の自動車で通勤を行った上、故意にその届出を怠り、通勤手当を不正に受給し、また、この間、校長等から再三にわたり指導を受けたにもかかわらず、7月13日までの間、認定外の自動車での通勤を継続した。」(本件処分事由1)

原告は、8月17日及び10月30日に勤務を休んだ際、自ら運転し、買い物等に出かけるなどしたにもかかわらず、8月20日及び11月4日に生理休暇に係る虚偽申請をし、計6時間7分、同休暇を不正に取得した。」(本件処分事由2)

 本件の原告は、次のとおり述べて、生理休暇の不正取得を否認しました。

(原告の主張)

「月経期間中の体調には波があるから、勤務は著しく困難であっても、一時的な外出程度であれば可能なことも多い。したがって、原告が生理休暇中に外出していたという事実だけをもって生理休暇を不正取得したとはいえない。」

「原告は農業科の教諭であるところ、その業務の大部分が校内の農場での栽培管理であり、これらの作業は立位又は中腰で行うことも多く、肉体的負担が非常に大きいし、生徒に対する指導監督等の勤務による精神的負担も相当程度ある。」

「以上のとおり、原告が取得した上記各日の生理休暇は取得要件を欠くものではないから、本件処分事由2には事実誤認がある。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、本件処分事由2に係る生理休暇の不正取得の事実を認定しました。

(裁判所の判断)

・8月17日について

「認定事実・・・によると、原告は、同日、本件高校に出勤せず、原告の母を同乗させて自動車を運転し、午前11時30分頃から午後1時30分頃まで、高速道路を走行するなどして墓参りをして帰宅し、同月20日、同月17日について生理休暇を取得する旨の届出をして生理休暇を取得したことが認められる。」

「上記のような原告の行動に照らすと、原告は、同日の所定就業時間(午前9時30分から午後4時まで・・・)のうち、午前11時30分頃から午後1時30分頃までの2時間1分間から昼休み時間の45分を除いた1時間16分について、相当な時間自動車を運転して移動して私的用件をしていたことからすると、『生理のため勤務が著しく困難である場合』とはいえないから、生理休暇を不正に取得したというべきである。

・10月30日について

「認定事実・・・によると、原告は、同日、本件高校に出勤せず、自動車を運転し、午前11時20分頃から午後4時55分頃までの間、高速道路を走行するなどして自動車を運転して神戸の商業施設で飲食や買い物をして帰宅し、11月4日、10月30日について生理休暇を取得する旨の届出をして生理休暇を取得したことが認められる。上記のような原告の行動に照らすと、原告は、同日の所定就業時間(午前9時30分から午後4時まで・・・)のうち、午前11時20分から午後4時までの4時間40分間から昼休み時間の45分を除いた3時間55分については、生理休暇の要件である『生理のため勤務が著しく困難である場合』とはいえないから、生理休暇を不正取得したものというべきである。

・まとめ

「以上のとおり、本件処分事由2に該当する事実は、8月17日に1時間16分、10月30日に3時間55分(合計5時間11分)の生理休暇を不正取得した限度で認められる。そして、同事実は、職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例15条5号(別紙の6)所定の要件を欠くにもかかわらずこれがある旨の虚偽の申請をして休暇を不正に取得したものである。」

「そうすると、本件処分事由2は、教育公務員の職の信用を傷つけるとともにその職全体の不名誉となる行為であるから、地公法33条に反し、これにより同法29条1項1号に該当するというべきである。また、以上に説示したところによれば、本件処分事由2は、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であるから、同項3号に該当するというべきである。」

・原告の主張について

一般的に月経期間中の女性の体調には波があるとしても、上記・・・で説示したとおり、原告は、本件処分事由2の各日において、自動車を運転して高速道路を一定時間走行して墓参りや商業施設での飲食や買い物をしており、通常の社会生活を送ることができる状態であって、およそ本件高校での勤務が著しく困難であると認めることはできないから、生理休暇の要件を欠くものというべきである。したがって、原告の上記主張は、指摘する事情をもって本件処分事由2の成否を左右しないから、採用することができない。」

「8月17日は本件高校の夏休みで、生徒を指導する職務はないところ・・・、原告が同日の日中に一定時間継続して休憩をとることができない状況で校内の農場で栽培管理等の業務を行うことを義務付けられていたことをうかがわせる事情は見当たらず、原告は自己の体調に応じて適宜休憩をとることが可能であったというべきである。上記・・・で説示したとおり、原告は同日に自動車を運転して高速道路を一定時間走行して屋外で墓参りをしていたことからすると、かえって、原告は勤務が著しく困難である状態にはなかったことがうかがわれるのであり、これを左右する事情は認められない。

「また、上記・・・で説示したとおり、10月30日について、原告は同日に5時間にわたって自動車を運転して高速道路を一定時間走行して商業施設で飲食や買い物をしていたことからすると、原告が指摘する事情があったとしても、かえって勤務が著しく困難である状態にはなかったことがうかがわれるのであり、これを左右する事情は認められない。

「したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

3.解釈が硬直的に過ぎるのではないか?

 以上のとおり、裁判所は、生理休暇の不正取得を認めました。

 しかし、冒頭で述べたとおり、生理休暇における就業の困難性は主観的なものであるはずです。就業が著しく困難ではあっても、日中活動は行えるといった事態は当然に想定されます。

 この裁判所の判断は、個人的には、やや硬直的に過ぎるように思われます。