1.「等」の意味
法文や就業規則を見ていると、考慮要素が縷々列記された後に「等」で締めくくられている条文を目にすることがあります。
個人的な実務経験の範囲で言うと、この「等」の文言の中には、種々雑多な事情が含まれると理解される例が多いように思われます。「等」の前に記載されている例示的な考慮要素に「等」の内容を限定する効力を読み込もうとしても、そうした主張が認められたことはあまりありません。
しかし、近時公刊された判例集に、例示されている考慮要素に「等」の内容を限定する意義が認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、東京地判令4.6.16労働判例ジャーナル131-52 医療法人社団東聖会事件です。
2.医療法人社団東聖会事件
本件で被告になったのは、有償診療所(本件医院)や介護センター等の医療施設を経営する医療法人(被告法人)と、被告法人の経営を支配していた個人(被告B)です。
原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結していた方多数です。本件の原告らは、未払賃金や解雇予告手当、退職金等を請求する訴えを提起しました。
退職金との関係で問題になったのは、被告の就業規則の理解の仕方です。
被告の就業規則上、
「退職金は、3年以上勤務した者に対して、退職または解雇時の勤続年数、退職または解雇の理由、在職時の勤務状況等を考慮して支給します。」
と定められているだけで、金額が明記されているわけでも、算定式が規定されているわけでもありませんでした。
また、「等」の解釈として、被告は、
「被告法人が経営危機にある場合には、被告法人は退職金の支給をする義務を負わない。」
といった主張を行いました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告らの退職金請求を認めました。
(裁判所の判断)
「前提事実・・・のとおり、被告法人の就業規則においては、3年以上就労した被用者については、懲戒解雇でない限り、勤続年数、退職又は解雇の理由、勤務状況等を考慮して退職金が支給されることとされている。そして、証拠・・・によれば、被告法人では、
〔1〕3年以上勤務した者が退職する場合には、勤務状況等に余程の問題がない限り、5000円に在職月数を乗じた金額の退職金を支払っていたこと、
〔2〕これまでに勤務状況等に問題があるとされて退職金を減額された者はほとんどいなかったこと
を認めることができる。そうすると、退職金額に関する上記算出方法は、被告法人における労使慣行になっていたということができる。したがって、原告F、原告G、原告H、原告J及び原告Kには、それぞれ5000円に在職日数を乗じた額の退職金請求権が発生している(同人らの勤務状況等に関し、退職金を減額すべき事情は見当たらない。)。」
「この点について、被告らは、被告法人が経営危機にある場合には退職金を支給する義務を負わない旨を主張するが、就業規則51条1項に挙げられている退職金額に関する考慮要素(『退職または解雇時の勤続年数、退職または解雇の理由、在職時の勤務状況等を考慮し』)が専ら被用者側の事情であることからすると、容易に採用することはできない。」
「また、被告らは、被告Bの本件社員権取得に際し、原告らの退職金について説明を受けていなかったことを強調するが、仮にそうだったとしても、そのことは一時的には本件社員権取得に関する問題であり、被告法人と従業員との間の法律関係に直ちに影響を及ぼすものではない。」
3.例示列挙されている考慮要素に意味が認められた
本件の裁判所は、「等」の前の例示事項に、「等」の内容を限定する意味を読み込んでいるように見えます。
冒頭で述べたとおり、こうした読み込みが認められる例を目にすれば、決して多くはありません。本件は「等」の内容が使用者によって無限定に解釈されることを抑止するために活用できる可能性のある裁判例だと思われます。