弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

グループホームに寝泊まりしていた職員の労働時間性(不活動時間をどう考えるか)

1.グループホームの職員の労働時間

 障害者福祉施設で働いている方から、残業代が支払われないという相談を受けることがあります。話を聞いていると、昼も夜もなく施設利用者のケアにあたるといった過酷な労働環境で働くことを強いられている方が少なくありません。

 近時公刊された判例集に掲載されていた、福岡地判令3.8.24労働判例ジャーナル118-40 グローバル事件も、そうした過酷な労働環境のもとで働くことを余儀なくされていた方の事件の一つです。

2.グローバル事件

 本件で被告になったのは、触法障害者福祉を主たる事業内容とし、就労移行支援施設(おしあん)、グループホーム(漢村)、自立準備施設(清風荘)等を運営していた株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結して働いていた方2名です。

 被告と原告らの雇用契約の内容は、

就業場所 福岡県行橋市・・・(おしあんの所在地)

始業時間 午前9時

終業時間 午後5時

休憩時間 1時間

休日 月8日(土日)

とされていました。

 しかし、原告らは、漢村で寝泊まりしており、かなりの時間を利用者対応に割かれていました。

 これについて、原告らは、

「平日及びおしあんに出勤する土曜日は、午前9時から午後4時まで、おしあんにおいて、就労移行支援に関わる業務を行い、午後4時から翌日午前9時まで、漢村において、泊まり込みで利用者の対応業務を行い、おしあんに出勤しない土曜日及び日曜日・祝日は、一日中、漢村で利用者の対応や食事準備をしていたから、その労働時間は、別紙・・・のとおり、24時間365日であった。」

と主張し、時間外勤務手当等(残業代)を請求する訴えを起こしました。

 原告らの主張に対し、被告は、

「原告らが漢村で寝泊まりしていたのは、原告らの個人的な都合による。」

と反論し、寝泊まりしていた時間の労働時間性を争いました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告らが寝泊まりしていた時間のうち、かなりの部分の労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうが、〔1〕所定労働時間外に労働者が使用者の業務の範囲に属する労務に従事した場合に、それに要した時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)、〔2〕実作業に従事していない不活動時間が前記意味の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。(最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)そこで、各時間帯ごとに、労働時間該当性を検討する。」

・平日の午前6時から午前8時30分まで

「平日の午前6時から午前8時30分までの間、原告らは、利用者のトイレの介助などを行うことがあり・・・、これらの利用者対応は、被告の業務の範囲に属する労務にあたる。被告は、原告らの雇用契約には漢村に関するものは含まれていないと主張するが、被告が、おしあんと漢村の両方の施設を運営していること、漢村の利用者は、日中はおしあんで障害者向けの就労移行支援を受けていること、原告らがおしあんでも利用者らの支援を行っていることなどからすれば・・・、漢村における利用者対応も被告の業務に含まれるというべきである。cは、午前6時には宿直担当者が帰ること、利用者の中に精神的に不安定な者や、身体の不自由な者がいることは把握しているから・・・、原告らが利用者の対応を行っていることも知っていると考えられ、グループラインで利用者対応に関する指示がなされていたこと・・・からも、被告は、利用者対応をすることについて、原告らに指揮命令をしていたと認められる。したがって、原告らが利用者の対応を行った時間は、労働時間にあたる。」

「また、原告らには、利用者の対応をしていない不活動時間もあると考えられるところ、利用者から対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。

「ただし、原告らにも朝食を取るなど、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、午前6時から午前8時30分までの間の30分は労働時間にあたらないというべきである。」

「なお、原告aが漢村で勤務していなかった期間においても、基本的な働き方は変わらないから、労働時間、休憩時間は同様に考えるのが相当である。」

・平日の午後4時から午後9時まで

「平日の午後4時から午後9時までの間、原告らは、支援記録を書いたり、夕食の配膳等を行ったりする他、利用者の入浴の見守り・介助を行っていた・・・から、これらの時間は労働時間にあたる。」

「また、それ以外の不活動時間においても、介助等の利用者対応を求められるタイミングは、あらかじめ明らかになっているものではなく、不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。

「ただし、原告らも夕食を取ったり、風呂に入ったりしていたと考えられること、原告らは、週に3、4度、1度につき30分から1時間程度、自分の用事で外出していたこと・・・からすれば、原告らにも、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられるから、少なくとも午後4時から午後9時までの間の1時間は労働時間にあたらないというべきである。」

「なお、原告aが漢村で勤務していなかった期間においても同様である。」

・休日の午前6時から午後9時まで

「休日も、原告らは、利用者のトイレや入浴の介助や、支援記録の記載等を行う他、利用者の外出に同行するなどしていたから・・・、これらの時間は労働時間にあたる。」

また、それ以外の不活動時間においても、必要があれば利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。

「ただし、原告らも食事を取ったり、自分の用事で外出したりしていたことを考えると、原告らには、少なくとも朝に30分、昼に1時間、夜に1時間、合計2時間30分は、労働からの解放が保障されている時間があったと考えられ、これらは労働時間にあたらないというべきである。」

「なお、原告aが漢村で勤務していなかった期間においても同様である。」

・平日、休日の午後9時から翌日の午前6時まで

「原告らは、利用者が相談をしてきた時や、トイレの介助を頼んできた時は、宿直担当者に起こされ、利用者対応をしていたから・・・、これらの時間は労働時間にあたる。」

「また、それ以外の不活動時間においても、必要があれば起きて利用者対応をすることが予定されているといえるから、労働契約上の役務の提供が義務付けられているとして、被告の指揮命令下に置かれていたというべきであり、労働時間にあたる。ただし、原告らは、原告aが漢村で勤務していなかった期間を除いては、原告のうち一方が午前6時に起床して内鍵を掛ける場合は、もう一方が夜間対応をするというように、ある程度夜間にどちらが対応するかを決めていたこと、被告もそのような分担を禁止しているとはうかがわれないことからすれば、原告らは、それぞれ、2日に1日は夜間の利用者対応が義務付けられておらず、労働からの解放が保障されているというべきである。したがって、原告らは、平成29年5月から同年8月を除いた前後の期間については、午後9時から翌日の午前6時までが労働時間にあたる日と、労働時間にあたらない日が、交互に1日ずつあったというべきである。一方、平成29年5月から同年8月までの期間は、原告らはそれぞれ、一人で夜間の勤務をしていたのであるから、午後9時から翌日の午前6時までの間は、労働時間と扱うべきである。」

「ただし、漢村では、2、3ヶ月に1回、利用者がいなくなり、原告らが2名とも利用者を探しに行っていたから・・・、そのような場合は、実際に労務に従事したとして、労働時間として扱うべきである。支援記録によっても、利用者が逃走した具体的な日時は明らかではないが、利用者は、2、3ヶ月に1回、逃げ出していたから、3ヶ月に1度は、原告ら2名とも、午後9時から午前6時まで労働時間であると扱うのが相当である。」

3.不活動時間の労働時間性

 本件で目を引くのは、不活動時間の労働時間性についての判断です。

 寝泊まりして24時間365日利用者対応を行っていたとはいっても、文字通り24時間365日活動しているわけではありません。何もしていなかった時間も、相当数含まれていたはずです。しかし、裁判所は、そうした不活動時間のうち、かなりの時間を労働時間としてカウントしました。

 原告aの給与は月20万円、原告bの給与は月18万円と、必ずしも基礎賃金が高額であったわけではありません。しかし、カウントされる労働時間が膨れ上がっていた為、未払賃金部分の認容額だけで、原告aは796万2532円、原告bは1549万2245円の支払いを受けられる地位を手にしました。

 施設に寝泊まりして事実上24時間体制で利用者対応にあたっている職員の方の残業代請求は、金額が跳ねやすい類型の一つです。残業代が払われないことに疑問をお持ちの方がおられましたら、お気軽にご相談頂ければと思います。