弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

詐欺的サクラサイト商法-面談相談なく依頼を勧誘する自称弁護士には要注意

1.詐欺的サクラサイト商法

 ネット上に、

「『人生、終わった』副業サイトに登録した主婦 ポイント購入を繰り返し数日で30万被害…電子マネー詐欺の実態」

との記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191124-00000004-ryu-oki

 記事には、

「『人生、終わった。どうやって子育てしていけばいいのだろう』。声を震わせ、詐欺被害を語る本島在住の女性は今年7月から8月にかけて、県内で横行している電子マネーが絡む詐欺被害に遭った。子ども3人を抱えたシングルマザーの女性が、わずか数日で貯金の大半の約30万円を奪われた。その状況を涙ながらに明かした。」 
「パートの収入だけでは生活が厳しかった女性は今年7月、携帯電話から副業サイトに登録した。資産家とメールのやりとりをするという手軽な副業との説明だった。やりとりを数回したある日、『優良会員になれば多額の報酬がもらえる。それにはポイントの購入が必要』などと記載されたメールを受信した。」

「女性はコンビニエンスストアで電子マネーを購入。記載された指定先に電子マネーの使用に必要な暗証番号をメールで送信した。以後、女性の元には『報酬の支払いは外資系金融機関を経由するのでさらにポイントを購入してほしい』などと、言葉巧みに電子マネー購入を要求するメールが頻繁に届く。要求に応じ電子マネー購入や金融機関への送金を繰り返し、わずか数日で預金は底を突いた。」

『あなたの副業サイトは詐欺です。お金を取り戻しましょう』。女性の支払いが滞ったころ、弁護士を名乗る人物からメールが届いた。渡りに船と金を工面し、弁護士登録料などの名目で電子マネーを購入。これまでと同様に暗証番号をメールで送信した。しかし、これも詐欺だった。『電子マネーの購入方法もシステムもよく理解していなかった。24時間コンビニで支払いができ、慣れると銀行よりも手軽だった』と振り返る。」

「8月、友人の勧めで女性は警察を訪ね、詐欺の被害が発覚した。現在のところ犯人の特定には至っていない。女性によると、登録した副業サイトはネット上に今もあるという。

などと書かれています。

2.詐欺的サクラサイト商法

 記事にあるような詐欺の手法は、サクラサイト商法と呼ばれているものです。

 比較的よくある手法で、国民生活センターでも注意喚起されています。

〔詐欺的“サクラサイト商法”とは?〕

「“サクラサイト”とは、サイト業者に雇われた“サクラ”が異性、芸能人、社長、弁護士、占い師などのキャラクターになりすまして、消費者のさまざまな気持ちを利用し、サイトに誘導し、メール交換等の有料サービスを利用させ、その度に支払いを続けさせるサイトを言います。このような“サクラサイト”でお金を支払ってしまったという相談があとを絶ちません。国民生活センターでは、このような手口を“サクラサイト商法”と呼んでいます。」

http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/sakurasite.html

 冷静に考えて頂ければお分かりになると思いますが、手軽に多額の報酬がもらえる仕事はないと思います。仮に、あったとしても、そのことが公になることは先ずないと思います。新規参入者が殺到すると、現在そういった業態でもうけている人が損をするからです。

 あの手この手でポイントを買わせようとしてくるメールには注意が必要です。

3.自称弁護士に違和感を持つポイント

 記事の事件では「弁護士を名乗る人物」からも、お金をとられています。

 この自称弁護士は、メールで依頼を勧誘し、そのまま電子マネーでお金を受け取ったように読めます。

 しかし、本物の弁護士が上記のような形で事件を受けることは先ずありません。

 弁護士は職務基本規程という会規を守って業務をしなければなりません。

https://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/rules/society-laws.html#shokumukihonkitei

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/pdf/kaiki/kaiki_no_70_160525.pdf

 職務基本規程の29条1項には、

「弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない。

と書かれています。

 説明の方法に関しては、

「依頼者が理解できる方法によって行う。原則として、直接面談して説明を行い、その際、必要があれば、口頭による説明だけでなく、書面を利用するなどして、依頼者が理解しやすいように工夫すべきである。また、必要があれば、面談以外の方法(電話、ビデオ通話、手紙、メールなど通信手段を使う方法)も用いることがあろう。」

とされています(日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程 第3版』〔日本弁護士連合会、平29〕107頁)。

 職務基本規程上、事件を受任するにあたっては直接面談することが原則とされており、メール等の通信手段を使う方法は例外として位置づけられています。

 また、法律相談実務においても、非言語的な形で得られる情報は割と重要なことがあります。弁護士側からの質問に対する回答の際の言い回し、相談中の態度などから得られる情報は決して無視することができません。

 そうしたことから、一般的な弁護士が、面談相談という過程を経ることなく事件を受任することは、何か特殊な事情でもない限り、あまりないと思います(ついでに言うと、電子マネー+暗証番号で着手金等を受け取る弁護士も、私の感覚では、いなそうには思います。弁護士登録料という費目にも違和感があります。)。

 実在する弁護士は、日弁連のホームページから検索できるようになっています。

 https://www.bengoshikai.jp/

 しかし、最近は実在する弁護士の名前を騙って詐欺をする輩も珍しくありません。

 公開されている法律事務所の電話番号に電話をかけて、当該弁護士と直接話をすれば氏名冒用の有無は突き止めることができますが、自称弁護士と本物の弁護士とを見分けるにあたり、違和感を持つポイントは多いに越したことはないと思います。

4.副業サイト運営者に責任を追及する可能性

 メールのやりとりをしていた犯人が分からなくても、副業サイト運営者が分かっているのであれば、そこに対して責任を追及するという選択もあるかもしれません。

 以前、本ブログでも紹介しましたが、近時、詐欺業者に携帯電話を貸したレンタル業者の法的責任を認めた裁判例(仙台高裁平30.11.22判例時報2412-29)が公刊物に掲載されていました。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/09/07/161150

 記事にあるような被害規模(30万円)だと弁護士に依頼して割に合うかは微妙であす。また、上記のような裁判例はあっても、ツールの提供者への責任追及のハードルはそれなりに高いと思っています。そのため、責任追及が可能な事案はある程度限定されてくるとは思いますが、一定の条件さえクリアされれば、サイト運営者を相手に事件化すること自体は、それほど変ではないと思います。

 詐欺被害にあったお金を取り戻すことは決して簡単ではありません。楽観的な見通しを語ることができない場合も多いです。だからこそ、一般的な弁護士は面談相談で、相談者の弱みも含め可能な限り色々な情報を得ようとしますし、十分な情報が集まるまでは軽々に見通しを話したりしません。

 私の感覚では、この種の事件で、おいそれと「お金を取り戻しましょう。」と自信満々にメールで勧誘をかけてくる弁護士がいるとすれば、その時点で多少の違和感を覚えます。

 一般の人には弁護士の良否、偽弁護士と本物の弁護士を見分けるのは難しいかも知れませんが、信頼できる弁護士は、自分で情報収集(面談して自分の目で確かめることを含む)して見つける方が確実かと思います。