弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

同僚の女性従業員に嫌がられているのに好意を示し続けたことで雇止めとされた例

1.嫌よ嫌よも好きのうち?

 「嫌よ嫌よも好きのうち」という日本語表現があります。

 これは、

「主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、口先では嫌がっていても実は好意が無いわけではないと解釈する語。」

として使われる言葉です。

「嫌よ嫌よも好きのうち(いやよいやよもすきのうち)」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

 この言葉が生まれたのが何時で、当時の社会情勢がどうだったのかは分かりません。しかし、現代の職場では、到底許容される考え方ではありません。こうした感覚で異性の同僚と接していれば、普通に職場から排除(解雇・雇止め)されます。近時公刊された判例集にも、そのことが分かる裁判例が掲載されていました。東京地判令5.6.14労働判例ジャーナル143-48 ゲオストア事件です。

2.ゲオストア事件

 本件で被告になったのは、メディアショップ「GEO」の運営等を行う株式会社です。

 原告になったのは、昭和61年生まれの男性で、平成30年3月18日に被告との間でアルバイトとして有期雇用契約を締結し、同年4月1日以降、7回に渡って期間半年の雇用契約を更新してきた方です。

 しかし、勤務する店舗(本件店舗)で働いていた女性従業員e氏やf氏に対して不適切な言動を繰り返していたとして、令和3年9月30日付けで雇止めを受けました。これに対し、雇止めの無効を主張して、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告のe氏やf氏に対する言動は多岐に渡りますが、裁判所で認定された事実の中から一例を挙げると、次のようなものがあります。

・eに対する言動の例

「原告は、平成31年1、2月頃、e氏に対し、恋愛感情を抱くようになり、かわいいですねと述べるなどそれを隠すことなく伝えるようにしていた・・・。」

「原告は、平成31年2月2日、e氏に対し、『さっきの話ですけど、来週の水曜か土曜の昼当たりってどうですか?』、『ほかの日でも俺のシフト前でも全然あわせます。予定ついたら返信お願いしますね、』とのメッセージをLINEで送った。」

「e氏は、平成31年2月2日、原告に対し、『何の話か良くわからなかったんですけど...休みの日は予定があるんで...それに...彼氏が居るんでゲオ以外で会ったりするのはもうし訳ないですけど、ちょっと無理ですね。』などと記載したメッセージをLINEで送った。」

「原告は、平成31年2月2日、e氏に対し、『ゲオでg君のこと、つまり他の職場の人のことで色々話すのもどうかなと思って、今度どこかで話出来ませんかって意味だったんです。ごめんなさい彼氏のことも聞かないで急に...失礼でしたね。この話は忘れてください...今日はお疲れさまでした!』とのメッセージをLINEで送った。」

「e氏は、平成31年2月2日、原告に対し、『そおだったんですね。なんか申し訳ないです...お疲れ様でした-』などと記載したメッセージをLINEで送った。」

「原告は、平成31年2月2日、e氏に対し、『大丈夫です気にしないでくださーい』と記載したメッセージをLINEで送った。」

「原告は、平成31年2月13日、e氏に対し、『ゴメンやっぱり大丈夫じゃありませんでした。少しでいいから気にしてくださーい』などと記載したメッセージをLINEで送ったが、e氏からの返信はなかった。」

・fに対する言動の例

「原告は、令和元年5月から6月頃、f氏に対し、本件店舗の外に設置されていたトイレの清掃を男性従業員で行うことになったことになった際、『気にしないでください。変質者が出るそうですから』などと述べた。f氏は、原告に対し、『なにがおかしいんですか、どうせ私は狙われるような女性じゃないと言いたいのですか。』と述べたところ、原告は、『そんなつもりで言ったのではなく、あなたはそういうのに狙われかねないかわいい女性です。』、『お姫様を守るナイトになったつもりで掃除しているので気にしないでください』などと述べた。」

「原告は、令和元年7月頃、f氏に対し、『かわいいですね』などと述べたところ、f氏は、原告に対し、『ああそうですか。あなたは馬鹿なんじゃないですか』などと述べた。」

 こうした感じのエピソードが雇止めの時に向けて積み重ねられて行きましたが、裁判所は、次のとおり述べて、雇止めを有効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「f氏は、原告の自身に対する言動を不快に思っており、i前店長に相談するなどしていたこと・・・、原告は、i前店長から、f氏が嫌がっていることなどを伝えられ、接し方などについて指導を受けていた・・・にもかかわらず、f氏に対する接し方について改善が見られなかったこと・・・が認められる。」

「このような状況において、原告は、令和2年11月9日、f氏がトイレ掃除をしているトイレのドアをノックし,トイレから出てきたf氏を追いかけて話しかけた上、わざわざf氏と話をするために再度来店し、f氏がh氏に立ち会いを求めるなど、原告と話すことを嫌がっていることは明らかであったにもかかわらず、本件店舗から出ようとしたf氏にさらに話かけており・・・、上記行為は、従前から原告の言動に不快感を抱いていたf氏に対し、恐怖や不快感を強く感じさせ、多大な精神的苦痛を与えるものであったといえる。」

「それにもかかわらず、さらに、原告は、令和3年4月2日、トイレ掃除をしていた、f氏が入っているトイレのドアをノックし、f氏が一切話さず嫌がっていることは明らかでありながら、ドア越しに一方的に話かけた上、トイレから出てきたf氏を追いかけて、同人に話かけ、30分程度話をしたあげく、話足りないと考え、本件店舗に再度来店してf氏と話をしようとしており・・・、原告は、わずか5か月弱で、f氏に対し、同様の行為を行っており、f氏が泣きながらi前店長に電話していることからも、f氏に対して与えた精神的苦痛は極めて大きいものであった。また、閉店時間である深夜に、わざわざr店長やk氏が原告を待っていたことからも、本件店舗に与えた影響も小さくはなかった。 」

「そして、令和3年4月2日の後、r店長から、f氏と話をしていたことも、自力で対処する行為にあたるため、今後はそういったことはしないようにと伝え、e氏及びf氏に対して業務に関係のない接触しないように注意を受けていたにもかかわらず、同年6月14日、休日であったにもかかわらず、わざわざ本件店舗を訪れ、f氏に話かけており、度重なる指導にもかかわらず、改善が見られなかったといえる。(なお、原告は、シフトに関する話であるから、業務に関するものであり、上記指導に反しないと主張するが、原告がf氏のシフトについて話しをする業務上の必要性はなく、その内容からしても指導に違反していることは明らかである。)」

「以上に加え、その他にも、前記認定事実のとおり、e氏やj氏などの女性従業員に対する不快感を与える行動が度々あったこと・・・や、原告とf氏及びe氏のシフトが重ならないように配慮していたにもかかわらず、原告が勤務終了後に、f氏が勤務している際に再度来店したり、原告が勤務日でない(シフトが入っていない)日にわざわざ本件店舗を訪れてf氏などに話かけていること・・・なども合わせ考慮すると、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとはいえない。」

「原告は、原告の労働時間からすれば、雇止めをしなくても、シフトが重ならないなどの方法によって対処することが可能である旨主張する。」

「しかしながら、前記・・・で説示したとおり、原告が退勤後に再度来店したり、シフトが入っていない日に来店するなどして、接触していることからすれば、シフトの調整による対処することはできないといえるので、原告の主張は採用することができない。」

「その他、原告は、縷々主張するが、上記認定を左右するものではない。」

3.嫌がっている相手に好意を示し続けるのもダメ

 「デブ」「ブス」などの身体や容姿を揶揄する言動は論外ですが、「かわいいですね」などの好意を示す言葉も、相手が嫌がっていれば普通に問題になります。

 セクシュアルハラスメントは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と定義されており、褒め言葉や行為を示す言葉であれば問題ないという概念構成にはなっていません(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)【令和2年6月1日適用】参照)。

  法律相談や事件処理をしていると、「褒め言葉や好意を示す言葉なら問題ないだろう」と軽く考えている人を見かけることがありますが、これは決して軽く考えない方がいいです。解雇や雇止めに発展しかねない重大な問題です。

 大多数の人がそうしているとは思いますが、不快感を示されたら、そうした意思も尊重することが大切です。