弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

管理監督者というために必要な部下の数-全従業員の6%強・15名は多い?少ない?

1.管理監督者

 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。

 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。

 管理監督者とは、

「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

という意味であると理解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素をもとに管理監督者性を判断しています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ」〔青林書院、改訂版、令3〕249-250参照)。

 このうち①についていうと、スタッフ職の中に管理監督者性が認められるものがあることから明らかなとおり、部下がいることは必須の要件として位置付けられているわけではありません。とはいえ、労務管理上の決定権限の広狭を評価するにあたり、部下の数が重要な指標であることは否定できません。

 それでは、具体的にどの程度の割合・人数の部下を持っていれば、管理監督者性を肯定するにあたり十分だと判断されるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令元.11.7労働判例1252-83 国・川崎北労基署長(MCOR)事件です。

2.国・川崎北労基署長(MCOR)事件

 本件は労災の取消訴訟です。

 原告になったのは、自殺した労働者(亡B)の妻です。自殺に業務起因性が認められ、遺族補償年金給付・葬祭料給付が支給されたものの、給付基礎日額は亡Bが管理監督者であることを前提に決定されました。これに対し、亡Bは管理監督者ではなく、時間外勤務手当等の発生を考慮せず給付基礎日額を決定したことは違法であるとして、各処分の取消を求めて国を提訴したのが本件です。

 ここでは亡Bの管理監督者性が争点になりました。

 裁判所は亡Bの管理監督者性を否定しましたが、亡Bの所掌していた部下の数については、次のように判示しました。

(裁判所の判断)

「労基法41条2号の管理監督者とは、労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者をいい、具体的には、当該労働者が労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務や権限を担い、責任を負っているか否か、労働時間に関する裁量を有するか否か、賃金等の面において、上記のような管理監督者の在り方にふさわしい待遇がされているか否かという三点を中心に、労働実態等を含む諸事情を総合考慮して判断すべきである。そして、ここでいう経営者と一体的な立場とは、あくまで労務管理に関してであって、使用者の経営方針や経営上の決定に関与していることは必須ではなく、当該労働者が担当する組織の範囲において、経営者が有する労務管理の権限を経営者に代わって同権限を所掌、分掌している実態がある旨をいう趣旨であることに留意すべきであり、その際には、使用者の規模、全従業員数と当該労働者の部下従業員数、当該労働者の組織規定上の業務と担当していた実際の業務の内容、労務管理上与えられた権限とその行使の実態等の事情を考慮するとともに、所掌、分掌している実態があることの裏付けとして、労働時間管理の有無、程度と賃金等の待遇をも併せて考慮するのが相当である。」

「前記認定事実のとおり、本件会社の組織は、技術本部を含む3つの本部からなり、技術本部の下に4つの技術部が置かれていたところ、亡Bは、第3技術部に設けられた新川崎オフィスの下に置かれた本件グループのマネージャであったことが認められる。このように、本件グループは技術本部の下部組織である第3技術部の中に設けられた一部署に過ぎず、所属する従業員も17名と本件会社の全従業員244名の1割に満たない人数であり、しかも、亡Bが労務管理を行っていたのは部下全員の15名であるが、業務の進行管理を行っていたのはそのうちの6名にすぎなかったものである。そうすると、亡Bは本件グループという本件会社の限定された部署内において、部下従業員の労務管理及び一部の部下従業員の業務の進行管理を行っていたにすぎないというべきである。

3.6%強・15名では足りない

 公表される裁判例には、スタッフ職の管理監督者性を議論したものが多いせいか、部下の数・全体に占める割合を正面から議論した事案が判例集に掲載されることは、それほど多くないように思われます。そうした状況の中、管理監督者を基礎付けるに足りる部下の数・総従業員に占める割合を評価するにあたり、本裁判例は大いに参考になります。

 全従業員の6%も管理していない、部下の数も15名には及ばない、そうであるにも関わらず管理監督者として処遇されている方は、決して少なくないように思われます。こうした裁判例もあるため、部下が少なく、仕事に追われている管理職の方は、残業代が支払われないことに疑問を持ったら、本当に自分が管理監督者なのかを、弁護士に相談してみても良いかも知れません。希望して頂ける場合には、当事務所で相談をお受けさせて頂くこともできます。