弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

条件付採用期間中に訓告・懲戒処分を受けた公務員の採否

1.条件付採用

 公務員の採用は、最初は条件付のものになります。例えば、国家公務員法59条1項は、

「一般職に属するすべての官職に対する職員の採用又は昇任は、すべて条件附のものとし、その職員が、その官職において六月を下らない期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。」

と規定しています。

 これは民間の試用期間に相当する仕組みです。条件付(条件附)採用間勤務して「職務を良好な成績で遂行した」と認められない場合、該当の職員は分限免職等の措置をとられることになります。

2.条件付採用期間中の訓告・懲戒処分

 この「職務を良好な成績で遂行した」と認められるか否かについて、訓告・懲戒処分との関係で、難しい論点があります。

 公務員には「勤勉手当」という名前の手当があります。これは民間でいう賞与に相当するもので、業績評価によって支給率が異なる仕組みがとられています(人事院規則九―四〇(期末手当及び勤勉手当)13条参照)。

 業績評価の区分の中には、

「直近の業績評価の全体評語が下位の段階である職員及び基準日以前六箇月以内の期間において懲戒処分を受けた職員その他の人事院の定める職員」

という類型があります。上記の、

「人事院の定める職員」

には、

「訓告その他の矯正措置の対象となる事実があった場合」

などが含まれます(期末手当及び勤勉手当の支給について(昭和38年12月20日給実甲第220号)35項2号参照)。

 上述のような規定があるため、懲戒処分や訓告等の措置を受けた公務員は、それ以外の点でのパフォーマンスがどれだけ優れていたとしても、勤勉手当の支給において、ほぼ自動的に成績下位のグループと同様の評価を受けることになります。

 以上は国家公務員の場合を例にした説明ですが、これと類似した仕組みは、多くの地方公共団体でも採用されています。

3.条件付採用期間中の訓告・懲戒処分

 それでは、条件付採用期間中に訓告・懲戒処分を受けた公務員は、どのように取り扱われるのでしょうか。勤務成績下位グループと同様に取り扱われる以上、「職務を良好な成績で遂行した」と認められる余地はなくなってしまうのでしょうか? それとも、訓告・懲戒処分を受けたことと「職務を良好な成績で遂行した」と認められるか否かの判断は、リンクしないものとして、切り離して理解されるのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。昨日もご紹介した、京都地判令2.3.24労働判例ジャーナル108-38 京都府事件です。

4.京都府事件

 本件は、条件付採用された公務員に対し、学生運動をして無期停学中であることを秘していたことなどを理由にした分限免職処分の可否が問題になった事件です。分限免職された公務員が原告となって、その取消を求め、被告自治体を訴えました。

 被告自治体は、分限免職処分をするに先立ち、虚偽を述べて人事課職員を欺き、不誠実な対応を取り続けたことを理由として、原告公務員に対し、訓告(本件訓告)をしていました。被告自治体では、訓告がなされることが、勤勉手当において「良好でない」との成績区分に分類されること、査定昇給において「やや不良」の成績区分に分類されることと結びつけられる仕組みが採用されていました。こうした仕組みを踏まえ、被告自治体は、原告公務員を「その職務を良好な成績で遂行した」(地方公務員法22条1項)と認めることができないとし、分限免職処分を行いました。

 しかし、公務員として真面目に仕事に取り組んで良好な成績を修めたのかという話と、学生運動で無期停学になったことを秘匿したという話は、論理的に別の話だという理解も成り立たないわけではありません。

 そのため、本件では、訓告の対象になった条件付採用職員を、自動的に「その職務を良好な成績で遂行した」とは認められないとすることの可否が争点になりました。

 この問題について、裁判所は、次のとおり述べて、訓告と「その職務を良好な成績で遂行した」とは認められないとの判断を結びつけることを否定しました。

(裁判所の判断)

被告の人事評価制度においては、人事評価は職務行動評価と目的達成努力評価によって行うものとされ、これらの評価方法はいずれも、それぞれの被評価者ごとに求められる職務行動、努力の水準を設定し、当該被評価者の具体的な行動・努力を評価水準に照らして判定する絶対評価によって行われるところ、これらの人事評価結果の活用の一つとして被告で行われている人事評価結果の給与への反映に当たっては、上記の絶対評価による人事評価の評点を順番に並べ、分布率に沿って成績区分を決定するという形で、人事評価結果の相対化が行われているが、訓告以上の矯正措置を受けた者については、上記の分布率とは関わりなく、勤勉手当の成績区分においては「良好でない(B)」、査定昇給の成績区分においては「やや不良(B)」と分類されていることが認められる。

「このような被告の人事評価制度の仕組みに照らせば、訓告以上の矯正措置を受けた職員が勤勉手当及び査定昇給の成績区分で下位に分類されることは、これらの矯正措置を受けたことのない他の職員との比較において、勤勉手当や査定昇給といった給与の成績区分上は下位に分類されるにすぎないものであって、絶対評価による人事評価の評点を順番に並べた結果としての「SS」ないし「A-」の成績区分の分類とは、相対評価の前提が異なるものというべきである。すなわち、訓告以上の矯正措置を受けたことに伴う勤勉手当及び査定昇給の成績区分での下位の分類は、矯正措置を受けていない者との相対評価の結果であって、絶対評価による人事評価の相対化の結果ではないのであるから、矯正措置を受けたことに伴う給与上の成績区分をもって、人事評価としての勤務成績の評価、すなわち能力の実証が行われたものということはできない。また、訓告を受けたことがその理由となる非違行為の内容等に照らして絶対評価による人事評価で不利に扱われることはあり得るとしても、被告が主張するような、訓告の理由となった所為の如何を問わず、訓告を受けた職員が勤勉手当等の成績区分で下位に分類されることをもって、当該職員の勤務成績の評価を一律に原則として低いものとする人事評価を行うとすれば、それは、人事評価の実施それ自体と実施された人事評価結果の反映とを倒錯したものといわざるを得ない。

「この点について、確かに、被告においては、特別評価は実施されておらず、条件付採用期間中の職員を正式採用するか否かの人事評価の実施に当たっては、被告の裁量的な運用に委ねられていることは否定できない。しかしながら、前記・・・のとおり、条件付採用制度の趣旨、目的が職員の採用を能力の実証に基づいて行うとの成績主義の原則の貫徹にあることからすれば、条件付採用期間は、試験等では完全に検証できない職務遂行能力や公務員への適性の有無を現実の執務を通じて確認するための期間というべきものであるから、実地の勤務による能力の実証が行われなければならない。そうすると、絶対評価による人事評価が採用されている被告の人事評価制度の下では、本来であれば、原告の条件付採用期間中の能力の実証には、絶対評価による勤務成績の評価が用いられるべき筋合いであるものといえ、そうであるにもかかわらず、勤勉手当等の成績区分上の分類をもって人事評価を行ったとする被告の判断手法は、先の説示で指摘した問題点をも踏まえれば、能力の実証に基づいて採用を行うとする条件付採用制度の上記趣旨、目的に沿うものとはいい難い。そして、被告は、原告について本件訓告を受けたことに伴う低い評価を変更すべき特段の事情がなかった否かを検討し、それらの事情がなかったというが・・・、能力の実証として、いかなる項目でどのような検討が行われたのかは何ら明らかではなく、この点においても、被告の本件分限免職処分に係る判断手法は、能力の実証との観点から疑問がある。

したがって、被告の本件分限免職処分に係る判断手法をもって、原告の勤務成績が良好でなかったものとして原告に本件人事院規則10条2号及び4号に準じた分限事由が存在すると認めることは、相当ではない。

5.「訓告・懲戒処分=条件付採用を乗り切れない」ではない

 従来、条件付採用期間中の不安定な時期に、訓告・懲戒処分を受けてしまうと、分限免職処分を受けても、敢えて争おうという発想になる方は、少なかったのではないかと思います。

 しかし、本件の裁判所は、訓告・懲戒処分と、本採用しないこと(分限免職処分)を機械的・自動的に結びつける仕組みを否定しました。これは条件付採用された公務員の方の身分保障を考えるにあたり、画期的な判断だと思います。

 平素の職務の良し悪しとは関係ないのではないか-そうした理由で条件付採用期間中に訓告・懲戒処分を受け、分限免職となった方は、今後、それを当然のこととして受け入れるのではなく、法的に争うことができないのかを検討してみても良いのではないかと思います。