弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

定年後再雇用を拒否された人の地位確認請求

1.定年後再雇用を拒否された人の地位確認請求

 高年齢者等の雇用の安定に関する法律9条1項により、事業主は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、

① 65歳までの定年の引き上げ、

② 継続雇用制度の導入、

③ 定年制の廃止、

のいずれかの措置を講じなければなりません。

 平成30年11月に厚生労働省が公表した資料によると、雇用確保措置のうち最も割合の大きいのが「継続雇用制度の導入」で、全体の79.3%を占めます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000182200_00002.html

https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/000398101.pdf

 継続雇用制度は、

「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」

でなければなりません(同法9条1項2号)。

 ただ、希望すれば全員が無条件で採用されるかといえばそういうわけでもなく、

「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針 平成24年11月9日 厚生労働省告示560号」

により、

「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。」

と例外が規定されています。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/dl/tp0903-560.pdf

 例外が許容されている以上、継続雇用制度の枠組みから、こぼれおちてしまう人は、必然的に生じてしまいます。

 こうした人達の法的保護の求め方としては、二つの考え方があります。

 一つは地位確認請求です。継続雇用制度の適用対象外とした事業主の判断は違法であり、同制度の適用により労働契約上の権利を有する地位が得られていると主張する方法です。

 もう一つは損害賠償請求です。本来継続雇用制度の適用対象となったはずであるところ、適用対象外とした事業主の判断は違法であり、これによって受けた損害(逸失利益・慰謝料等)の賠償を主張する方法です。

 いずれの方法が主流かといえば、後者の損害賠償請求の方法だと思います。継続雇用とはいっても、継続雇用される前と後とでは契約関係が一旦断絶するため、継続雇用制度の対象外とすることが違法であったとしても、実際に契約が結ばれていないと、再雇用後にどのような権利を有していたといえるのかを特定することが困難だからです。

 こうした議論状況のもと、定年後再雇用を拒否された方について、地位確認請求を認めた裁判例が公刊物に掲載されていました。

 名古屋地判令元.7.30労働経済判例速報2392-3学校法人Y学園事件です。

 この事件は65歳定年制が敷かれていた学校法人で、68歳までの再任用規程が設けられていた事案なので、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度についての判例ではありません。

 しかし、この事件での判示事項は、同法の雇用継続措置の適用の可否を争う事件にも応用可能なもので、注目に値すると思われます。

2.学校法人Y学園事件

 この事件は懲戒処分を受けた経歴があることを理由に定年後再雇用を拒否された大学教授が、再雇用拒否は違法・無効であるとして、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案です。

 裁判所は次のとおり判示し、原告である大学教授の請求を認めました。

(裁判所の判断)

「労働者において定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である(労働契約法19条2号類推適用、最一判平成24年11月29日集民242号51頁参照。原告が解雇権濫用法理(労働契約法16条)の類推適用を主張するのも、これと同趣旨と解される)。」
「被告は、再雇用候補者としてふさわしい者等の要件を充足するか否かをその都度審議する必要があり、被告において、当然に再雇用する慣行は存在しないと主張するけれども、弁論の全趣旨によれば、□□大学において、平成24年度から平成28年度まで、65歳定年時に再雇用を希望した原告を除く43名全員が再雇用されていること、平成24年度から平成28年度まで、65歳定年時に再雇用を希望しなかった教授は3名であり、うち1名は懲戒処分を受けた者であること、平成25年度から平成28年度までをみると、再雇用された教員30名のうち、本人の希望により1年間の再雇用であった1名を除く29名全員が満68歳の属する年度末まで再雇用が継続されたことが認められること、原告には別紙1の役職歴があることや平成26年4月から平成28年3月まで専攻主任という役職にあったことも加味すれば、本件処分がされた点を除いては、原告において、定年時、再雇用契約を締結し、満68歳の属する年度末まで雇用が継続すると期待することが合理的であると認められる。」
「そして、本件処分は、懲戒事由該当性すら欠き無効であることは前示判断のとおりであり、再任用規程3条3号の欠格事由には当たらず、(1)の特段の事情にも当たらない。被告は、原告について再雇用の欠格事由に該当したため、再雇用の審査手続を一切していないというのであって、他に原告について再雇用を不適当とする事情の主張・立証はない。」
「これらによれば、被告による原告の再雇用の拒否は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、前記のとおり、被告と原告との間に、定年後も再任用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である。」

「そして、再任用規程(前提事実(2)エ)に(2)の実情を合わせ考慮すると、原告の再雇用後の給与面での待遇については、原則として、定年年齢時の俸給63万0700円(前提事実(1)イ(ウ)及び弁論の全趣旨)は少なくとも支給され、雇用期間については,原告が満68歳に達する年の学年度末である令和2年3月31日までになるものと解される。」

3.本件は給与の額等を認定しやすい事案であったが・・・

 被告大学には、定年後再雇用者の給与について、

「□□大学職員規則13条1項により採用された職員の俸給は、その定年年齢に達した年度末の俸給号俸を固有号俸とし、昇給を行わない。ただし、担当する業務の程度により、適宜減額することがある。」

という規定があり、給与額が幾らだったのかを認定しやすいという事情がありました。また、一般的には就労請求権は消極に理解されていますが、大学教授に関してはこれを認める見解も有力であり、実際、認めた裁判例も存在します。

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/54.html

 こうした特性のある事案であることから、本件を安易に一般化することはできません。しかし、それでも地位確認請求が認められたのは、注目に値する判断であるように思われます。

 高齢化が進む中、定年後再雇用を拒否された人の救済は一つの重要なテーマとなっています。法的措置をとりたいとお考えの方は、ぜひ、一度ご相談ください。