弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

忘年会が禁止されていたとしても、忘年会で同僚から暴力を振るわれた方には、会社に責任を追及できる可能性がある

1.使用者責任

 民法715条1項本文は、

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」

と規定しています。

 これは、簡単に言うと、従業員が事業活動に関連して第三者に損害を与えた場合、その雇い主も責任を負うという意味です。

 民法715条1項但書は、

「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」

と選任監督に相当の注意を払っていれば、使用者は責任を免れることができると規定しています。

 しかし、実務上、選任監督について相当の注意を払ったと認められる可能性は極めて低く、雇い主が従業員のしでかした不法行為に対する責任を免れることができるのは、不法行為が

「事業の執行について」

なされたとはいえない場合くらいです。

 そのため、仕事かどうかが曖昧な状況のもとで被害が発生した場合、被害者が加害者の雇い主に損害賠償を請求すると、「事業の執行について」なされた不法行為なのかが、しばしば熾烈に争われます。

 「事業の執行について」といえるのかが問題になりやすいのは忘年会などの非公式行事中の出来事です。

 近時公刊された判例集に掲載されていた東京地判平30.1.22労働判例1208-82フーデックホールディングスほか事件も、忘年会での暴行が「業務の執行について」なされたものであるのかが争われた事案の一つです。

2.フーディックホールディングスほか事件

(1)事案の概要

 本件は、忘年会の二次会で同僚から殴られた原告が、会社に対して使用者責任の規定を根拠に損害賠償などを請求した事案です。

 忘年会の二次会で仕事ぶりなどを非難するようなことを言われた原告が、

「めんどくせえ。」

と言い返したところ、同僚から暴行を受けたという経緯です。

(2)裁判所の判断

 裁判所は、次のように述べて、暴行が「事業の執行について」行われたことを認め、被告に対して60万円強の損害賠償額の支払を命じました。

(判決の要旨)

「本件忘年会は、新橋店のD店長の発案で、同店の忘年会と、定年退職者及び異動者の送別会の趣旨で開催されたものであり、一次会は、新橋店の営業終了後に同店近くの焼肉店で行われたこと、原告は、当日休みであったにもかかわらず、事前にD店長から参加を促されており、新橋店の従業員及びアルバイトが全員参加していること、二次会は、公共交通機関による帰宅が不可能な午前2時30分頃から開催されているから、一次会に参加した者は、事実上二次会にも参加せざるを得ない状況にあり、現に一次会に参加した者全員が二次会にも参加したことが認められる。
そうすると、本件忘年会は、一次会、二次会を通じて、被告会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われたというべきである。
「これに対し、被告会社は、本件忘年会のような行事は労務管理上禁止しており、本件忘年会は、業務外の私的な会合であると主張し、D店長もこれに沿う供述をする。」
「しかし、そもそも被告会社が本件忘年会のような行事を禁止していたと認めるに足りる客観的な証拠はないし、仮に被告会社が本件忘年会のような行事を禁止していた事実があったとしても、上記事情に照らせば、本件忘年会が被告会社の事業の執行につき行われたものであることは否定できない。
「そして、本件暴行は、本件忘年会の二次会において、被告会社の従業員である被告Y1によって行われたものであるから、被告会社は使用者責任を負う。

3.忘年会で同僚から酷い目に遭わされた方へ

 上述の裁判例から分かるとおり、裁判所は忘年会だから会社の事業とは関係がないといった硬直的な判示はしていません。忘年会の実体を見て「事業の執行について」行われたと認められのかを具体的に認定しています。このことは形のうえで忘年会が禁止されていた事案でも変わりません。

 これから忘年会の季節に入って行きます。加害者となった同僚には十分な賠償資力がないことも少なくありません。殴った雇い主に対する責任追及が可能か否かは救済の実効性を大きく作用します。

 忘年会で同僚から殴られたにもかかわらず、会社側から損害賠償を拒否され、違和感をお感じの方は、一度弁護士のもとに相談に行ってみると思います。