弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

育児休業取得者を職場から排除することへの抑止力-育休法に反する解雇には慰謝料まで請求できる場合がある

1.違法解雇と慰謝料

 一般論として言うと、解雇が違法・無効であることが認定されたとしても、当然に慰謝料まで請求できるわけではありません。

 労働契約上の地位があることが確認され、解雇されてからの賃金請求が可能になれば、違法に解雇されたことによる精神的苦痛も概ね慰謝されたことになると理解されているからです。

 しかし、これには幾つかの例外があります。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育休法」といいます)に違反する解雇を強行した場合も、その一つです。

 このことを示した近時の裁判例に、東京地判平29.7.3判例タイムズ1462-176があります。

2.東京地判平29.7.3判例タイムズ1462-176

(1)事案の概要・法令の定め

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「均等法」といいます)9条3項は、

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定しています。

 また、育休法10条は、

事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定しています。

 本件は、育児休業の取得後に解雇された女性従業員が、解雇は均等法9条3項や育休法10条に違反して無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認・解雇されてからの賃金の支払いのほか、違法な復職拒否・解雇によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求した事案です。

(2)裁判所の判断

 裁判所は次のように述べて、解雇は違法・無効であるとしたうえ、慰謝料50万円の支払いを被告に命じました。

(解雇の違法性について)

「被告は、本件解雇につき、弁護士からの助言を踏まえた既定の方針を変更してされたものであることを認めつつ、そうした方針変更の理由について、第2の4(2)ア(ア)eのとおり主張している。その理由は、ある意味、臆面がなく、率直に過ぎるものであるが、これを要約すれば、他の社員にとって、問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよく、原告が復職した場合にはその負担・落差に耐えられず、組織や業務に支障が生ずるではないかというものである。こうした方針転換の理由は、被告の主張限りのものではなく、Z4部長やZ5も率直に同旨を述べている(Z4調書13頁、Z5調書11頁)。」
「しかし、労働者に何らかの問題行動があって、職場の上司や同僚に一定の負担が生じ得るとしても、例えば、精神的な変調を生じさせるような場合も含め、上司や同僚の生命・身体を危険にさらし、あるいは、業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく、そうでない限り、事業主はこれを甘受すべきものであって、復職した上で、必要な指導を受け、改善の機会を与えられることは育児休業を取得した労働者の当然の権利といえ、原告との関係でも、こうした権利が奪われてよいはずがない。そして、本件において、上司や同僚、業務に生じる危険・損害について客観的・具体的な裏付けがあるとは認めるに足りない。
「以上によれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められず無効である。」

「また、既に判断した解雇に至る経緯・・・からすれば、被告(の担当者)は、本件解雇は妊娠等に近接して行われており(被告が復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、・・・均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、この意味からも本件解雇は無効というべきである。

(慰謝料請求の可否について)

「解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。」
「もっとも、本件においては、原告が第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば、育休法や就業規則の定め・・・に従い、被告において、復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ、原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、原告は、特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、被告は、原告がこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。
「そして、本件に表れた一切の事情を考慮すれば、被告のした違法な本件解雇により、原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は50万円と認めるのが相当であり、これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用5万円とを併せて、被告は損害賠償義務を負うものというべきである。」

3.客観的合理性・社会的相当性を欠く理由による育休取得者の排除は許されない

 本件の原告の方は、「問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよ(い)」との理由で育休取得後の原職復帰を拒まれ、「およそ受け入れ難いような部署・職務」(インドの子会社への転籍か、収入が大幅に下がる総務部のコンシェルジュ職に移ること)を提示されました。

 挙句、退職勧奨を受け、更には、解雇を敢行されてしまいました。

 しかし、判決が指摘するとおり、育休取得者は原則として元の部署・職務に復帰させなければなりません。また、仮に原告の方に何等かの問題があったとしても、改善の機会もなしに解雇するというのは行き過ぎであるように思われます。

 インドか閑職かを迫りながら退職勧奨を行い、これに応じないと解雇を敢行するといった手法は、やや強引であり、解雇を無効としたことは適切な判断ではないかと思われます。

 こうした強引な手法に対し、本来なかなか認められないはずの慰謝料を認めたことは、被害回復に資するとともに、育休取得者を職場から排除する動きへの抑止力となり得るもので、社会的にも意味のある判断だと思われます。

 ハラスメントの対象になり易い育休取得者ですが、法律上は、かなり手厚く保護されています。

 理不尽な扱いを受けたと感じたら、法的に何等かの救済が図れないのかを弁護士に相談してみても良いだろうと思います。