弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

無期契約労働者との間での労働条件格差を争いやすい有期契約労働者の類型(5年を超えて働いている人)

1.有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件格差が争われた事件

 労働契約法20条は、

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

と規定しています。

 読みづらい条文ではありますが、要するに、有期労働契約労働者と無期労働契約者との間の労働条件に、不合理な格差を設けてはならないことを定めたものです。

 労働契約法20条が施行されて以来、労働条件格差が問題になった事例の集積が進んでいます。

 その中の一つに、大阪高裁平31.1.24 労働判例1197-5日本郵便(非正規格差)事件があります。有期契約労働者と無期労働契約者との間の、各種手当や休暇に関する労働条件格差が問題となった事案です。

 この事案で、大阪高裁は、年末年始勤務手当、祝日休、夏期冬季休暇、病気休暇の各格差に不合理性が認められるか否かを判断するにあたり、かなり特徴的な判断を示しました。

2.5年を超えて働いている有期労働契約者という類型

 大阪高裁の判示が特徴的なのは、有期労働契約者の中から5年を超えて働いている場合を抽出して、不合理性が認められるか否かを議論しているところです。

 大阪高裁は各手当の不合理性を検討するにあたり、次のような判示をしています。

(年末年始勤務手当)

「本件比較対象正社員と本件契約社員とで年末年始勤務手当に関し労働条件の相違が存在することは、直ちに不合理なものと評価することは相当ではない。」
「もっとも、本件契約社員にあっても、有期労働契約を反復して更新し、契約期間を通算した期間が長期間に及んだ場合には、年末年始勤務手当を支給する趣旨・目的との関係で本件比較対象正社員と本件契約社員との間に相違を設ける根拠は薄弱なものとならざるを得ないから、このような場合にも本件契約社員には本件比較対象正社員に対して支給される年末年始勤務手当を一切支給しないという労働条件の相違は、職務内容等の相違や導入時の経過、その他一審被告における上記事情などを十分に考慮したとしても、もはや労契法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

「一審原告らのうち一審原告dを除く7名については、有有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年(労契法18条参照)を超えているところ、このような本件契約社員についてまで年末年始勤務手当について上記のような相違を設けることは、不合理というべきである。」

※ 筆者注

 「改正後の労契法施行日である平成25年4月1日」とあるのは、政令第267号「労働契約法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」により定められた労働契約法20条の施行時期を指しています。

(祝日給)

「本件において、一審原告らのうち一審原告dを除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、年始期間に勤務した場合の祝日給又は祝日割増賃金の支給の有無に上記相違を設けることは、不合理というべきである。」

(夏期冬季休暇)

「一審原告らのうち一審原告dを除く7名については,有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、夏期冬期休暇について上記相違を設けることは、不合理というべきである。」

(病気休暇)

「一審原告らのうち一審原告dを除く7名については、有期労働契約を反復して更新し、改正後の労契法施行日である平成25年4月1日時点で、契約期間を通算した期間が既に5年を超えているから、前記病気休暇の期間及びその間の有給・無給の相違を設けることは、不合理というべきである。」

3.5年以上の契約期間を有している人は有期雇用であったとしても、無期雇用労働者との間の労働条件格差を争いやすい

 労働契約法18条は、通算契約期間が5年を超える労働者に、無期雇用契約への転換権を付与しています。

 

(労働契約法18条1項 第1文)

「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。」

 

 大阪高裁の判示は、無期転換権を有している有期労働者の保護を手厚くするものです。

 一般的な有期労働契約者との関係では不合理とはいえない労働条件格差に関しても、「無期転換権を有している有期労働契約者」という類型の労働者との関係では不合理性が認められる場合が有り得ることになります。

 大阪高裁の判示に関しては、理論的根拠が不十分ではないかとの批判もあり、今後、このロジックがどこまで普遍性を持ってくるかは不透明です。

 しかし、無期転換権を有している有期契約労働者が無期契約労働者との格差是正を求めて行くための有力な根拠になることは確かだと思います。

 これまでの裁判例で不合理性が否定された労働条件に関しても、原告になったのが5年未満の有期労働契約者であるのであれば、5年を超える有期労働契約労働者の方が改めて訴訟を提起し、裁判所の判断を求めて行くことには一定の合理性があります。

 法的措置をお考えの方は、ぜひ、一度ご相談ください。