1.業界の忖度
ネット上に、
「『山口真帆』のNGT48卒業後を占う 業界人が『それほど甘くない』という理由」
という記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16481259/
記事は、
「彼女を応援したい気持ちはわかります。しかし、それだけでは芸能界は生き残れません。まず、劇場の運営会社であるAKSは、彼女の所属事務所でもある。ああした形で袂を分かった以上、事務所を離れざるを得なかったわけですが、そんな彼女を引き受けるところがあるでしょうか。AKSの設立メンバーの1人である秋元康さんは、すでに運営には携わっていないと、指原も擁護していましたが、AKSの松村匠取締役が“(秋元さんに)叱責されました”と会見で語ったように、今も厳然たる影響力を持つ実力者であることに変わりありません。当然、業界はAKSに対して忖度するでしょう。」
という「民放プロデューサー」の発言を引用しています。
しかし、業界全体で「忖度」して一人のアイドルの事務所の移籍を制限することが果たして法的に許容されるのかと思います。
2.共同の取引拒絶
独占禁止法に「共同の取引拒絶」という規制があります。
独占禁止法19条は
「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」
と規定しています。
不公正な取引方法は独占禁止法2条9項で定義されています。
また、公正取引委員会は一定の要件のもとで不公正な取引方法を指定することが可能です(独占禁止法2条9項6号)。
これを受けて、公正取引委員会は、不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号 改正 平成二十一年十月二十八日 公正取引委員会告示第十八号)という告示を出しています。
この第1項に「共同の取引拒絶」という類型があります。
これは、簡単に言えば、
「競争関係にある企業が共同で特定の企業との取引を拒んだり、第三者に特定の企業との取引を断わらせたりする行為」
を禁止する規制です。
https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_04.html
説明の分かりやすさから公正取引委員会のホームページでは「特定の企業」とされていますが、条文上の要件は「事業者」とされています。したがって、競争関係にある企業が共同で個人事業主をボイコットすることも、「共同の取引拒絶」との関係が問題になります。
3.人材と競争政策に関する検討会報告書-「移籍・転職」に係る取決め
公正取引委員会は「人材と競争政策に関する検討会報告書」という資料を公表しています。
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf
この中に、
「複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍・転職を制限する内容の取決めを行うことは、役務提供者の役務の提供先の変更を制限することになり、人材獲得市場における発注者(使用者)間の人材獲得競争を停止・回避するものであることから、独占禁止法上問題となることがある」
と書かれています。
芸能事務所が業界を挙げて特定のアイドルの所属を拒否するようなことをすれば、それは「共同の取引拒絶」との関係で適法性に問題が生じるものと思われます。
4.「共同」性要件の認定
仮に、特定のアイドルがどの芸能事務所からも一様に契約を拒絶されたとして、法規制の適用にあたり問題になるとすれば、それが共同でなされたものと認められるかどうかという点だと思います。
価格カルテルに関する事件ではありますが、東京高判平7.9.25判例タイムズ906-136は、共同性の要件について、
「複数事業者が共同して対価を引き上げたと認められるためには、『意思の連絡』が必要であるが、黙示のもので足り、事業者間に相互に拘束しあうことの合意の成立は必要でなく、相互に同内容又は同種の行為をするであろうことの認識があれば足り、他の事業者の行為を利用する意思までは必要ない。事業者が他の事業者の行動を予測し、これと歩調をそろえる意思で同一行動に出たような場合には、これらの事業者の間に意思の連絡があるものと認めるべきである。」
と判示しています。
要するに、他の業者も大方そうするだろうと予測して歩調を会わせたら、そこには共同性が認められるとするものです。
特定のアイドルと契約を結んだらどうなるかを忖度し、他の事業者もそうするだろうと思って歩調を合わせて所属を拒否したら、それが共同行為だと認定される可能性はあると思います。
5.芸能人を含むフリーランスの法的保護
山口さんに関していえば、
「既に内定 山口真帆 AKB不在事務所に移籍へ 多方面で評価高く」
との報道もなされています。
http://news.livedoor.com/article/detail/16480821/
そのため、本当に業界全体で忖度して特定のアイドルをボイコットするようなことがあるのだろうかという疑問もあります。
しかし、そういうことが仮に起きたとしても、問題を是正できる可能性はあるのではないかと思います。