弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

長時間労働で体を壊しながら、対象疾患ではないとして労災認定されなかった方へ

1.対象疾患

 労働者災害補償保険法7条1項1号は、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(業務災害)に関する保険給付を行うことを定めています。

 業務災害に関する保険給付がどういったものなのかは、労働者災害補償保険法12条の8に規定されています。

 そして、同条2項は、労働基準法75条に規定する災害補償の事由が生じた場合に、被災労働者や遺族からの請求に基づいて保険給付を行うことを定めています。

 労働基準法75条1項は

「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」

としており、同2項は、

「前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める」

としています。

 これを受け、労働基準法施行規則35条が、労働基準法75条2項の「業務上の疾病」を同規則別表第1の2に掲げる疾病とすることを定めています。

 労働基準法施行規則別表第1の2は「八」で、

「長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤りゆう又はこれらの疾病に付随する疾病」

が業務上の疾病として労災の対象になることを明らかにしています。

 これを受けて、脳・血管疾患等の労災の認定基準を示したものが、

基発第1063号 平成13年12月12日 改正基発0507第3号 平成22年5月7日「脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(以下「認定基準」といいます)

です。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-11.html

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf

 認定基準は労災の対象となる疾患を限定列挙しています。

 具体的には、

脳血管疾患として、(1) 脳内出血(脳出血)、(2) くも膜下出血、(3) 脳梗塞、(4) 高血圧性脳症が、

虚血性心疾患等として、(1) 心筋梗塞、(2) 狭心症、(3) 心停止(心臓性突然死を含む。)、(4) 解離性大動脈瘤が

掲げられています。

 認定基準では、

「脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、発症した疾患名は重要である」

と位置付けられていて、対象疾患以外の疾患で労災認定されることは、裁判例によって認められたものがありはするものの、基本的に異例といってよいのではないかと思われます。

 そうした状況のもと、対象疾患に掲げられていない疾患(ウイルス感染を原因とする劇症型心筋炎)で労災を認めた裁判例が公刊物に掲載されていました。

 大阪地判令元.5.15国・大阪中央労基署(La Tortuga)事件 労働判例1203-5です。

 この事件では、長時間労働で体を壊しながら、対象疾患ではないとして労災の枠外に置かれてしまった方に対する希望となるような判示がなされています。

2.国・大阪中央労基署(La Tortuga)事件

 この事件で疾患に罹患したのは、人気フレンチレストランで調理師として働いていた方です。

 平成24年11月24日に「急性(劇症型)心筋炎、急性心不全」と診断され、入院加療を受け一度は退院したものの、平成26年6月に死亡しました。

 直接の死因は脳出血であったものの、その原因は劇症型心筋炎の症状の改善のために行った補助人工心臓装着状態であると診断されました。

 本件で問題となったのは、遺族補償給付等の受給の可否をめぐり、この劇症型心筋炎に罹患したことが、業務上の災害に該当するかです。

 裁判所は次のように述べて、劇症型心筋炎への罹患を業務上の災害であると認めました。

亡Aは、上記認定事実(3)アないしカのとおり、本件期間において、平均して1か月当たり約250時間の時間外労働に従事していたと認められる。
「確かに、M医師が指摘するとおり、『何時間の労働であれば、細菌やウイルスに対する免疫がどの程度低下するか』については、明らかでなく、亡Aの免疫力の低下を直接的に示すデータがあるとはいえない(乙22)。しかしながら、認定基準においても、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられるのは、労働時間であり、その時間が長いほど、業務の過重性が増すとの指摘がなされている(認定事実(2)ア(イ))ところ、上記のとおり、亡Aの時間外労働時間数は、認定基準によって、業務と虚血性心疾患等の対象疾病の発症との関連性が強いと評価できる時間(発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間の時間外労働)を、長期間にわたって大幅に超えるものであるであって、かかる長期間かつ長時間にわたる時間外労働に従事したことは、睡眠時間の極端な不足、極度の肉体的及び精神的負荷を生じさせ、もって、疲労の著しい蓄積をもたらしたものであると認められる。そして、上記(2)で認定説示のとおり、疲労の蓄積は免疫力の異常を生じさせるものということができるところ、本件のように長期間にわたって、極端に長時間の労働に従事することによって、疲労の著しい蓄積が生じていた場合には、それに応じて、亡Aの免疫力に著しい異常が生じていたものと認めるのが相当である。

長期間にわたる、平均して1か月当たり約250時間の著しい時間外労働を含む長時間労働は、免疫力の著しい異常により、自然免疫反応の低下あるいは獲得免疫反応の過剰を来し、感染症を発症及び重篤化させて死亡に至る危険を内在するものであるということができ、本件疾病の発症、すなわち心筋炎の発症及びその劇症化は、亡Aの業務に内在する上記危険が現実化したものであると認められる。」
「被告は、医学的見地に照らすと、亡Aの業務と、心筋炎の発生及び心筋炎の劇症化との間の因果関係が認められず、認定基準においても、外因であるウイルスによる感染症の急性心筋炎を対象疾病として想定すべきとする医学的な根拠、新知見はないと判断されたなどと主張し、M医師、O名誉教授、K医師の各意見書を提出する(乙6、19、22)。」
「確かに、免疫反応は複雑なシステムであり、病原体であるウイルスの活性、増殖するウイルスへの持続的感染、宿主の免疫による心筋細胞に対する持続的傷害等が、それぞれ、心筋炎の発生及び劇症化にどのように影響を及ぼすのかといった点や、時間外労働時間数がどれほどの時間であれば、マクロファージ等自然免疫担当細胞の成熟化、活性化がどの程度妨げられ、NK細胞の数の減少や活性の低下がどの程度もたらされ、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞の増加がどの程度生じるかといった点などの、詳細な内容が医学的に解明されているとは認められず、それゆえに、M医師、O名誉教授及びK医師が述べるように、宿主である亡Aの遺伝的背景その他個体因子など、業務外の事情が、本件疾病の発症に作用した可能性を排除することはできない。」
「しかしながら、上記アのとおり、本件疾病の発症、すなわち、心筋炎の発症及びその劇症化には、本件疾病の発症前12か月間もの長期間にわたって、平均して1か月当たり約250時間の著しく長い時間外労働を含む長時間労働への従事という、免疫力に著しい異常を生じさせることの明らかな事情が作用したと考えられる一方で、かかる長時間労働以外に、本件疾病(心筋炎の発症及び劇症化)の発症に作用した可能性がある個別具体的な事情(例えば、亡Aの遺伝的背景等)の存在を認めるに足りる的確な証拠は認められないことからすると、業務外の事情が本件疾病の発症に作用した可能性は、具体的なものであるということはできない。したがって、M医師、O名誉教授及びK医師らによる指摘内容は、労災保険制度の下において、本件における亡Aに係る長時間労働と本件疾病発症との間の条件関係及び相当因果関係の存在を覆すものとはいえない。」
「なお、ウイルスによる感染症である本件疾病は、認定基準の対象疾病には含まれてはいないところ、上記のとおり、感染症の発症には様々な要素が複雑に作用しあうから、長時間労働とウイルスによる感染症との因果関係の有無を判断するに当たっては、とりわけ慎重な検討を要するものというべきではあるが、ウイルスによる感染症が認定基準の対象疾病に含まれていないとの事情は、個別事案の特殊性、特に本件のように極端に長い時間外労働に従事したという事情を考慮してもなお、医学的見地によれば、ウイルスによる感染症の発症には業務起因性を肯定する余地がないことを意味するものと理解することはできない。そうすると、本件疾病が認定基準の対象疾病に含まれていないことは、本件疾病の業務起因性を否定する事情であるとはいえない。

「以上によれば、客観的にみて、本件疾病の発症は、亡Aに係る業務に内在する危険が現実化したものであるといえ、亡Aの長時間労働と本件疾病発症との間に因果関係(条件関係及び相当因果関係)があると認められる。」

3.裁判所の論理の応用可能性

 判決の論理は、要するに、

① 月250時間を超えるような異様な時間外労働が長時間継続していた、

② ここまで酷い長時間労働が恒常化していれば、免疫力に著しい低下が生じていたと認められる、

③ ウイルス性心筋炎の発症、劇症化は、長時間労働によって引き起こされた免疫力の異常に内在している危険が現実化したものにほかならない、

④ そうであれば、他の可能性を基礎づける具体的な事情でもない限り、長時間労働と発症との相当因果関係は覆されない、

⑤ ウイルスによる感染症である本件疾病は認定基準の対象疾病ではないものの、それは必ずしも業務起因性を否定する理由にはならない、

というものです。

 とりわけ慎重な検討を要するとの留保はあるものの、業務災害と認められる疾病を認定基準の対象疾病に限定しない理解をとったのは画期的だと思います。

 また、長時間労働の事実から、免疫力の異常を媒介に、疾病との業務起因性を認めるという認定の手法も、未解明のことが多い領域での医学論争に踏み込まずに被災者を救済する手法として、応用の可能性のある意義深い判示ではないかと思います。

 この判決は、長時間労働で体を壊しながら、対象疾患ではないという形式的な理由で労災認定の救済を受けられなかった方にとっての希望となるものではないかと思います。

 このようなロジックがとれるのであれば、自分のケースでも労災が認められるのではないかとお考えの方は、ぜひ、一度ご相談頂ければと思います。

 

資格取得の「報奨金」、退職して返せと言われた時の思考手順・検討のポイント

1.資格取得の報奨金、退職して返せと言われたら・・・

 ネット上に、

「資格取得でもらった報奨金『30万円』、退職したら返金しないとダメ?」

という記事が掲載されています。

https://www.bengo4.com/c_5/n_10051/

 記事は、

「退職しようとしたら、資格取得報奨金の返還を求められました」

「ある人は、会社が奨励していた資格を取得し、30万円の報奨金をもらいました。その資格は『職務内容と密接に関連する資格』『会社が行う事業を実施するにあたり必須の国家資格』だったといいます。資格取得のため、自己負担して予備校に通って取得しました。」

という設例のもと、

「このような場合、報奨金は返金しなければいけないのでしょうか。」

と問題提起しています。

 これに対し、回答者となっている弁護士の方は、

「会社がいったん支払った報奨金につき、一定期間内に転職する場合などにその額を返還させる旨の合意をすることは、『違約金』や『損害賠償額の予定』の禁止を定めた労働基準法16条に抵触する可能性があります。」

「同条に抵触する場合、報奨金の返還に関する合意は無効となるため、これを返還する必要はありません」

と議論を進めています。

 しかし、本件のような相談の場合、いきなり労働基準法16条の解釈論に入って行くことは、思考の手順として少し違和感を覚えます。

2.最初に検討しなければならないのは、返金請求の法的根拠ではないか?

 報奨金は法律用語ではないため、法的な定義が定められているわけではありません。

 しかし、辞書的な意味では、

「勤勉、勤労をたたえ、さらなる努力を奨励する意味合いで贈られる金品。『寸志』などとして贈られることも多い。」

という言葉として用いられます。

https://www.weblio.jp/content/%E5%A0%B1%E5%A5%A8%E9%87%91

 一旦もらってしまったお金は、返す必要がないのが原則です(民法550条)。

※ 民法550条

「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」(あげる前であればともかく、一旦、あげてしまったお金は、後々返せということはできない。括弧内筆者)

 回答者の方は、

「会社がいったん支払った報奨金につき、一定期間内に転職する場合などにその額を返還させる旨の合意をすることは・・・」

と、あたかも合意があることを前提としたような回答をしているように読めます。

 しかし、本件のような事案の場合、先ず検討しなければならないのは、贈られた金を返せという会社側の請求について、合意ないし合意に代わるだけの法的な根拠が認められるかではないかと思います。

 具体的に言うと、

① 報奨金をもらうにあたり(あるいはもらった後)、一定期間内に退職する場合、報奨金を返すと会社側と約束した事実があるのかどうか、

② 報奨金制度の建付けとして、一定期間内に退職したら報奨金を返す義務が発生する根拠となる規定が存在するのかどうか、

を検討することになると思います。

 ①のような合意も、②のような根拠規定も存在しない場合、そもそも報奨金を返せと言う法的根拠が欠けるため、そのことを指摘すれば、労働基準法16条の解釈を展開するまでもなく、会社側の請求を排斥できるのではないかと思います。

 労働基準法16条の解釈論を展開するのは、論理的にはその後になるのではないかと思われます。

3.資格取得・報奨金の経過から退職するまでの年限をどうみるのか?

 もう一つ、回答者に欠けていると思われるのは、資格取得・報奨金の経過から退職するまでの年限についての言及がないところです。

 労働基準法16条は、しばしば修学費用や留学費用の貸付、立替に関連して問題となります。もう少し具体的に言うと、公表されている紛争実例としては、修学費用や留学費用を貸付け、一定期間働けば返さなくていいものの、その期間経過前に辞めるなら返してくれという約定の効力が争われるものが多いように思われます。

https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/02/09.html

 ここでいう「一定期間」に関し、(定めがないのは論外として)極端な期間設定がされていた場合、退職の自由を不当に制限するものとして、労働基準法16条違反が認められやすくなります。

 この「一定期間」の理解について、労働基準法14条に言及したうえ、

「事実上の制限となる期間が3年(特定の一部の職種については5年)を超えるか否かを基準として重視すべきである」

とした裁判例に、広島高判平29.9.6労働判例1202-163医療法人杏祐会元看護師ほか事件があります。

https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/08/18/005836

 また、国家公務員の留学費用に関しては、国家公務員の留学費用の償還に関する法律第3条により、留学の終了から5年経過する前に辞めた場合、逓減的に留学費用の返還義務が発生してくるという建付けになっています。

 本件の「報奨金」は資格取得に必要な学費を修学中に支給する仕組みではないため、その法的性質を推察しにくいところはあるものの、修学費用の実費支弁的な性格を持っていたとしても、資格取得・報奨金の受給から退職の意思表示をするまでの間に3~5年以上経過していれば、それほど心配する必要はない(労働基準法16条を根拠に会社からの請求を拒みやすい)と回答しても良かったのではないかと思います。

 設例には記載されていませんが、法律相談の実務では必ず報奨金を受給したのが何時か(使用者が投下資本を回収するのに十分な時間が経過しているのか)は聞くでしょうし、一般の方向けの情報提供としては、「一定期間」の目安についての言及もあって良かったのではないかと思います。

 

業務委託先からの「パワハラ」-安全配慮義務違反に基づく責任は追及できない?

1.業務委託先からのパワハラと安全配慮義務

 ネット上に、

「業務委託先からのパワハラ、もう耐えられない…違約金なしで契約は切れるか」

との記事が掲載されています。

https://www.bengo4.com/c_5/n_10050/

 記事は、

「パワハラを理由に、業務委託契約を終了することは可能か。」

「女性は、業務委託契約で週4日、オフィスで仕事をしているが、上司からのパワハラを理由に、退職を検討しているという。」

「相談者によれば、『理不尽に大勢の前で怒鳴られる』『仕事のやり方が気にくわない、あなたにやらせると失敗するからという理由で、業務開始から1カ月で、上司の独断でプロジェクトから外される』などの出来事があった。」

「現在は『その後の仕事から外されていて、仕事がない状態』だという。ほかの社員からも『これはひどいと抗議してくれている』そうだ。」

との設例のもと、

「仮に真の業務委託だったとして、業務委託でも『パワハラ』と主張できるのか。業務委託を途中で終了する場合、違約金は発生するのだろうか。」

という問題を設定しています。

 これに対し、回答者の弁護士の方は、

「検討すべきは、相手に不快な思いをさせているか、人格権を侵害しているといえるか(この場合には上司に、民事上不法行為責任が成立し、慰謝料を請求できる可能性が出てきます)という点です。これに該当すれば、パワハラにあたるということになります。」

「ただ、労働契約ではないので、パワハラ行為を放置した会社に対して安全配慮義務違反に基づく責任を追及することはできません」

との見解を示しています。

 しかし、 この回答は、読み手に誤解を与える可能性があると思います。

2.業務委託先からのパワハラ?

 前提として、業務委託先からの「パワハラ」という表現にはやや違和感があります。

 厚生労働省は職場のパワーハラスメントを

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

として定義しています。

 ここでは、パワーハラスメントの対象は「同じ職場で働く者」されており、労働契約の存在は明文で予定されているわけではありません。

 しかし、パワハラを厚生「労働」省が所管していることや、今年6月5日に公布された改正労働施策総合推進法30条の2が雇用管理上の措置等について、

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

と規定していることからも分かるとおり、パワーハラスメントは、雇用関係にある労働者の就業環境を保護することが念頭に置かれた概念です。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/198/meisai/m198080198038.htm

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/198/pdf/s0801980381980.pdf

 雇用契約、労働契約を結んでいるわけではない個人事業主・フリーランスに対するパワハラの内容に関しては、公的な定義があるわけではありません。

 そのため、パワハラにあたる/あたらないといったことは、日常用語としての「パワハラ」という語感に合致するかどうかという以上の意味を持ちません。

 本件のような場合、パワハラに該当するかどうかを議論する必要はありません。議論の基盤となる明確な定義がないのだから、個々人がパワハラと感じるかといった次元での話にしかならず、該当性を論じてもあまり意味がないからです。

 この場合、端的に、

「人格権を侵害するものであれば、不法行為に該当します。」

という回答で足りるのではないかと思われます。

3.労働契約でなければ、パワハラを放置した会社に責任を追及できない?

 「上司」なる人物からの「パワハラ」に対し、会社に責任を追及できないかのような書き方になっている部分(「労働契約ではないので、パワハラ行為を放置した会社に対して安全配慮義務違反に基づく責任を追及することはできません」の部分)も、誤解を招くのではないかと思います。

 先ず、当該「上司」の方に不法行為が成立する場合、民法715条に定められている使用者責任という規定を根拠に会社の責任を追及することが可能です。

※ 民法715条1項本文

「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」

 安全配慮義務があるかどうかに関わらず、民法715条を根拠に会社に責任を追及できる可能性はあります。

 また、安全配慮義務は必ずしも労働契約の存在を前提にしません。

 例えば、鳥取地判平21.10.16労働判例997号79頁鳥取大学附属病院事件は、医師である国立大学の大学院生が自動車を運転してアルバイト先病院に向かう途中、交通事故を起こして死亡したという事案において、
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別の社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負うところの、相手方の生命、身体、健康等を危険から保護するよう配慮する義務である。そして、亡Bは、被告と在学関係にあり、かつ、現実に被告設置のA大病院において診療行為等に従事していたものであるから、亡Bと被告との間に、安全配慮義務発生の基礎となる法律関係及び特別の社会的接触の関係があったことは明らかであり、被告の安全配慮義務の有無を検討する上で、亡Bが行っていた診療行為等の法的性質を論じる必要はない。本件においては、亡Bが従事していた業務(ここでは、その法的性質を問わず、人が継続的、反復的に従事する行為をいう語として用い、また、被告の指揮監督又は指導の及ぶ業務であったか否かも問わないで用いる。)の内容、業務に従事した時間、被告の亡Bに対する指揮監督又は指導の実態等を検討し、具体的な安全配慮義務の内容を確定することが重要である。

と安全配慮義務の存在、内容を導くにあたり、法的性質を論じる必要はないと判示しています。

 安全配慮義務が認められるか、認められるとしてその内容をどのように理解するのかは、社会的接触関係の実態によって判断されるのであり、労働契約なのか業務委託契約なのかといった法形式から判断されるわけではありません。

 業務委託契約であったとしても、社会的接触関係の実態によっては安全配慮義務が認められることは十分あり得るのであり、

「労働契約ではないので、パワハラ行為を放置した会社に対して安全配慮義務違反に基づく責任を追及することはできません」

という記述は正確さを欠いているのではないかと思います。

4.会社の相談窓口を検討できる可能性も検討されてよいのではないか

 会社の法令順守体制によっては、相談者の方は会社に法令違反行為(人格権侵害)への対応を求めることも考えられます。

 最一小判平30.2.15労働判例1181-5イビデン事件という判例があります。本件は、子会社の契約社員として働いていた女性が、同じ事業所で働いていた他の子会社の従業員男性から繰り返し交際を要求されたことなどを受けて、親会社に対し、法令遵守体制に基づいて相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して、債務不履行又は不法行為に基づいて損害賠償を求めたという事件です。

 最高裁は、

「上告人(親会社 括弧内筆者)は、本件当時、本件法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。その趣旨は、本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として、本件相談窓口における相談への対応を通じて、本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為(以下「法令等違反行為」という。)を予防し、又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。これらのことに照らすと、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、上告人は、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。
と、直接雇用関係で結びついているわけではない者からの相談に対しても、一定の場合、会社が相談内容等に応じて適切な対応をすべき義務を負うことを認めています。

 記事の事例においても、会社が法令順守体制の一環として、特に主体を限定することなく、会社で働いている人からの相談に応じるような仕組みを設けている場合、信義則上の措置としてハラスメントへの対応を求めることも、考えられるのではないかと思います。

5.会社に対しては何もできないと絶望することはない

 労働者性の認められない業務委託契約の受託者だからといって、ハラスメントを受けた時に何も言えないということはないと思います。

 先例となる判例に乏しいうえ、研究も十分に蓄積されているとは言いにくい領域であるため、結果を請け合うことはできませんが、安全配慮義務や信義則上の措置の履行を求めて行く理屈自体を構築できないわけではありません。

 労働契約でないから安全配慮義務の履行や責任追及はできないと諦めてしまうのは、やや早計ではないかと思います。

 

不倫相手の妻に協力するリスク

1.不倫相手の妻に協力するリスク

 ネット上に、

「『離婚調停に協力して』頼んできたのは、不倫相手の妻だった」

という記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_3/c_1001/c_1350/n_10047/

 記事では、

「過去に不倫をしていた女性が、『相手の妻から、離婚調停に協力して欲しいと言われている』と、弁護士ドットコムに質問を寄せました。不倫相手とはすでに別れており、その際、妻に10万円の慰謝料を渡しています。8年前のことでした。」

「その際、肉体関係は認めませんでしたが、実は不貞行為はありました。」

「妻は、複数女性との不貞行為を理由に離婚を要求しているものの、夫は事実を認めないため、書面で証言して欲しいと望んできました。相談者は『当時、家庭内の不仲を聞いていましたが、私も家庭を持ち、いかに甘い判断で相手の発言を鵜呑みにしてしまったか反省しております』として、妻に協力したいと考えています。」

「ただ、自分が慰謝料を支払わなくてはいけないのであれば、証言はできないとも考えています。女性が妻に協力する場合、逆に慰謝料を請求される可能性はあるのでしょうか。」

との設例のもと、慰謝料請求をされるリスクについて論じています。

 これに対し、回答者の弁護士は、

「相談女性が協力する場合には、妻に対して『仮に肉体関係等が発覚したとしても妻から相談女性に対して不貞慰謝料等の要求は一切しない』旨の合意書の作成をお願いし、当該合意書が作成された後で妻に協力するという方法をとればよいと思います。」

「ただし、こうした申し入れ自体、肉体関係の存在を推認させる行為ですので、妻の真意を見極めて信用できると思えた場合にのみ申し入れを行うべきでしょう」

と回答しています。

 しかし、金銭を請求されるリスクの説明として、これでは少し不十分かなと思います。夫の存在が考慮されていないからです。

2.共同不法行為と求償

 不貞行為は、婚姻関係にある方と、相手が婚姻していることを知りながら性交渉を持った方との共同不法行為であると理解されています。

 共同不法行為というのは、

「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加え」

ることをいい、この場合、

「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」

ことになります(民法719条1項1文)。

 連帯して責任を負うというのは、請求権者側からみると、損害全額を上回る請求はできないものの、どちらにも損害全額の賠償を請求できるという法律関係をいいます。

 例えば、夫の不貞行為により、妻が200万円の慰謝料を請求する権利を取得したとします。

 この場合、妻は、夫に対しても、夫の不倫相手に対しても、200万円全額の損害の賠償を請求することが可能です。しかし、夫か不倫相手の一方から200万円全額の賠償を受けてしまったら、他方に対して、それ以上の請求をすることはできません。

 これが「各自が連帯してその賠償の責任を負う」という言葉の意味内容です。

 また、自分の負担部分を超えて被害者に損害賠償金を支払った共同不法行為者は、他の共同不法行為者に負担の分担を求めることができます。

 これを求償といいます。

3.不貞行為と求償

 不貞行為の場合にも、求償は問題になります。

 損害賠償の全額を支払った側が、一緒に不貞行為に及んだ相手方に損害の分担を求めることは、実務上、決して珍しいことではありません。

 例えば、東京地判平17.12.21LLI/DB判例秘書登載は、不貞行為を理由として慰謝料等164万0573円を支払った側が、一緒に不貞に及んだ相手方に対して行った求償金請求について、70万円を分担するよう命じています。

4.記事のような相談では、夫からの求償の可能性を意識しなければならないのではないか

 記事の回答は、夫からの求償の可能性についての説明が欠けている点で、問題があるのではないかと思います。

 所掲の合意書によって、妻からの慰謝料請求は行われないかも知れません。

 しかし、共同不法行為者の一方に対する債務免除の効力は他方には及ばないのが原則です。最高裁は、妻(上告人)が夫の不貞行為の相手方(被上告人)に慰謝料を請求した事案で、

上告人は、本件調停において、本件不法行為に基づく損害賠償債務のうち克正の債務のみを免除したにすぎず、被上告人に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべきであり、本件調停による債務の免除は、被上告人に対してその債務を免除する意思を含むものではないから、被上告人に対する関係では何らの効力を有しないものというべきである。

と判示しています(最一小判平6.11.24判例タイムズ867-165)。

 この裁判例では、

「民法七一九条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法四三七条の規定は適用されないものと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第四三一号同四八年二月一六日第二小法廷判決・民集二七巻一号九九頁参照)」とも判示されています。

※ 民法437条

「連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。」

 記事に掲げられている合意書は、「不貞慰謝料等の要求は一切しない」というものです。これは字義通りに読めば、単に権利の不行使を約束するものにすぎず、債務免除の意思表示ですらないように思われます。

 こうした文言の合意書を取り付けたとしても、夫からの求償は防げない可能性が高いのではないかと思います。

 つまり、妻に協力して不貞行為の事実を証言した場合、仁義の問題として妻からの慰謝料請求は受けないかもしれませんが、不貞行為の慰謝料を支払わされた夫の側から求償権を行使される可能性が否定できません。

 求償されてお金を払わなければならないとすれば、相談者にとっては、結局誰にお金を払わなければならないのかという問題にすぎません。

 お金が出て行くことを心配する相談者へのアドバイスとして、夫からの求償のリスクに言及しないのは、回答として、やや不十分であるように思われます。

5.他人間の紛争に介入するのは慎重になった方がいい

 紛争への関与には、負担もリスクも生じるのが一般です。自分の身を安全圏に置いたまま、人を懲らしめるのは非常に困難です。

 何か特殊な事情・特別な利害関係でもあるのであればともかく、自分から進んで他人間の紛争に首を突っ込むことはリスクにしかならないことが多いため、あまりお勧めはしません。

 特に、記事にあるような事案への介入は、全く相談者の経済的利益につながらない反面、求償のリスクだけは負うことになるため、私なら合意書云々などということは言わず、丁重に協力要請をお断りすることを勧めるのではないかと思います。

 

職場のオープンスペースで男女が戯れ合うことはセクハラに該当するか

1.職場での「壁ドン」

 職場のオープンスペースで男女が戯れ合っていることに対し、周囲が眉をひそめていることがあります。風紀の乱れを懸念して、勤務時間中の男女間での戯れ合いを快く思わない方は、相当数いるのではないかと思われます。

 セクシュアル・ハラスメントというと、性的な関係の要求を断った労働者を解雇するなどといったように、性的な言動と不利益な処分とが対価的に結びついているものをイメージする方が多いのではないかと思います。

 しかし、セクシュアル・ハラスメントは、対価的なものに限られるわけではなく、

「労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」(環境型セクシュアル・ハラスメント)

まで広く含まれます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133471.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000133451.pdf

 近時公刊された判例集に、職場のオープンスペースで「壁ドン」をしたことがセクシュアル・ハラスメントに該当するかが問題になった裁判例が掲載されていました。

 「壁ドン」というのは「壁を背にした一人に対し、向かい合って立つ一人が壁にドンと手をつき顔を接近させるポーズ」を指す新語です。

https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00031

2.東京地判平30.1.12判例タイムズ1462-160

 問題の裁判例は、東京地判平30.1.12判例タイムズ1462-160です。

 本件で原告になったのは、女子大学の男性教授の方です。

 幾つかのセクシュアル・ハラスメント行為を理由に、懲戒処分として免職処分を受けました。問題になったセクシュアル・ハラスメント行為の一つが、被告大学の期限付助手を務めていた既婚女性に対する「壁ドン」です。

 被告大学のハラスメント防止規程では、セクシュアル・ハラスメントは、

「教職員が他の教職員、学生などの関係者を不快にさせる性的な言動などをい(う)」

とされていました。

 「壁ドン」のセクシュアル・ハラスメントへの該当性は、免職の有効性に関する議論の中で判断されています。

 裁判所は次のとおり判示し、「壁ドン」がセクシュアル・ハラスメントに該当することを認めました。

(裁判所の判断)

「原告は、平成26年10月ころ、被告大学内の教室前廊下において、周囲に学生もいる中で、悪ふざけをしようと考え、壁を背にして立っていたBに近付き、脈絡なく『壁ドン!』と言いながらBと正対した状態で片方の手の平をBの頭部付近の壁に押し当て、同人が身動きできない状態にして、Bに不安を感じさせたことが認められる。原告とBとの間には、社会通念上、そのような悪ふざけが暗黙に許容されるような男女交際等の関係はなかったから(前記1(1)イ)、この行為は客観的に見ても、Bに対し何ら正当な理由なく、非常に接近して、著しく不安を覚えさせる行為で、性的な意味も多少なりとも帯びているから、セクハラに該当する。また、Bの同意如何にかかわらず、周囲に学生もいる状況で男女の教職員の間で、そのような悪ふざけに及ぶことは、教育・研究・就労の場としての風紀を乱し、教員としての品位を損なう幼稚な言動というべきであるが、当時、原告には自己の言動を何ら問題視する意識がなかったことも認められる(原告尋問54頁)。悪ふざけという動機は何ら酌量に値しない。
「証拠(乙5の27頁)及び弁論の全趣旨によれば、Bは、ハラスメント防止対策委員会の事情聴取で、本件懲戒事由2について話す際、笑顔を見せることがあったとは認められるが、原告の言動にあきれ返った苦笑い又は同委員会委員に対する愛想笑いと推認されるから、原告の言動に不快感を抱いていなかったことを示す態度とはいえない。
「前記アの原告のセクハラの後、Bが直ちに原告に抗議したり、不快感を露わにしたりしたことを認めるに足りる証拠はないが、これがセクハラを否定する事情に当たらないことは、前記(2)エと同様である。」

3.異性側の同意があろうがなかろうが、オープンスペースでの戯れ合いは不適切

 本件では、女性側に不快感があったことが認定されています。

 しかし、

Bの同意如何にかかわらず、周囲に学生もいる状況で男女の教職員の間で、そのような悪ふざけに及ぶことは、教育・研究・就労の場としての風紀を乱し、教員としての品位を損なう幼稚な言動というべきである」

との文言から読み取れるとおり、裁判所は同意があろうがなかろうが「壁ドン」は品位に欠ける風紀紊乱行為に該当するとしています。

 したがって、仮に女性側に同意があったとしても、周囲に人がいるような状況での「壁ドン」は非違行為に該当すると判断されていた可能性が高いと思われます。

 本件では、

継続的な人間関係では、不快な出来事があっても、その出来事を棚上げして、人間関係の円満保持を優先しようとすることもしばしば見かけられることであるから、Bの不快感がそのような棚上げの余地がないほどに直ちに人間関係が外見的にも決裂するほど重大かつ深刻なものではなかったと見る余地があることを超えて、不快感がなかったことを推認させる事情とはいえない」

との経験則が示されています。

 セクシュアル・ハラスメントが問題となる事案において、相手方や周囲からの抗議や不快感の発露がなかったことは、抗弁として有効打にはなりにくい傾向があります。

 また、同意があろうがなかろうが、職場での男女の戯れ合いは風紀紊乱行為として消極的に評価されるリスクがあります。

 失うものの多い立場にいる方は、職場での立ち居振る舞いに関しては、特に注意を払っておく必要があります。

 

育児休業取得者を職場から排除することへの抑止力-育休法に反する解雇には慰謝料まで請求できる場合がある

1.違法解雇と慰謝料

 一般論として言うと、解雇が違法・無効であることが認定されたとしても、当然に慰謝料まで請求できるわけではありません。

 労働契約上の地位があることが確認され、解雇されてからの賃金請求が可能になれば、違法に解雇されたことによる精神的苦痛も概ね慰謝されたことになると理解されているからです。

 しかし、これには幾つかの例外があります。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、「育休法」といいます)に違反する解雇を強行した場合も、その一つです。

 このことを示した近時の裁判例に、東京地判平29.7.3判例タイムズ1462-176があります。

2.東京地判平29.7.3判例タイムズ1462-176

(1)事案の概要・法令の定め

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下、「均等法」といいます)9条3項は、

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定しています。

 また、育休法10条は、

事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

と規定しています。

 本件は、育児休業の取得後に解雇された女性従業員が、解雇は均等法9条3項や育休法10条に違反して無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認・解雇されてからの賃金の支払いのほか、違法な復職拒否・解雇によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求した事案です。

(2)裁判所の判断

 裁判所は次のように述べて、解雇は違法・無効であるとしたうえ、慰謝料50万円の支払いを被告に命じました。

(解雇の違法性について)

「被告は、本件解雇につき、弁護士からの助言を踏まえた既定の方針を変更してされたものであることを認めつつ、そうした方針変更の理由について、第2の4(2)ア(ア)eのとおり主張している。その理由は、ある意味、臆面がなく、率直に過ぎるものであるが、これを要約すれば、他の社員にとって、問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよく、原告が復職した場合にはその負担・落差に耐えられず、組織や業務に支障が生ずるではないかというものである。こうした方針転換の理由は、被告の主張限りのものではなく、Z4部長やZ5も率直に同旨を述べている(Z4調書13頁、Z5調書11頁)。」
「しかし、労働者に何らかの問題行動があって、職場の上司や同僚に一定の負担が生じ得るとしても、例えば、精神的な変調を生じさせるような場合も含め、上司や同僚の生命・身体を危険にさらし、あるいは、業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく、そうでない限り、事業主はこれを甘受すべきものであって、復職した上で、必要な指導を受け、改善の機会を与えられることは育児休業を取得した労働者の当然の権利といえ、原告との関係でも、こうした権利が奪われてよいはずがない。そして、本件において、上司や同僚、業務に生じる危険・損害について客観的・具体的な裏付けがあるとは認めるに足りない。
「以上によれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められず無効である。」

「また、既に判断した解雇に至る経緯・・・からすれば、被告(の担当者)は、本件解雇は妊娠等に近接して行われており(被告が復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、・・・均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、この意味からも本件解雇は無効というべきである。

(慰謝料請求の可否について)

「解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。」
「もっとも、本件においては、原告が第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば、育休法や就業規則の定め・・・に従い、被告において、復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ、原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、原告は、特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、被告は、原告がこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。
「そして、本件に表れた一切の事情を考慮すれば、被告のした違法な本件解雇により、原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は50万円と認めるのが相当であり、これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用5万円とを併せて、被告は損害賠償義務を負うものというべきである。」

3.客観的合理性・社会的相当性を欠く理由による育休取得者の排除は許されない

 本件の原告の方は、「問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよ(い)」との理由で育休取得後の原職復帰を拒まれ、「およそ受け入れ難いような部署・職務」(インドの子会社への転籍か、収入が大幅に下がる総務部のコンシェルジュ職に移ること)を提示されました。

 挙句、退職勧奨を受け、更には、解雇を敢行されてしまいました。

 しかし、判決が指摘するとおり、育休取得者は原則として元の部署・職務に復帰させなければなりません。また、仮に原告の方に何等かの問題があったとしても、改善の機会もなしに解雇するというのは行き過ぎであるように思われます。

 インドか閑職かを迫りながら退職勧奨を行い、これに応じないと解雇を敢行するといった手法は、やや強引であり、解雇を無効としたことは適切な判断ではないかと思われます。

 こうした強引な手法に対し、本来なかなか認められないはずの慰謝料を認めたことは、被害回復に資するとともに、育休取得者を職場から排除する動きへの抑止力となり得るもので、社会的にも意味のある判断だと思われます。

 ハラスメントの対象になり易い育休取得者ですが、法律上は、かなり手厚く保護されています。

 理不尽な扱いを受けたと感じたら、法的に何等かの救済が図れないのかを弁護士に相談してみても良いだろうと思います。

 

過労自殺と過失相殺-自殺を選択した労働者の過失とは

1.長時間労働等を背景とする自殺

 長時間労働等が原因で欝病エピソードを発症し、労働者が自殺に至ることがあります。いわゆる過労自殺です。

 鬱病エピソードの発症と自殺が、使用者の安全配慮義務違反に起因する場合、遺族(自殺者の相続人)は使用者に対して損害賠償を請求することができます。

 遺族が使用者に損害賠償を請求したとき、使用者の側からは様々な反論がなされます。

 その一つに過失相殺という主張があります。

 過失相殺とは

「債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」(民法418条)

「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」(民法722条2項)

との規定を根拠に行われる措置で、公平の見地から被害者の側にも損害を分担すべきとする事情が認められる場合に、加害者の損害賠償義務の軽減を図る仕組みです。

 人の死が関わってくるような事件では損害賠償義務が数千万円規模に及ぶことが珍しくありません。1割の過失相殺が認められるだけでも、かなりの金額が動くことになります。そのため、使用者の側からは、過失相殺事由が多岐に渡って主張されます。

 具体的には、

長時間労働は労働者の仕事に取り組む姿勢に問題があったのだからその点は考慮されるべきである、

医療機関を受診しなかったという労働者自身の判断が自殺に寄与している面も否定できないはずである、

労務軽減に関して上司に相談しなかったことは労働者自身の責任でもある

等々の主張が挙げられます。

 こうした事情を過失相殺事由として考慮できるかが問題になった近時の裁判例に岐阜地判平31.4.19労働判例ジャーナル89-24岐阜県厚生農業協同組合連合会事件があります。

2.岐阜県厚生農業協同組合連合会事件

(1)事案の概要

 本件は、自殺した労働者の両親が、子ども(P4)の自殺の原因は被告のもとでの過重・長時間労働で鬱病エピソードを発症したことにあるとして、P4の勤務先病院を管理運営していた被告に損害賠償を請求した事案です。

 本件でも被告は過失相殺を主張し、多岐に渡る過失相殺事由を提示しました。

 代表的なものとしては、

① 同僚とユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行くなどP4に落ち込んだ様子はなかったのであるから、そもそも鬱病を発症していたのか疑問がある、

② P4の業務の進め方、姿勢等にも問題があった、

③ 超過勤務申請書が提出されていない、

④ P4自身に、医療機関を受診するなど自分の健康状態への配慮が欠けていた、

といった事情があります。

(2)判決の要旨

 裁判所は上記の①~④のような事情はいずれも過失相殺事由にはあたらないとして過失相殺を認めませんでした。

 該当部分の判決文は次のとおりです。

① ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行っていたこと
「被告は、P4が同年12月14日に友人とUSJに旅行に行った際、自殺の兆候は見受けられなかったことから、P4がうつ病エピソードに発病していたことには疑問がある旨主張する。」
「しかし、前記のとおり、本件病院の業務に重い負担を感じ、心身ともに疲弊していたP4が、自己の企画した旅行において友人に心配を掛けたくないという想いから、明るく振る舞っていたものと考えることもできるのであるから(ICD-10にも、症例によっては気分の変化が隠されたりすることがあることが指摘されている(甲28)。)、上記被告の指摘する事実をもって、前記判断は左右されない。」

② P4の業務の進め方、姿勢等

「被告は、P4において、業務量等について上司等に相談しておらず、1人で業務をこなしており、その結果、被告において軽減措置をとることができなかったのであるから、P4にも一定の責任を認めるべきである旨主張する。」
「しかし、前記認定事実によれば、P4が勤務時間内に与えられた業務を終えることができず、慢性的に長時間の時間外労働をしていたことは、上司であるP8課長が現認しており、しかも、P4における仕事の進め方に問題があることについても同様に認識していたのであるから、P4による相談がなかったからといって、被告における軽減措置を困難にしたものということはできない。
「また、労働者の長時間労働の解消は、第一次的には、業務の全体について把握し、管理している使用者において実現すべきものであるところ、本件において、P8課長はP4に対し、早く帰るように声を掛ける等したにとどまり、長時間労働を抜本的に解消するために、仕事の進め方についてP4と協議をしたり、合理的な事務処理のための教示をしたりするなどした事実はうかがわれず(P9やP8課長において、納期の迫っているP4の業務につき、協力をしたことは認められるものの、一時的なものにすぎず、長時間労働を抜本的に解消するための措置ということはできない。)、あまつさえ、P4の時間外労働の時間を把握しようと努めた痕跡さえ認められない。」
「さらに、被告は、P4の異動の際に、P4に対して相談に来るよう伝えるなどの配慮を行ったものと主張するが、あくまで異動の際の配慮にすぎず、その配慮の内容も長時間の時間外労働を解消する上で十分なものとは認められない。また、被告は、P4に対しては、ライフル射撃競技の大会や練習がある場合に業務を調整しやすい管理課に配置するなど、P4に対する業務の配慮をしていたとも主張するが、認定事実のとおり、本件病院のP7事務次長及びP8課長は、P4がライフル射撃競技の大会に出場しているのかどうかさえ把握していなかった(P8課長は、P4は本件病院の休暇の日に練習に行けると思っていた。)のであり、このような中で、P4に対する業務の配慮が十分にされていたと認めることはできない。」
「そうすると、被告において、P4の長時間の時間外労働に対する配慮が著しく欠けている一方、P4が業務量について上司に相談等しなかったことが被告における配慮の妨げになったと認めることのできない本件においては、当事者間の公平の見地から、P4が業務量について上司に相談等しなかったことをP4の過失と評価し、被告の賠償額を減ずるのは相当ではない。
「被告は、P4の長時間労働は、P4の仕事のペースが遅いなど業務に取り組む姿勢も一因となっているのであるから、過失相殺が認められるべきである旨主張する。」
「これにつき、確かに、P4において、業務を教えてもらう際にメモを取ろうとしないなど、効率的に業務を処理しようとする姿勢が十分ではなく、業務に優先順位を付けることを苦手としていたこと等が、P4における長時間労働を生じさせた一因となった可能性も考えられる。」
「しかし、P4は、被告本所においては時間外労働をほとんど行うことなく、業務を処理することができていたのであるから、一概にその能力が低かったということはできないし、本件病院に配属されてから経験が十分でない状況で、業務を効率的に処理できないのは当然のことであるから、そのことをもって、直ちにP4の過失と評価すべきではない。
「むしろ、P8課長やP6事務局長においては、P4が効率的な業務を行えないことを想定し、対応すべきであったところ、P4が現に効率的な業務を行えていないことを認識しながら、十分な指導や助言を行っていない本件において、上記P4の仕事の進め方等をもって、被告の賠償額の減額を認めるのは相当でない。」

③ 超過勤務申請書の不提出
「被告は、P4に対し、超過勤務申請を促していたにもかかわらず、超過勤務申請書を提出しなかったことから、被告において、P4の労働状況及び健康状況を把握することができず、必要な措置をとることができなかったのであり、過失相殺を認めるべきである旨主張する。」
「しかし、前記認定事実のとおり、P8課長は、P4において、超過勤務申請を出さずに、慢性的に長時間の時間外労働をしていたことを現認しており、申告されている労働時間が現実のものとかい離していることを十分に認識していたにもかかわらず、P4に対して超過勤務申請を提出することを積極的に求めたことも、P4の労働時間を正確に把握しようとしたこともないのであり、P4の超過勤務申請書の不提出により、被告においてP4の長時間の時間外労働に気付くことができず、必要な措置を執ることが困難になったということはない。」
「かえって、P8課長においては、P4が時間外に行っている業務につき、時間外に行う必要のないものであると考え、時間外労働として認めなかったことがあり(甲26・266頁)、P6事務局長においても、管理課全体として慢性的な時間外労働・長時間労働が生じていたにもかかわらず、P4が勤務時間内に業務を終えることができずに時間外労働をしなければならなくなったのは、P4の仕事の進め方に問題があり、本来時間内に処理を終えることができる業務であったとの認識を示しており(証人P6 29頁)、P4及びP9において、平成25年4月から同年12月の間に、月100時間を超える時間外労働を行いながら、当直業務以外に超過勤務申請書を提出したことがなかったことを踏まえると、P4において超過勤務申請することをちゅうちょさせるような職場環境となっており、被告はそのような職場環境を放置していたものといえる。
「そうすると、上記被告の主張は、自ら労働者の労働時間の把握を怠っておきながら、労働時間が把握できなかった責任をP4に転嫁しようとするものであり、P4の超過勤務申請書の不提出をもって、過失相殺を認めることは相当ではない。
④ 医療機関の受診等について
「被告は、P4がうつ病エピソードに発病していたとしても、発病前に精神科を受診し、自己の健康管理を行うべきであり、これを怠ったP4において、過失相殺を認めるべきである旨主張する。」
「これにつき、被告が主張するように、労働者が、自己の健康状態について最もよく認識し、健康管理を行うことのできる地位にあることは、一般論としては肯首できるものであるが、本件のように、使用者が労働者における慢性的な長時間労働を認識しながら、十分な措置を講じず、労働者の健康状態に対する配慮が何らなされていない場合には、労働者において医療機関を受診していないことをもって、直ちに自己の健康管理を怠った過失を認めるべきではなく、少なくとも、労働者において、医師から具体的な受診の必要性を指摘される等して、医療機関を受診する機会があったにもかかわらず、正当な理由なくこれを受診しなかったといえる場合に限り、過失として評価する余地があると解すべきである。」
「そして、本件において、P4が、医師から精神疾患に関する具体的な指摘を受けたことはなく、その他、P4において医療機関を受診する機会があったといえる具体的事情が認められないことを踏まえると、P4において、うつ病エピソードの発病前に、自ら精神科の病院を受診しなかったことを過失と評価すべきではない。
「被告は、P4において、うつ病エピソードに発病する前に、自ら仕事を休み、上司等に相談するなどして自ら自己の健康管理を行うべきであった旨主張する。」
「これにつき、P4において、長時間労働に従事し、適切に休暇が取得されていなかったことが、うつ病エピソードを発病した要因の一つになっていることは否定できない。しかし、前記のとおり、P4は、平成25年10月以降、長時間の時間外労働をしなければならないほどの業務を負担しており、日常の業務の中には期限のあるものも少なくなく、業務を滞りなく処理する上で休暇を取得することが困難であり、休暇を取得することで、休暇取得後の業務処理が一層困難になる状況であったと推察されるところ、被告において、P4が休暇を取得できる状況にあったにもかかわらず適切に休暇を取得しなかったことに関する具体的な事実の主張はない。そうすると、P4が適切に休暇を取得しなかったことをもって、P4の過失と評価することはできない。
「また、P8課長は、P4の業務の負担を総合的に調整し得る立場にあり、P4の休暇の取得状況や長時間労働の状況を十分に認識していたのであるから、P4による相談等がなかったとしても、P4の健康を保持するための措置を講じるべきであったところ、本件では、そのような措置は全く講じられていない。」
「このように、被告において、P4が定期的に休暇を取得できるようにするための十分な配慮がなされていたとはいえない本件においては、P4が自ら休暇を取得するなどの健康管理措置をとらず、P8課長らに対して積極的に業務の負担に関する相談をしなかったとしても、かかるP4の対応をもって、被告の損害賠償額を減額する理由とすることは相当ではない。

3.周囲に気遣いできる性格であること、過重労働への配慮が欠けた状態で上司に相談できなかったこと・超過勤務申請を出せなかったこと・医療機関を受診できなかったこと・休暇を取得できなかったこと、経験の不十分さゆえに業務を効率的に処理できなかったことは、いずれも労働者の非(過失)ではない

 この裁判例は、

友人への気遣いからユニバーサル・スタジオ・ジャパンで気丈に振る舞っていたこと

は病気であったことを否定しないと判示しました。

 また、 

過重労働への配慮が欠けた状態で上司への相談ができなかったこと、

経験の不十分さから業務を効率的に処理できなかったこと、

超過勤務申請を躊躇させるような職場環境で超過勤務申請を出すことができなかったこと、

健康状態に無配慮な使用者のもとで医療機関を受診する機会がなかったこと、

忙しくて休暇を取得することができない状況のもとで休暇を取得しなかったこと、

はいずれも労働者の非ではないと判示しました。

 こうしてみると、自殺したのは自己責任だと言われるような事情は、かなり限定されていると言えるのではないかと思います。