弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

キャバクラ・クラブで働くときの留意点

1.キャバクラの労働問題

 ネット上に、

「『生活費補填のためにキャバで働く』から見えた副業社会の危うさ」

という記事が掲載されています。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190612-00065076-gendaibiz-bus_all&p=1

 記事には、

「キャバクラは、クラブより割安でキャバレーより高級感がある業態として1980年代半ばに生まれたといわれる。賃金不払いやパワハラなどの労働問題も多数発生している業界ではあるが、経験がなくても採用されやすく、女性の他の仕事と比べて名目時給が高めに見えることが、アルバイトや転職先としての流入しやすさにつながってきた。」

「これまでに20人ほどの聞き取りを続けてきたが、そのうち8割が、『新卒で就職した仕事が低賃金で、”生活費の補填”としてキャバクラに向かった』と話している。」

などと書かれています。

2.キャバクラ・クラブでは労働問題が生じやすい

 記事で指摘されているとおり、キャバクラは、労働問題を生じやすい仕事だと思います。特に、労働者と言えるのかで揉めることが多いです。

 労働者と言えるのかで揉めることが多いのは、労働基準法ほか各種労働法の保護を受けられるかどうかが、労働者性が認められるか否かによって決まってくるからです。

 キャバクラ・クラブのホステスと店との間では、普通の雇用契約では見られないような勤務条件が設定されていることがあります。

 例えば、客に未払が生じた場合、ホステスが客に代わって店への支払いを行うといった約定があります。一般的な会社では、取引先が支払をしなかったとしても、従業員が支払を保証することはありません。しかし、クラブのホステスと店との間には、このような契約が交わされていることが、まま見られます。

 また、やたら厳しい罰金システムが設けられていることもあります。無断欠勤したら幾ら、勤務時間中に外出したら幾ら、早退したら幾らといったような具合にです。単に不就労時間の報酬が得られないというのではなく、報酬から結構な金額の罰金額を差し引くといった扱いがとられていることがあります。

 こうした一般の会社にはない過酷な勤務条件が、店とホステスとの間で紛争が生じやすい素地になっているのではないかと思われます。

3.労働契約への該当性・労働者性が認められることで使える法理・条文がある

 上述のようなホステス側にとって不利な約定が法的な効力を有するかを判断するにあたっては、店とホステスとの間の契約が労働契約なのかが重要な意味を持ちます。

 労働者性が肯定される場合、客の未払を保証するといった約定は、公序良俗に反するとして、その効力を否定し易くなる傾向があります。

 例えば、東京地判平22.3.9労働判例1010-65第三相互事件では、顧客に掛売りをした場合に、その代金債務について連帯保証するという約定が公序良俗に反しないのは「例外」だと位置づけています(ただし、当該事案においては、その「例外」にあたるとして公序良俗に反するとは認めていません)。この事案では、ホステスに労働基準法上の労働者性が認められています。

 また、労働基準法は、

「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」

を禁止しています(労働基準法16条)。

 減給の制裁を定める場合においては、

「その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」

という制約もあります(労働基準法91条)。

 労働者性が認められさえすれば、過酷な罰金システムに対し、上記のような条文を使って歯止めをかけて行くことができます。

4.労働者性が否定された裁判例から学ぶこと

(1)ホストに関して労働者性が否定された裁判例がある

 ホストに関してではありますが、

「ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが・・・、いずれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄い・・・。また、出勤時間はあるが客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえない・・・。」

「ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している・・・。また、ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている・・・。ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるものである・・・。」
「以上によれば、ホストは被告から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは、被告とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり、被告との一定のルールに従って、本件店舗を利用して接客し、その対価を本件店舗から受け取るにすぎない。そうすると、ホストは自営業者と認めるのが相当である。」
「したがって,原告被告間に雇用契約締結の事実は認められない。」

と述べて、労働者性を否定した裁判例があります(東京地判平28.3.25判例タイムズ1431号202頁)。

(2)売り上げ連動型の報酬はハイリスク・ハイリターン

 売上に連動するタイプの契約を結ぶと、当たれば大きいのでしょうが、自営業者と認定されてしまう可能性があります。自営業者と認定されると、労働法の保護を受けられなくなるので、店と契約を結ぶにあたっては、リスクとリターンとを慎重に見極める必要があります。

(3)衣装が自腹は要注意?

 衣装が自腹という事実は、ホステスに負担を押し付けているという意味において、一見すると、店に対するホステスの従属性を基礎づける事情にも思えます。

 しかし、これは逆で、自前で商売道具を用意していたのだからということで、労働者性を弱める事情として考慮されます。

 厚生労働省による「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和 60年 12 月 19 日」でも、

「本人が所有する機械、器具が安価な場合には問題はないが、著しく高価な場合には自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う『事業者』としての性格が強く、『労働者性』を弱める要素となるものと考えられる。」

と道具(機械・器具)の負担が労働者性を弱める要素として指摘されています。

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku.html

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/23kantoku/roudousyasei.pdf

 機械・器具の負担関係は、

「『労働者性』が問題となる限界的事例」

における補強要素であって、衣装が自腹であることから、直ちに労働者性が否定されるといったことはありません。

 しかし、ホステスの労働者性に関しては、限界的事例といえるような事案も相当数あるため、衣装の負担関係が判断に影響することもないわけではありません。

 売上連動型、衣装自腹で契約を結んで、思うように売り上げが得られなかった場合、収入は低いうえ、衣装まで自腹とされ、しかも労働者としては保護されないという踏んだり蹴ったりになりかねないので注意が必要です。

5.入店時点で自分に労働者性があるかを判断するためには

 上述の「判断基準」では、

「『労働者』であるか否か、すなわち『労働者性』の有無は

『使用される=指揮監督下の労働』という労務提供の形態

及び

『賃金支払』という報酬の労務に対する対償性、すなわち報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということ

によって判断されることとなる。」

とされています。

 指揮監督下の労働に関する判断要素としては、

仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

業務遂行上の指揮監督の有無

拘束性の有無

代替性の有無

などが掲げられてます。

 報酬の労務対象性に関する判断基準としては、

報酬が時間給を基礎として計算される等労働の結果による較差が少ない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給される等報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には、『使用従属性』を補強することとなる。

といったことが掲げられています。

 労働者性が認められるか否かは、かなり専門的な判断になるうえ、実際の就労実体を踏まえる必要があります。

 そのため、一般の方が入店前に注意できるのは、時給制の方が労働者性が認められやすい(傍線部分)といった程度に留まるかも知れません。

 こうしたことも、キャバクラ・クラブの従業員と店との間で、労働問題が生じやすい素地になっているのだろうと思います。

6.何かおかしいと思ったら弁護士に相談を

 労働者性に関する判断も、そこから先の法適用の問題も、専門性の高い領域になってくるため、何かおかしいと思ったら、専門家(弁護士)に相談することをお勧めします。個人的には、相談に行きつきさえすれば、救済を図れるケースは相当数眠っているのではないかと思います。