弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

育児休業をとって窓際に追いやられた方へ

1.育児休業をとると窓際に追いやられる?

 ネット上に、

「育休を取ると窓ぎわに!? 働く女性が男性との差を理不尽に感じる瞬間」

という記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190610-00011573-toushin-life&p=1

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190610-00011573-toushin-life&p=2

 記事には、

「ある保険会社で働くCさんは、『子どもを産むと元の部署に戻してもらえないとか、社内結婚すると必ず女性のほうが異動させられるとか、不平等に感じることがたくさんある』と話します。」

「Cさんの同期で社内結婚したカップルは元々同じ支店にいましたが、すぐに女性側が別の支店に異動。女性のほうが成績優秀であったにもかかわらず、です。また、Cさんの先輩社員の中には、育休を取ると社内のいわゆる『閑職』に回されるなどの事態も。」

「『どんなに仕事がデキる人でも、その閑職の部署に異動させられてしまう』とのこと。」

と書かれています。

 このような配置転換は、違法性が認められる可能性があると思います。

2.行政解釈

 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児休業法」といいます)22条は、

「事業主は、育児休業申出及び介護休業申出並びに育児休業及び介護休業後における就業が円滑に行われるようにするため、育児休業又は介護休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理、育児休業又は介護休業をしている労働者の職業能力の開発及び向上等に関して、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」

と規定しています。

 この「必要な措置」に関し、育児休業法28条は、厚生労働大臣に指針となるべき事項を定めるように求めています。

(参考:育児休業法28条)

 厚生労働大臣は、第二十一条から前条までの規定に基づき事業主が講ずべき措置及び子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべきその他の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項を定め、これを公表するものとする。

 育児休業法28条の規定を受け、厚生労働大臣は、

「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図ら れるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号)

を定めています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000169669.pdf

 この指針では、

育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること。

が明記されています(第2-7-(1)参照)。

 行政解釈上、育児休業明けの社員は、原職・原職相当職に復帰させるのが原則とされています。「原職相当職」の理解にも関わりますが、あからさまに閑職と言える部署に配置した場合、その適法性を争える余地はあるだろうと思います。

3.参考となる司法判断

 ゲーム会社で、産休・育休前に海外ライセンス業務に従事していた女性を、育休明けに国内ライセンス業務に従事させることの適否が争われた事件があります(東京地判平23.3.17労働判例1027-27 コナミデジタルエンタテイメント事件)。

 この事件で、裁判所は、

「(育児休業)法22条に定める育児休業後における就業が円滑に行われるようにするために使用者において必要な措置を講じるように努める義務に関してみると、育介指針では、原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることを配慮することとし、育休通知では、原職相当職と評価されるためには、①休業後の職制上の地位が休業前のそれより下回らないこと、②休業の前後で職務内容が異なっていないこと、③休業の前後で勤務する事業所が同一であることのいずれにも該当することが必要であるとしている。しかしながら、同条は努力義務を定める規定であると解されるものであり、上記の育介指針及び育休通知がいうところも、努力義務の内容を具体的に示したものであって、原職又は原職相当職に復帰させなければ直ちに同条違反になるものとは解されない。そして、上記(ア)で説示したとおり、本件復職に当たり原告を就かせることができる最善の業務が国内ライセンス業務であったという事情の下では、本件担務変更が同条に抵触する違法なものと断ずることはできない。」

と判示しました。

 裁判所は、指針を努力義務にすぎないと理解したうえ、結論として担務変更は育児休業法22条に違反しないとしました。

 しかし、これは、

「本件復職に当たり原告を就かせることができる最善の業務が国内ライセンス業務であったという事情の下」

で導かれた判断です。

 わざわざ最善の業務であることに言及していることは、単なる閑職に追いやっていた場合には別異の判断が有り得ることを示唆するものとも読めます。

 また、この事件が起きた当時の指針の文言は、

「原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることを配慮すること」

です。

 現在の指針の文言は、

「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮すること。」

となっています。

 指針は何度か改定されていますが、現在の文言は、原職復帰をより強く促す形になっています。行政解釈(の変更)が司法判断に影響を及ぼすことは、それほど珍しいことではありません。

 最善業務であればともかく、育休明けに閑職に回されてしまった場合、その適法性を争える可能性は、私は十分にあると思っています。

4.育休をとって窓際に追いやられた方へ

 近時、話題になることの多い配置転換ですが、育休明けに窓際・閑職に追いやる人事に対しては、違法・無効を主張できる場合も相当数あるのではと思っています。

 声を挙げたいという方がおられましたら、ご相談頂ければと思います。