弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

従業員間の男女交際を違約金で禁止することはできるのか?

1.男女交際禁止の約定

 芸能事務所とアイドルとのマネジメント契約書や、クラブがホステスに対して適用している就業規則を検討していると、男女交際を禁止する条項を目にすることが少なくありません。

 一般企業の就業規則に目を通している中でも、セクシュアルハラスメント等の問題を未然に防ぐためか、時折、男女交際を禁止する条項を見ることがあります。

 個人的には就業者の自由に干渉しすぎではないかと思いますが、こうした規定も、存在すること自体が違法とまで理解されているわけではありません。

 それでは、こうした男女交際禁止に係る規定の実効性を高めるため、違約金の定めをすることは、どのように理解されるのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令2.10.19労働判例1233-103 キャバクラ運営A社従業員事件です。

2.キャバクラ運営A社従業員事件

 本件で原告になったのは、ガールズバーやキャバクラ店、クラブ等を経営する有限会社です。

 被告になったのは、原告が経営するクラブで働いていた方です。

 従業員が私的交際を行うと担当する客が離れてしまうため、原告は、全従業員に対し、私的交際の絶対禁止と、それに違反した場合の違約金200万円の支払を内容とする同意書への署名を求めていました。

 しかし、被告は、私的交際禁止の約束に反し、クラブの副店長と交際しました。

 これを理由に、原告は、被告に対し、違約金等の支払を求める訴えを提起しました。

 原告からの請求に対し、被告は、

違約金支払いの合意は、労働基準法16条に反し、無効である、

私的交際をするかどうか、交際するとして誰と交際するのかを決める自由を制約する合意は公序良俗に反し無効である(民法90条)、

などと主張し、違約金等の支払義務を争いました。

 原告が使った条文の一つである労働契約法16条は、

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

と規定しています。労働契約法16条違反の主張は、200万円の違約金は労働契約(私的交際禁止)の不履行に対する違約金であるという発想だと思われます。

 こうした主張を受け、裁判所は、次のとおり判示し、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

「本件同意書は、使用者である原告が被用者である被告に対して私的交際を禁止し、これに違反した場合には違約金200万円を請求し、被告はこれを支払う旨合意するものであるところ、これは、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることを禁じた労働基準法16条に違反しており、無効である。」

「また、人が交際するかどうか、誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって、その人の意思が最大限尊重されなければならないところ、本件同意書は、禁止する交際について交際相手以外に限定する文言を置いておらず真摯な交際まで禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して200万円もの高額な違約金を定めている点において、被用者の自由ないし意思に対する介入が著しいといえるから、公序良俗に反し、無効というべきである。」

(中略)

「以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。」

3.労働者なら金額を問わず違約金は違法、労働者でなくても高額違約金は違法

 労働契約法16条は金額を問わず、違約金を定めることを一律に禁止しています。そのため、本件裁判例の論旨に従えば、就業先との間の契約が労働契約であることが立証できれば、違約金の定めは金額の高低を問わず、無効にすることができます。

 また、本件は労働契約法16条違反だけではなく、公序良俗違反(民法90条違反)だとも判示している点に特徴があります。違約金が高額であることも、公序良俗違反を認定した理由の一つになっているため、民法90条違反だと主張するためには、違約金が高額であることまで必要になってくるのかも知れません。民法90条の適用範囲は労づ契約に限られないため、業務委託契約などフリーランスとして働いている人でも、公序良俗違反の主張は使うことができます。

 本件のような判断を見ていると、違約金まで定めて男女交際を禁止することに関して、裁判所は、それほど肯定的に捉えているわけではなさそうに思われます。

 この種の約定に違反して違約金を請求されているという事案は、定期的に相談で目にします。約定違反の事実があるとしても、法律論で勝てる可能性もあるため、お困りの方がおられましたら、ぜひ、お気軽にご相談ください。