弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公立大学の理事はどのような場合に解任されるのか?

1.公立大学法人

 公立大学法人という仕組みがあります。

 地方独立行政法人法に基づいて設立されている一般地方独立行政法人の一種で、

「一般地方独立行政法人で第二十一条第二号に掲げる業務を行うもの」

と定義されています(地方独立行政法人法68条1項)。

 地方独立行政法人法21条2号は、

「大学又は大学及び高等専門学校の設置及び管理を行うこと並びに当該大学又は大学及び高等専門学校における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に対し、出資を行うこと」

を掲げており、これと組み合わせると、公立大学法人とは、大学等の設置・管理を行う法人を意味することになります。

 公立大学法人の理事ら役員の解任事由について、地方独立行政法人法17条2項は

「設立団体の長又は理事長は、それぞれその任命に係る役員が次の各号のいずれかに該当するとき、その他役員たるに適しないと認めるときは、その役員を解任することができる。
一 心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認められるとき。
二 職務上の義務違反があるとき。」

と規定しています。

 それでは、この「その他役員たるに適しない」と認められる場合とは、一体、どのような場合をいうのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。山口地判令5.7.12労働判例ジャーナル139-40 公立大学法人下関市立大学事件です。

2.公立大学法人下関市立大学事件

 本件で被告になったのは、下関市立大学(本件大学)を設置、運営する地方独立行政法人です。

 原告になったのは、本件大学の経済学部国際商学科に所属する教授であり、学部長、理事、経営審議会委員、教育研究審議会委員に任命されていた方です。

大学のガバナンスに関する集会(本件集会)に登壇して事例報告を行った行為(本件登壇行為)、

及び

その際「大学の権力的支配-下関市立大学の事例-」と題する書面(本件文書)を作成して配布するとともにWEB上で公表した行為(本件公表行為)

を理由とする令和2年10月28日付けの理事解任(本件解任)が違法無効であると主張し、本件解任の無効確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件では、地方独立行政法人法17条2項が定める

「その他役員たるに適しないと認めるとき」

の意味内容が問題になりましたが、裁判所は、これについて、次のとおり判示しました。

(裁判所の判断)

「本件解任は、P2理事長が、原告について法17条2項柱書の『その他役員たるに適しない』に該当するとして行ったものであるところ、同柱書が、地方独立行政法人の役員の解任事由について、前半で、心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認められるとき、及び職務上の義務違反があるときと定めた上で、後半で、その他役員たるに適しないと認めるとき、と定めていることに鑑みると、同柱書にいう『その他役員たるに適しないと認めるとき』とは、当該役員において、当該法人の社会的信用を失墜させるなど、職務上の義務違反に比肩するような非行があった場合に限定されると解すべきである。

「また、地方独立行政法人とは、住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地から、その地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるものと地方公共団体が認めるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律の定めるところにより地方公共団体が設立する法人をいい(法2条1項)、公立大学法人においては、大学自治への配慮も求められている(法69条参照)。そうすると、公立大学法人は、私法人、特に営利法人とは異なり、組織運営に公益性が求められるのであって、その役員の忠実義務(法15条の2)についても、公益という観点が不可欠というべきである。

「そして、上記のとおりの、法17条2項柱書後半の位置付け及び公立大学法人の性質に加えて、公立大学法人の運営組織の社会的信用が必ずしも当該公立大学法人の社会的信用と同じというわけではないことも併せ考えると、公立大学法人の理事が外部の第三者に対し、当該公立大学法人の運営組織との対立を明らかにし、その運営方針について批判的な意見を述べたとしても、

〔1〕そのこと自体が、直ちに『その他役員たるに適しないと認めるとき』に当たるものではなく、

〔2〕当該理事がそのような行為に出た経緯や、当該批判及び意見の内容を具体的に検討した結果、批判及び意見として許容される範囲を越えたものであると評価される場合に、

当該公立大学法人の社会的信用を失墜させる行為として、『その他役員たるに適しないと認めるとき』に当たると解すべきである。また、そのような具体的検討に際しては、批判及び意見の表明という行為の性質上、

a)当該行為の時点において相応の根拠を伴うものであったかを重視すべきであるとともに、

b)一定程度の揶揄や激越な表現についても、相応の根拠を伴う批判及び意見の表明の一環である場合は、人身攻撃に及ぶものなどでない限り、上記の範囲を越えるとはいえないと解するのが相当である。

(中略)

「本件登壇行為、本件公表行為及び本件回答拒否行為に及んだことをもって、原告が『その他役員たるに適しないと認めるとき』に当たるということはできず、本件解任行為当時、原告に解任事由があったとはいえないから、本件解任は、実体的要件を充足していない違法なものというべきである。」

3.かなり限定的に理解されている

 公立大学法人の理事の解任の可否が問題になる事例は、公立大学法人の数自体がそれほどないためか、あまり目にすることがありません。

 そのため、どのような場合に解任されるのかは、それほどよく分かっているわけではありません。

 このような状況の中、本件は解任を可能とする範囲をかなり限定的に理解した事案として意義があり、実務上参考になります。