弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

勤務成績不良を理由とする解雇の思考手順

1.勤務成績不良を理由とする解雇

 高度の技術能力を評価され、特定の職務のために即戦力採用されたような場合を除き、「長期雇用システム下の正規従業員については、一般的に労働契約上、職務経験や知識の乏しい労働者を若年のうちに雇用し、多様な部署で教育しながら勤務を果たさせることが前提とされるから、教育・指導による改善・向上が期待できる限りは、解雇を回避すべきであるということになり、勤務成績・態度不良の該当性や、解雇の相当性は、比較的厳格に判断されることになる」と理解されています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁)。

 このように勤務成績不良を理由とする解雇は、比較的厳格に有効性を審査されるわけですが、その思考手順はどのように考えればよいのでしょうか?

 個人的な実務経験に照らすと、労働者側から事件を検討するにあたっては、①労働契約で想定されている労務提供の水準の認定、②当該水準との関係で当該労働者の勤務成績が本当に不良と評価できるのかの検討、③問題点を解決するための指導・教育等改善の機会が付与されたといえるのか(指導・教育等の内容が問題と噛み合っているのかの検討を含む)、④配置転換による能力の可能性が検討されているのか、⑤職務等級や役職の引き下げの可能性が検討されているのかといった順序で考えていくのが比較的便利ではないかと思っています。

 裁判例の中にも、こうした手順で解雇の効力を検討するものがあります。近時公刊された判例集に掲載されていた、東京地判平31.2.27労働判例1257-60 ノキアソリューションズ&ネットワークス事件も、その一つです。

2.ノキアソリューションズ&ネットワークス事件

 本件で被告になったのは、通信ネットワークシステム等の企画、研究開発、設計等の事業を行う合同会社です。

 原告(昭和37年生まれの女性)になったのは、被告と期間の定めのない雇用契約を締結し、プロジェクト・コーディネーターとして、プロジェクト・マネージメント等の業務についていた方です(年俸908万1600円)。業務成績評価が著しく低いことなどを理由に平成28年3月15付けで普通解雇されたことを受け、その効力を争い、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 この事件で、裁判所は、次のとおり判示し、解雇の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

プロジェクト・コーディネーターは、プロジェクトの管理者であるプロジェクト・マネージャーを補助する立場にあり、より具体的には、プロジェクトを構成する個々の作業について責任者としてその管理、遂行に当たることを職責とする

(中略)

「以上からすれば、原告にはその職位に照らして職務遂行上必要とされる能力等が不足しており、このため期待された職務を適正に遂行することができず、その業務成績は客観的にみて不良であるとの評価を免れず、平成23年から平成26年までの4年間のうちの2年間はいずれも最低評価(下位5%)を受けていることも併せて考慮すれば、上記能力等の不足は、解雇を検討すべき客観的な事情として一応認められるものであるといわざるを得ない。

(中略)

「原告は、平成24年の業績評価は最低評価であった・・・が、その翌年の平成25年に1回目のPIPが実施されて成功と判定された・・・ところ、同年の業績評価は前年から一段階評価が上がって最低評価から脱している・・・。そうすると、原告は過去にPIPの実施により業績が改善した実績があるとみることができる。」

「これらの事情を考慮すれば、原告に対してPIP等による指導を施すことによって、その業務成績を改善する余地がないとはいえない。

(中略)

「以上の事情によれば、GLMが定期的な指導、支援をしていた・・・としても、原告が従事したコスト削減業務やその目標額は、ジョブグレード8の標準的な従業員を基準にしても、必ずしも容易であったとまでは認め難い。また、原告は、過去にKAIZENプロジェクトというコスト削減業務に従事していた経験はあるものの、それは自らが従事している業務分野のコスト削減に限られており、実施期間も1か月程度と短期間であり、他の従業員の助力を得て遂行したにすぎないものであって・・・、その他にコスト削減業務ないしこれに類する業務に従事したことは窺われないこと・・・からすれば、コスト削減業務に慣れておらず・・・、所定の期限内に20万ユーロのコストを削減することができなくともやむを得ない面がないとはいえず、原告だけがコスト削減につき具体的な目標額が課されていた・・・というのも、他のコスト削減班員との比較においてやや酷であるとも考えられる。

「そして、原告については、そのプロジェクト・マネージメントスキルについて改善傾向を示しており、実際にPIPにより業績評価が改善した実績がある中で・・・、上記のとおり、直近に従事していたコスト削減業務が必ずしも容易であったとまでは認め難いのであることを考慮すると、仮に同業務の成績が不良であったとしても、被告が原告に対し、例えば配置転換をする・・・などしてその適性や能力に合った業務内容に変更したり、あるいは、職務等級(降級)や役職の引き下げ・・・を行って職務の難易度を下げたりするなどの措置を執った場合には、原告の業務成績が向上する可能性があったことを否定することができないというべきである。

(中略)

「以上によれば、原告につき、本件解雇時において『職務遂行能力、業務成績又は勤務態度が不良で、社員として不適格と認められる場合』又は『将来もその職務に見合う業務を果たすことが期待し得ないと認められる場合』のいずれかに該当するとは認め難く、その他に解雇事由に該当する事実は見当たらない。本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない(労働契約法16条)から、無効であるというべきである。」

3.チェックポイントが幾つもある

 上述のとおり、勤務成績不良による解雇は、分析的に考えて行くと、幾つもの争うべきチェックポイントがあります。一つ又は複数の場所で引っかかることが多く、解雇の効力はそれほど容易には認められません。

 比較的争い易い類型の解雇であるため、その効力に疑義のある方は、一度弁護士のもとに相談に行ってみることをお勧めします。もちろん、当事務所でも、ご相談をお受付しています。