弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

有期労働契約の期間途中での解雇の効力を争う地位確認訴訟では、雇止めの無効も主張しなければならない

1.有期雇用契約の期間途中での解雇

 労働契約法17条1項は、

「使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」

と規定しています。

 そのため、有期労働契約の契約期間途中に解雇された労働者が、解雇の効力を争って地位確認等を求める訴訟を提起する場合、労働契約法17条1項所定の、

「やむを得ない事由」

が認められるか否かが争点になります。

2.地位確認等を求める訴訟で契約期間が満了が誰からも主張されない問題

 労働関係訴訟の第一審の平均審理期間は14.5か月とされています。

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/hokoku_08_about/index.html

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/hokoku_08_gaiyou.pdf

 そのため、契約期間が1年程度で設定されている場合、解雇の効力を争う訴訟をやっている最中に、対象となる労働契約の契約期間が満了してしまうことが想定されます。

 しかし、有期労働契約の期間途中での解雇の効力を争う地位確認訴訟において、使用者から、

「解雇が無効であったとしても、契約期間が満了しているはずだ。」

という主張がなされないことは珍しくありません。

 考えてみれば当然のことで、これは、解雇は有効だと主張している事件で、

「仮に解雇が無効だとしても・・・」

といった主張を展開すると、主位的な主張の迫力を削いでしまうからです。

 それでは、労働者側から契約期間の満了が積極的に主張として提示されるかというと、そのようなことはありません。

 有期労働契約の終了に関しては、雇止め法理と呼ばれているルールがあります。

 これは、大雑把に言うと、有期労働契約が、

① 過去に反復して更新されていて、期間の定めのない契約と同視できる場合、

② 更新されると期待することについて合理的な理由がある場合、

のいずれかに該当するときは、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性がなければ、使用者は労働者からの契約更新の求めを拒絶することができないというルールを言います(労働契約法19条参照)。

 雇止めの効力を争う場合、労働者側は、労働契約法19条を根拠に、期間満了によっても労働契約が終了していないことを主張・立証して行くことになります。

 しかし、契約期間途中での解雇の効力が問題となる訴訟では、そもそも使用者が雇止めを主張してるわけではないため、

「使用者の雇止めは労働契約法19条に違反するもので無効だ。」

という論陣を張る必要がありません。

 かくして、契約期間の満了が事実として生じているにもかかわらず、そのことを原告も被告も問題にしないという現象が生じることになります。

3.契約期間の満了が誰からも問題視されない場合、判決はどうなるか?

 それでは、契約期間途中での解雇が無効であると判断されはするものの、判決の基準日時点で元々の有期労働契約の期間が満了してしまっている場合、裁判所はどのような判決を言い渡すことになるのでしょうか?

 雇止めの効力が争点になっていれば話は比較的簡単ですが、誰も雇止めについて触れていない場合に地位確認請求を認ることができるかは悩ましい問題です。

 近時、この問題について、最高裁判例が言い渡されました。最一小判令元.11.7労働経済判例速報2403-3 朝日建物管理事件です。

4.朝日建物管理事件

 本件で被告・控訴人・上告人となったのは、建築物の総合的な管理に関する業務等を目的とする株式会社です。

 原告・被控訴人・被上告人となったのは、上告人と有期労働契約を締結していた方です。

 本件は次のような経過を辿っています。

平成22年 4月 1日 一審原告と一審被告が期間1年の有期労働契約を締結。

平成23年 4月 1日 有期労働契約の更新(1回目)。

平成24年 4月 1日 有期労働契約の更新(2回目)。

平成25年 4月 1日 有期労働契約の更新(3回目)。

平成26年 4月 1日 有期労働契約の更新(4回目)。

平成26年 6月 6日 一審被告から一審原告への解雇の意思表示。

平成26年10月25日 一審原告が地位確認等を求める訴訟を提起。

平成27年 3月31日(4回目の有期労働契約の期間満了日)

平成29年 1月26日 一審の口頭弁論終結。

平成29年 4月27日 一審判決

 一審の判決は、一審原告の請求を全部認容する判決を言い渡しました。4回目の有期労働契約の期間が満了してはいたものの、雇止めの効力が一審原告・一審被告のいずれからも問題にされなかったため、これを無視して地位の確認と判決確定までの未払い賃金の支払いを認める判断をしました。

 これを受け、一審被告は控訴し、控訴審で行き労働契約の期間満了による終了を主張しました。しかし、控訴審は一審被告の主張を時機に後れた攻撃防御方法にあたるとして却下し、一審判決を維持する判断をしました。

 これに対し、一審被告が上告したのが本件です。

 裁判所は、次のとおり述べて、契約期間の満了を無視して判決をするのはダメだと判示しました。

(裁判所の判断)

「原審の・・・判断のうち、契約期間の満了により本件労働契約終了の効果が発生するか否かを判断することなく、被上告人の労働契約上の地位の確認請求及びその契約期間が満了した後である平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は是認することができない。」

「最後の更新後の本件労働契約の契約期間は、被上告人の主張する平成26年4月1日から平成27年3月31日までであるところ、第1審口頭弁論終結時において、上記契約期間が満了していていたことは明らかであるから、第1審は、被上告人の請求の当否を判断するに当たり、この事実をしんしゃくする必要があった。」

(中略)

「原審は、最後の更新後の本件労働契約の契約期間が満了した事実をしんしゃくせず、上記契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、原審口頭弁論終結時における被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び上記契約期間の満了後の賃金支払請求を認容してり、上記の点について判断を遺脱したものである。」

「以上によれば、原告の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」

5.有期労働契約の期間途中での解雇の効力を争う場合、雇止めの無効も主張しておく必要がある

 解雇が無効であるのに雇止めが有効となる場面は、ある程度限定されるのではないかと思います。

 しかし、使用者側が雇止めを主張しないからといって放っておくと、判断に遺脱があるとして、事件が無駄に上級審と下級審を行ったり来たりすることになりかねません。

 そのため、有期労働契約の期間途中での解雇を争い、地位確認等を請求する訴訟を提起する局面においては、使用者側が積極的に争点として提示しなかったとしても、今後、労働者側は雇止めの無効まで意識した主張を展開しておく必要があるのだと思われます。