弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

かかってくる電話に対応しながらの昼休みは、休憩時間といえるのか?(労働時間ではないのか?)

1.昼休みの電話対応
 労働基準法34条1項は、
「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」
と規定しています。
 1日8時間のフルタイムで働いている方の場合、12時から1時までの間が休憩と定められていて、この間に昼食等を済ませている方も多いのではないかと思います。
 しかし、中小規模の事業所では、昼休みに自席で弁当等を食べている時であったとしても、かかってくる電話には事実上対応せざるを得ないという方が、少なくないように思われます。

 こういった昼休みは、果たして休憩時間といえるのでしょうか?

 もし、休憩時間といえないのであれば、昼休みの間も、所定労働時間外の労働をしたものとして、残業代を請求する余地が生じます。

 近時の公刊物に、この点が問題となった裁判例が掲載されていました。

 水戸地裁土浦支判平29.4.13労働判例1204-51 結婚式場運営会社A社事件です。

2.電話を取っていた昼休みの位置づけ

 この事件は、結婚式場運営会社にプランナーとして勤めていた労働者の方が、使用者に対し、残業代を請求した事件です。

 電話を取りながらの昼休みが時間外労働にあたるのかが、争点の一つになりました。

 裁判所は次のように判示し、昼休みの労働時間性を否定しました。

(裁判所の判断)

「本件雇用契約上、休憩時間は1時間であったが、時間帯は定められていない。」

「通常シフトの場合、プランナーは、12時から13時までの間、仕事をせずに昼食をとるなどしており、昼食時に事務所で待機する必要はなく、外出も自由であり、上司の許可を得る必要はなかった。

被告は、原告を含むプランナーに対し、12時から13時までの電話当番を命じていなかった(原告は、電話番として残って電話に応答するよう指示を受けたと供述するが(原告本人)、裏付けがなく信用できない。)。昼食時に電話が全くかかってこないことはなく、原告を含むプランナーが応答することもあったが、被告から応答するよう指示を受けていたのは新入社員であった。また、12時から13時までの来客には、従業員が持ち回りで担当するコンシェルが対応した。」

「原告は、時間帯がずれることもあったが必ず昼食をとっており、弁当を持参するか空き時間に近所のコンビニ等で購入し、事務所に戻って食べることが多かった。」

「認定事実によれば、通常シフトの場合、被告は12時から13時までの間に昼休みとして休憩時間を設定していたといえる。その運用は厳格ではなかったことがうかがわれるが、原告がこの時間帯に指揮命令から解放されなかったとまでは認められないというべきである。」

「したがって、通常のシフトの場合には1時間の休憩時間があったと認められる。」

 この判示部分は、控訴審である東京高裁平31.3.28労働判例1204-31 結婚式場運営会社A事件でも、改められずに維持されています。

3.他に電話番が指示されていた場合には難しいのだろうが・・・

 この事件では、昼休みに労働時間性は認められませんでした。

 しかし、裁判所は、電話当番が命じられていたわけではないからという形式的な理由だけで労働時間性を否定しているわけではありません。

 本件に関して言えば、原告らプランナーに電話当番が命じられていなかっただけではなく、別途電話に応答するように指示を受けていた「新入社員」の存在が効いたのではないかと思います。

 電話当番を命じられている役割の方がおらず、かかってくる電話を無視するわけにもいかない、そうした事実関係のもとであれば、使用者側からの明示的な指示がなかったとしても、指揮命令から解放されているとはいえないとして、労働時間性が認められる可能性はあるのではないかと思います。

4.人員に余裕のない小規模な事業所では、昼休みの電話は法の間隙になり易い

 電話当番となる人員を捻出しにくい小規模な事業所では、電話対応しながらの昼休みは法の間隙になりがちです。人間関係が密であることから緊張が弛緩して、きちんとした取り決めがなされず、なし崩し的に適法性に疑義のある状態が放置されていることも、珍しくないように思われます。

 しかし、こうした状態は法的なリスクを抱えています。

 残業代は過去2年間まで遡って請求できますが(労働基準法115条)、昼休みを休憩時間とみるのか、それとも労働時間とみるのかで、請求できる金額にかなりの差が生じることは珍しくありません。

 残業代を請求するにあたっては、夜の方向だけではなく、昼休みの休憩時間が、果たして本当に労働基準法上の「休憩時間」といえるのかどうかを検討する姿勢も大切です。