弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

長期間別居しさえすれば離婚することができるのか(弁護士の硬直的なアドバイスが離婚を困難にした事例)

1.長期間の別居と離婚

 一般論として言うと、離婚したい側の配偶者に不貞などの分かりやすい有責性が認められない場合、ある程度の別居期間さえ積み重ねれば、他方配偶者が離婚したくないといったとしても、裁判所で離婚請求が認容される可能性は高くなります。

 しかし、何事にも例外はあります。

 7年間もの別居期間を積み重ねながら、離婚請求が認められなかった事案が判例集に掲載されていました。

 東京高判平30.12.5判例タイムズ1461-126です。

 離婚を請求した第一審原告夫は、弁護士からのアドバイスを受け、別居を長期間継続すれば必ず裁判離婚できると考えて、話合いを一切拒否するといった硬直的な態度をとり続けていたようです。

 皮肉なことに、これが、7年間もの別居期間の積み重ねを経て、なお離婚請求を棄却される原因となりました。

2.裁判所の判断

 裁判所の判断は次のようなものです。

「第1審原告は、さしたる離婚の原因となるべき事実もないのに・・・南品川に単身赴任中に何の前触れもなく突然電話で離婚の話を切り出し、その後は第1審被告との連絡・接触を極力避け、婚姻期間についてのまともな話し合いを一度もしていない。これは、弁護士のアドバイスにより、別居を長期間継続すれば必ず裁判離婚できると考えて、話合いを一切拒否していると推察される。離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠るという本件のような場合においては、別居期間が長期化したとしても、ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があると判断することは困難である。第1審被告が話し合いを望んだが叶わなかったとして離婚を希望する場合には本件のような別居の事実は婚姻を継続し難い重大な事由になり得るが、話合いを拒絶する第1審原告が離婚を希望する場合には本件のような別居の事実が婚姻を継続し難い重大な事由に当たるというには無理がある。」

「第1審原告代理人(当時)による『別居が一定期間継続した後に行われる離婚の訴訟では(中略)日本の法律のもとでは離婚が認められてしまう。』と言う極端な破綻主義的見解(甲5 有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと、別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容されるというもの)は、当裁判所の採用するところではない。

「本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり、第1審原告の離婚請求は信義誠実に反するものとして許されない。第1審原告は、今後も引き続いて第1審被告に対する婚姻費用分担義務を負い、将来の退職金や年金の一部も婚姻費用の原資として第1審被告に給付していくべきであって、同居、協力の義務も果たしてくべきである。」

3.長期間別居しさえすれば強引にでも離婚できるという考え方は危険

 裁判所が「極端な破綻主義的見解」と評している見解(有責配偶者からの請求でない限り、他にどのような事情があろうと、別居期間がある程度継続すれば必ず離婚請求が認容されるという見解)に類似した考えをもって、離婚の可否を判断している弁護士は、一定数いると思います。控訴審で結論は覆ったとはいえ、原審の裁判官も、第1審原告からの離婚請求を認容していました。「極端な破綻主義的見解」も、あながち間違いと決めつけられるわけではありません。

 しかし、何事にも限度というものがあり、一切の話合いを拒否するといったような極端な対応をとると、それは原則を修正すべきとするイレギュラー要素になってきます。

 離婚したいという相談を受けた弁護士としては、こうしたイレギュラー要因を排除しながら常識的な対応を助言しなければなりません。

 弁護士からのアドバイスであったとしても、直観的に極端だと思われる助言に従うと不適切な結果に繋がって行く可能性があります。

 本件では、極端なアドバイスを真に受けた結果、7年もの歳月をかけてなお離婚請求を棄却されたうえ、裁判所から退職金や年金の一部まで配偶者にあげろ(退職して年金を受給する年齢に達したとしても、あなたからの離婚請求は認めてやらない)という嫌味のような判示まで受けることになりました。

 離婚の可否ように、法律要件が抽象的で、解釈権者によって判断にぶれが生じる問題である場合、弁護士からの回答であったとしても、常識や直観に照らして疑問に思ったら、セカンドオピニオンを求めた方が良いと思います。