弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部活動の外部指導者による暴行、「サル」呼ばわりするイジリの違法性

1.外部指導者・部活動指導員の問題

 学校教育法施行規則に基づいて、

「スポーツ、文化、科学等に関する教育活動(・・・教育課程として行われるものを除く)に係る技術的な指導に従事する」

方を部活動指導員といいます(学校教育法施行規則78条の2、104条1項参照)。

 部活動指導員は、従来、顧問の教諭等と連携・協力しながら部活動のコーチ等として技術的な指導を行うものと位置付けられていた「外部指導者」という仕組みを制度化したものです。部活動の競技経験のない教諭が指導にあたるという不合理や、教員の長時間労働を是正するために導入された仕組みで、従来型の「外部指導者」と共に数多くの学校で採用されています。

https://www.mext.go.jp/prev_sports/comp/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2017/10/30/1397204_006.pdf

https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-spt_sseisaku01-000009706_3.pdf

 しかし、必ずしも教育に専門性を有している人ばかりではないためか、生徒との関わり方が不適切で問題が生じることが少なくありません。近時公刊された判例集に掲載されていた仙台高判令3.11.25労働判例ジャーナル121-56損害賠償等請求事件も、そうした事件の一つでうs。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、県立高校のアーチェリー部で外部指導者をしていた方です。

 原告になったのは、中学、高校と被告からアーチェリーの指導を受けていた方です。指導に関連して「サル」呼ばわりされたり、暴行を受けたりしたことが不法行為にあたるとして、損害賠償を請求した事件です。

 原審は公務員が個人責任を負わないとの判断のもと、原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。

 本件では被告(被控訴人)の不適切行為として、次のような事実が認定されています。

(裁判所の認定した事実)

「原告は、スポーツ少年団に加入して少年団のアーチェリー指導者の1人であった被告と知合い、間もなく少年団の練習で被告の指導を受けるようになり・・・、中学2年の平成28年7月17日に〇〇運動公園で行われたdアーチェリー大会で全体の3位の成績を挙げ・・・、中学2年頃からは、少年団やスポーツクラブの練習で被告とアーチェリーの勝負をするようになり、勝負で被告に勝つこともあった・・・。」

(中略)

「被告は、原告が中学1年生であった平成27年の夏頃から、少年団での原告の行動が活発で休憩時間の友人との話もうるさかったから、原告のことを『サル』と呼ぶようになり、原告が『サル』と呼ばれるのは嫌なので止めるように求めたこともあったが、『イジリじゃん』などと笑って言ってとりあわず、『サル』と呼ぶのをやめなかった・・・。」

(中略)

「被告は、原告が中学1年生であった平成27年の秋頃から、少年団の練習で原告と会った時などの挨拶のついでに、拳で原告の腹を叩くようになった・・・。」

「また、被告は、平成28年春以降のスポーツ少年団の指導やスポーツクラブでの練習の際,原告や他の団員に話しかけるついでなどの機会に、義足や義足でない足の先で、原告の脚のすねやふくらはぎのあたりを、時にふざけるように軽く蹴るようになった・・・。原告は、笑いながらかわしたこともあったが、脚を蹴られることについて、痛いからやめてほしいと被告に言ったこともあった・・・。しかし、被告は、『イジリじゃん』などと笑って言ってとりあわず、ふざけて原告の脚を蹴ることをやめなかった。」

(中略)

「被告は、平成28年頃、スポーツ少年団で原告にアーチェリーの矢を放つ際のフォームの指導をした際、矢を構えた原告の右手に、矢を持って矢先を近づけ、右手が矢先に当たらないように打てと指導し、矢を放った後に右手が矢に当たり、原告は右手に軽い刺し傷を負うけがをした・・・。以後、原告は、被告が矢先を右手に近づける指導をすることを拒否したため、そのような指導は1回限りであった・・・。」 

(中略)

「原告は、中学3年で中学の部活動やスポーツ少年団での練習がなくなることから、高校でもアーチェリー部に入部してアーチェリーの練習を続けるため、被告が外部指導者をしているb高校に入学することとし、正式に入部する前から、被告の個人練習や部活動に参加して、アーチェリーの指導を受けるようになった。被告は、原告が高校に入学して他のアーチェリー部員らと一緒に指導するようになった際、他の部員に対し、原告のことを『こいつサルだから。何やってもいい。』と紹介し、その後の部活動の際にも、原告が嫌がっていることを知りながらも、しばしば原告を『サル』と呼び、原告は、他の部員からも『サル』と呼ばれるようになった・・・。」

「被告は、高校の部活動での指導の際にも、挨拶代わりのように拳で原告の腹を叩く、足先で原告の脚を蹴るなどの行為を続け、フォームの指導として、矢を構えた原告の右手の先に、手に持った矢の矢はず(矢先の反対側でノックともいう。)を近づけて指導することもあった・・・。」

「原告は、平成30年5月から6月頃、2回にわたり、部活動の顧問のP5教諭に対し、被告から、腹を殴られ、脚を蹴られ、『サル』と呼ばれることについて苦情を述べ、原告の申出を受けたP5教諭は、被告に対し、これらの行為をやめるよう指導したが、被告は、腹を叩く、脚を蹴るという行為はやめたものの、『サル』と呼ぶことについては、P5教諭の指導を受けても、すぐにはやめなかった・・・。」

 このような事実認定を前提に、裁判所は、次のとおり判示して70万円の慰謝料を認定しました。

(裁判所の判断)

「前記・・・の認定に係る暴行等の性質及び態様によれば、原告は、中学生時代から『サル』と呼ばれ、『サル』と呼ぶことや、拳で腹を叩く、足先ですね付近を蹴る暴行は、高校の部活動においても『イジリ』や『ふざけ』としてしつこく継続されたものであって、原告の人格を傷つける悪質な違法行為である。また、中学生時代に1回、フォームの指導として矢先を右手に近づけてけがをさせたことも、指導としての相当性の範囲を逸脱した違法行為であるといえる。

「そして、前記・・・のとおり、被告によるしつこい暴行等の『イジリ』によって、被告の指導に不信感をもった原告は、他の部員との間でも疎外感を強め、適応障害の症状で6回にわたり通院して診療を受けるほど強いストレスを受け、高校の部活動をやめて転校せざるを得なくなったものと認められ、被告の暴行等により原告が受けた精神的苦痛の積み重ねは大きく、極めて大きな結果を招いている。

「このような肉体的、精神的苦痛の積み重ねと原告に生じた重大な結果を考慮し、一方で暴行それ自体は、比較的軽いものでけがをするようなことはほとんどなかったと認められ、また原告は、アーチェリーの競技を続けて好成績を残していること等の本件の一切の事情を考慮し、慰謝料は70万円が相当と認める。」

3.イジリだから・・・では正当化されない

 被害者・被害児童の側で、やめて欲しいと伝えても、加害者・指導者の側が真面目に取り合ってくれず、加害故意が続くことは、学校でも職場でも、しばしばみられる現象です。

 しかし、イジリだからイジメではないという理屈は、加害者独自の見解であり、合理性に乏しいというほかありません。

 児童の権利擁護についての裁判所の感覚は、年々鋭くなる傾向があるように思われます。例によって慰謝料額は僅少ですが、こうした裁判例が積み重ねられることは、不法行為抑止の観点から好ましいことだと捉えられます。