弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

非公務⇒公務型の継続的不法行為における公務員の個人責任追及の可否

1.公務員の個人責任

 民間の場合、従業員が事業に関連して不法行為をした場合、不法行為をした従業員個人とその使用者とが連帯して損害賠償責任を負います。この場合、被害者は、従業員個人だけを訴えることもできれば、会社だけを訴えることもできますし、従業員個人と会社の両方を訴えることもできます。

 他方、公務員が職務に関連して不法行為をした場合、不法行為をした公務員個人は損害賠償責任を負わず、国や公共団体だけが損害賠償責任を負います。これは公務員個人には責任が発生しないとする確立した判例法理があるからです(最三小判昭30.4.19民集9-5-534、最二小判昭53.10.20民集32-7-1367等参照)。

 しかし、不法行為の被害者には公務員個人の責任を問いたいと考える方も少なくなく、個人責任を追及することの可否は、現在においても、しばしば裁判所で争われています。

 こうした状況の中、公務員の個人責任追及の可否に関し、注目すべき判断を示した裁判例が出現しました。昨日もご紹介させて頂いた仙台高判令3.11.25労働判例ジャーナル121-56損害賠償等請求事件です。何に目を引かれるのかというと、一定の特殊な条件下においてではあるものの、公務員の個人責任を認めていることです。

2.損害賠償請求事件

 本件で被告になったのは、県立高校のアーチェリー部で外部指導者をしていた方です。

 原告になったのは、中学、高校と被告からアーチェリーの指導を受けていた方です。指導に関連して「サル」呼ばわりされたり、暴行を受けたりしたことが不法行為にあたるとして、損害賠償を請求した事件です。

 原審は公務員が個人責任を負わないとの判断のもと、原告の請求を棄却しました。これに対し、原告側が控訴したのが本件です。

 本件控訴審裁判所は、中学時代の指導が公務とはいえないことに着目し、次のとおり述べて、被告(被控訴人)個人の責任を認めました。

(裁判所の判断)

「被告の暴行等は、原告が中学生時代から『イジリ』ないし『ふざけ』として反復継続して行われた一連の行為であるといえる。高校の部活動に関しては被告が公務員である外部指導者として行った行為が含まれるが、高校でも『サル』と呼ばれるようになったそもそもの原因は、被告が、原告の中学生時代からスポーツ少年団等で指導をした仲間の感覚で、『イジリ』の続きとして『サル』と呼び、それを他の部員にも教えてしまったからにすぎない。」

このようなスポーツの指導に関する継続的な『イジリ』ないし『ふざけ』としての不法行為にあたる暴行等については、高校の部活動の指導者としての行為の部分に限れば国家賠償法1条1項により公共団体が賠償責任を負う可能性があっても、そのことで被告が、行為の一部についてのみ、民法709条の不法行為による損害賠償責任を免れると解するのは、公権力の行使による被害の救済を図ることを目的とする国家賠償法の趣旨に反するといえる。

したがって、被告は、高校の部活動の指導に関する行為についても、原告の中学生時代の行為と一体のものとして、前記・・・において認定した暴行等の不法行為による損害賠償責任を負うべきである。

3.かなり特殊な事案ではあるが・・・

 公務員の個人への責任追及は尽く否定されてきた長い歴史があります。そうした経緯を踏まえると、民間時代に起点を持つ継続的不法行為という特殊な事実関係を前提とした事例判断であるとはいえ、公務員個人の責任を認めたことは極めて異例なことです。

 控訴審裁判所に用いられた「公権力の行使による被害の救済を図ることを目的とする国家賠償法の趣旨に反する」との論理が、今後どこまで広がりを見せて行くのか、裁判例の動向が注目されます。