弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働契約の申し込みのみなし制度と労働者派遣法の適用を免れる目的

1.労働契約の申し込みのみなし制度

 一定の行為を行った派遣先は、派遣労働者に対し、労働契約の申込みをしたものとみなされます(労働者派遣法40条の6第1項)。

 労働契約の申込みとみなされる行為は五類型あり、その中の一つに、

この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」

があります(労働者派遣法40条の6第1項5号)。

 簡単に言えば、労働者派遣法の適用を免脱する目的で偽装請負をやった場合、派遣先は派遣労働者に対して労働契約の締結・直接雇用の申込みをしたことにされます。

 この規定は平成27年10月から施行されているものの、適用実績に乏しく、どのような場合に

「法律の規定の適用を免れる目的」

が認められるのかについて、不分明な状態が続いていました。

 しかし、近時、この論点を判断した裁判例が2件、立て続けに公刊物に掲載されました。一件は、昨日ご紹介した東京地判令2.6.11労働判例ジャーナル104-52 AQソリューションズ事件です。もう一件は、名古屋地判令2.7.20労働判例1228-33 日本貨物検数協会(日興サービス)事件です。

2.二通りの理解

 日本貨物検数協会(日興サービス)事件も、AQソリューションズ事件も、偽装請負に関連して労働者派遣法46条の6第1項5号の労働契約の申込みのみなし制度の適用の可否が問題になりました。いずれの裁判例でも適用潜脱目的の認定が問題になりましたが、裁判所は適用潜脱目的の意義と認定方法について、異なる理解を示しました。

 具体的に言うと、日本貨物検数協会(日興サービス)事件は、

「労働者派遣法40条の6第1項5号は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が請負その他労働者派遣以外の目的で契約を締結することについて、適用潜脱目的を有していたことをみなし申込みの要件としている一方、同項ただし書は、その者が同条1項各号に該当する行為について善意無過失であった場合には労働契約の申込みみなし制度の適用を免除している。」

「このような文理に照らすと、労働者派遣法40条の6第1項5号が定める労働者派遣法やこれが準用する労働基準法等の適用を免れる目的(適用潜脱目的)は、労働者派遣以外の名目で契約を締結したこと及び当該契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受けていることの主観的な認識(悪意)又は認識可能性(過失)とは必ずしも同一ではなく、むしろ、このような形式と実質の齟齬により労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべきものと解するのが相当である。

と判示し、これを肯定しました。

 他方、AQソリューションズ事件は、

「労働者派遣法40条の6第1項5号が、同号の成立に、派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を『免れる目的』があることを要することとしたのは、同項の違反行為のうち、同項5号の違反に関しては、派遣先において、区分基準告示の解釈が困難である場合があり、客観的に違反行為があるというだけでは、派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解される。そうすると、労働者派遣の役務提供を受けていること、すなわち、自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや、労働者派遣以外の形式で契約をしていることから、派遣先において直ちに同項5号の『免れる目的』があることを推認することはできないと考えられる。また、同項5号の『免れる目的』は、派遣先が法人である場合には法人の代表者、又は、法人から契約締結権限を授権されている者の認識として、これがあると認められることが必要である。

と判示し、これを否定しました。

3.立証命題は客観か主観か

 適用免脱目的について、日本貨物検数(日興サービス事件)が客観的に理解したのに対し、AQソリューションズ事件は主観的認識が問題になるものとして理解しました。

 直接雇用の申込みのみなし制度の適用を避けるために各企業で対策が採られた結果、労働基準法46条の6第1項の適用が可能な事件は必ずしも多いとは言えません。

 しかし、同項の適用可能性のある事件は、決してなくはありません。今回、適用潜脱目的について、客観面を重視した判断をするのか、主観面を重視した判断をするのかで意見は割れましたが、引き続き裁判例の集積による議論の蓄積が期待されます。