弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

「私はあなたのことを全く信用していない」「給料を下げて下さいと言え」「嫌なら辞めろ」等々、パワハラとなる言動の例

1.職場のパワーハラスメント

 職場のパワーハラスメントとは、

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

を言います。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html

 上記の定義に該当するパワーハラスメントには幾つかの類型があります。

 その中の一つに、

「精神的な攻撃  脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言

という類型があります。

 この「ひどい暴言」に、どのようなものが該当するのかについて質問を受けることがあります。

 確かに、一般の方にとっては、抽象的に「ひどい暴言」と言われても、どういうものが該当するのかのイメージがつきにくいかも知れません。

 近時、「ひどい暴言」の見本市ともいえるようなパワハラが問題になった裁判例が、公刊物に掲載されていました。

 福岡地判平31.4.15労働経済判例速報2385-18キムラフーズ事件です。

2.キムラフーズ事件-パワハラに該当する言動

 この事件で原告になったのは、甘納豆や棒ジュースの製造販売等を営む株式会社の従業員の方です。幾つかある争点の一つがパワハラで、被告代表者のしたことが不法行為・人格権侵害を構成するかが問題となりました。

 裁判所は次のとおり判示して、被告代表者の行為に違法性を認めました。

〔暴行〕

「原告の主張する被告代表者のパワハラ行為のうち、

平成28年11月11日の原告のミスを怒鳴って、肘で原告の胸を突いた行為・・・、

平成29年1月6日の原告の背中を叩いた行為・・・、

同月31日の原告の背中を叩いた行為・・・

はいずれも原告の身体に対する暴行であり、前期認定によれば、被告代表者がこれらの行為に及ぶ必要性があったとは認められないから、原告に対する違法な攻撃として、不法行為に該当する。」

〔発言や言動〕

「被告代表者の発言や言動のうち・・・

『私はあなたのことを全く信用していない』、『給料に見合う仕事ができていないと判断したら給料を減額する』、『私を無視し続けるということは、会社をないがしろにしていると判断して、あなたを解雇することもできる。』等の発言、・・・

『遅い、急げ、給料を下げるぞ!』と怒鳴るなどした行為、・・・

『給料分の仕事をしていない』旨告げて、このままの状態が続けば給料を下げる旨告げた行為、・・・

原告に対して役に立たないと言って、芋切りをするよう怒鳴るなどした行為、・・・

作業現場において『いつまでたっても進歩がない。いよいよできなければ辞めてもらうしかない。』と怒鳴った行為、・・・

原告にベテラン従業員の作業を記帳するよう指示し、記帳したとおりの作業ができなければ辞めてもらう旨告げた行為、・・・

不手際を謝罪した原告に対する『27万の給料を貰っている者の仕事ではない』『これが裁判までやって給料を守った者の仕事か』『給料を下げて下さいと言え』『もうこの仕事はできませんと言え。そうすればお前をクビにして新しい人間を雇う。』等の発言・・・、

金時豆が黒くなった件について『蜜の代金をお前が払え、始末書も書け。』と怒鳴った行為、・・・

『教えてもらっていないから分からない、私の責任ではないというのは向上心がない。女より悪い。女の従業員もそんな言い訳はしない。』等の発言・・・

平成29年1月31日に原告の背中を叩いた際に、叩かないで欲しい旨言った原告に対し、嫌なら辞めろと言ったり、・・・、他の従業員の面前で、原告は嘘をついているので背中を殴られて当然である旨や今後も作業が遅いなら給料を減額する旨言ったりした・・・行為、

給与の減額を告げた際の『私とあなたのゲームのようなものだ。ずっと続ける、裁判でも何でもどうぞ。』の発言・・・

他の従業員の前で原告に対し『遅い、アルバイトの作業と違うだろ』等と怒鳴ったりした行為・・・

原告を指導していた自見に対し、原告にはトイレ休憩以外は休憩をとらせないように指示したりした行為

については、もはや業務指導の範囲を超えて、原告の名誉感情を害する侮辱的な言辞や威圧的な言動を繰り返したものといわざるを得ず、原告の人格権を侵害する不法行為に当たるというべきである。」

「また、被告の従業員自見が、原告に対し、

『作業は1回しか教えない、社長に言われている』と発言したり・・・

被告代表者から、お前は休んでいいが、原告は休ませるなと言われている旨・・・や原告は給料が高いから厳しく教えろ、途中の休憩はとらせるなと言われている旨等・・・告げた事実

についても、被告代表者による上記トイレ休憩をとらせないよう言った指示と相俟って原告の人格権を侵害する行為といえ、不法行為に当たるというべきである。」

3.上述のような言葉はパワハラに該当する可能性がある

 暴行は論外としても、発言には前後の脈絡があり、上記のような文言を発することが、直ちに違法性ありと判断されるわけではないと思います。

 しかし、経緯によっては裁判所でも違法だと認定される可能性のある酷い言葉であるというところまでは、言っても不正確にはならないだろうと思っています。

 慰謝料額について、裁判所は、

「原告の身体的及び精神的苦痛に対する慰謝料額は50万円が相当である。」

と判示しました。

 パワハラの慰謝料額は伸びにくいのが一般ですが、人格権侵害の問題に関しては、金額の多寡は大きな問題ではないと捉える人も、結構いるように思われます。

 上述のような心ない言葉を浴びせられて、もう我慢の限界だ、そういう思いに駆られた方は、弁護士と相談のうえ、法的措置を真剣に検討してみても良いだろうと思います。