1.反社会的勢力と関係を持ってしまうことによるリスク
ネット上に
「カラテカ入江の吉本“解雇”の衝撃 『得体のしれない宴会に出ることはよくある…』(芸人)〈週刊朝日〉」
という記事が掲載されていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190609-00000015-sasahi-ent
記事には、
「お笑いコンビ『カラテカ』の入江慎也(42)が、4日付けで吉本興業から契約を解消され、芸能界に波紋が拡がっている。
写真週刊誌「フライデー」(7日発売)で、大規模振り込め詐欺グループの忘年会に同社所属タレントを仲介したことが掲載され、吉本興業が入江を調査した結果、交際を認めたため、“解雇”となった。」
と書かれています。
また、記事は、
「今回はいきなり解雇なのできつい。会社を通さない”闇”営業の仕事を紹介、あっせんしたからというのが理由と報道されているけど、そんな営業なんて誰もがやっています。」
「暴力団関係者が絡んでいたのはまずい。しかし、お客様に暴力団がいるか、いないか、なんて正直、わからへん。営業に行かないと、メシを食っていけない現状があるのも事実。入江はショックで電話も出ません。芸人にとって吉本興業の看板はとてつもなく、でかい。入江はそれを失ってしまい、おまけに暴力団関係者との付き合いを暴露されてしまって、これから食っていくのは厳しいでしょう」
という芸人さんのコメントを紹介しています。
一昔前と違い、暴力団が暴力団であるとは分かりにくくなっているのは確かだと思います。しかし、芸人さんの業界に、きちんと契約書を交わす文化があったとしたら、本件も、違った経過を辿っていた可能性があるかもしれないなと思います。
2.暴力団排除条項によるリスク管理
(1)企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
平成19年6月19日に犯罪対策閣僚会議幹事会申合わせで、
「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」
という文書が取りまとめられています。
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
http://www.moj.go.jp/content/000061957.pdf
http://www.moj.go.jp/content/000061959.pdf
同指針の解説には、
「暴力団を始めとする反社会的勢力が、その正体を隠して経済的取引の形で企業に接近し、取引関係に入った後で、不当要求やクレームの形で金品等を要求する手口がみられる。また、相手方が不当要求等を行わないとしても、暴力団の構成員又は暴力団と何らかのつながりのある者と契約関係を持つことは、暴力団との密接な交際や暴力団への利益供与の危険を伴うものである。」
「こうした事態を回避するためには、企業が社内の標準として使用する契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込むことが望ましい。」
と書かれています。
また、
「暴力団排除条項と組み合わせることにより、有効な反社会的勢力の排除方策として不実の告知に着目した契約解除という考え方がある。」
「これは、契約の相手方に対して、あらかじめ、『自分が反社会的勢力でない』ということの申告を求める条項を設けておくものである。」
「この条項を設けることにより・・・
相手方が反社会的勢力であることについて明確に否定した場合で、後に、その申告
が虚偽であることが判明した場合には、暴力団排除条項及び虚偽の申告を理由として
契約を解除することができる。」
とも書かれています。
(2)暴力団排除条例
東京都には暴力団排除条例があります。
同条例には以下の条文が設けられています。
(事業者の契約時における措置)
第十八条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
・・・(以下略)・・・
(3)暴力団排除条項によるリスク管理
以上の指針や条例の定めを受け、
① 暴力団や反社会的勢力と関係していないことを宣言させ、
② もし、暴力団や反社会的勢力と関係していることが判明したら契約を解除する、
という趣旨の契約条項を、自社の契約書の書式に組み込んでいる企業は数多くあります。
こうした条項を組み込んでおけば、仮に、契約締結時点で、反社会的勢力が、自らを反社会的勢力ではないと偽っていたとしても、反社会的勢力であることが判明した時点で速やかに契約を解除することが可能になります。
また、「その時は、暴力団・反社会的勢力だったとは、分からなかったんですよ。」という弁明にも一定の根拠が出てくることになります。
契約を結ぶときに、相手方と暴力団排除条項入りの契約書を取り交わしておくことは、危機管理上の常識になりつつあると言っても良いのではないかと思います。
なお、実際の暴力団排除条項の例ですが、下記の大阪府警察のホームページが参考になろうかと思います。契約書の自作を考えている方は、参考にしてみてはいかがかと思います。
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/boryokudan/1/6859.html
3.契約書を取り交わす癖をつけておくことが大事(フリーランスの方へ)
ネット上には、
「ハリセン近藤春菜 カラテカ入江契約解消の“矛盾”指摘 そもそも『契約書がない』という記事も掲載されています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190607-00000110-spnannex-ent
記事の中には、
「『契約という部分では、吉本興業と芸人との間に契約書というのもがない』と明言。」
という記載があります。
契約書を作らない業界にいると、契約書を作成することが、リスク管理上、どれだけ重要なのかを実感しにくかったのかも知れません。
しかし、信頼関係やら、阿吽の呼吸やら、暗黙の取り決めやら、内容の良く分からない不文律を前提にビジネスをする時代は、最早終焉を迎えつつあると言っても良いのではないかと思います。
本件でも、契約締結にあたり、相手方が反社会的勢力でないことを確認し、それを書面化しておけば、会社や世間からの風当たりも違っていたかも知れません。
今回、問題になったのは、芸能人の方ですが、これは芸人さんに限ったわけではなく、事業者全般にあてはまることです。
特に、フリーランス、個人事業主の方は、反社会的組織と繋がりがあると実名報道されてしまうと、受けるダメージは図り知れません。
企業規模が小さくなるほど顧問弁護士がいる率が少なくなっているように思われますが、これはあまり良くないことだと思っています。リスクに対して最も脆弱なのは、小規模企業や個人事業主であり、こうした人こそ、気軽に相談できる弁護士を確保しておくことが重要だと思います。