1.Amazonを利用した送り付け商法
ネット上に、
「Amazonからいきなり商品が来た...送りつけ商法の新型手口」
との記事が掲載されていました。
記事は、
「ギリギリセーフを狙い撃つ新型・送りつけ商法の手口」
との表題のもと、下記のとおり被害実例を紹介しています。
(以下引用)
佐川急便を装ってショートメールを送り、詐欺サイトに誘導する手口が猛威をふるっているが、本当に品物が送られてくる悪徳商法も存在する。Amazonやヤマトの代引きサービスを利用して一方的に商品を買わせる「送りつけ商法」だ。望まぬ商品を買わされた主婦の守田倫子さんが振り返る。
「5500円の代引きが来たので、旦那が頼んだのかなと思って支払ったんです。後で聞いたら、身に覚えがないという。中身はビニールでできたヴィトンの財布でした」
もちろん、コピー品だ。ジッパーが閉まりにくく、素材のビニールも安物。それでも守田さんは返品をしなかった。
「それくらいの金額ならクレームを入れたり被害届を出すほうがめんどくさい。韓国のコピー屋さんで買ったら同じくらいの値段みたいだし、損はしてないかなって。実際、使ってますしね(笑)」
(引用ここまで)
2.セーフではなく、普通に詐欺罪が成立する可能性が高い
「ギリギリセーフ」という言葉が何を意味しているのか(適法性のことなのか、摘発リスクのことなのか)は判然としません。
しかし、適法か違法かと言われれば、このような手口は違法である可能性が高いと思います。
より具体的に言えば、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する可能性が高いです。
3.対価が提供されていたところで詐欺罪の成立は妨げられない
昭和33年、普通の電気アンマ機を「ドル、バイブレーター」と称し、
「自分は毎週二回県立朝倉病院にこの機械で治療に行つている。この機械は久留米医大と県立朝倉病院にあるだけで普通の店では売つていない入手し難いものである。この機械を小児麻痺にかければ四十日位もすれば手足が自由に動くようになる。今日は一台だけあるから希望があれば特別で売つてもよい」
などと適当な嘘を言って、色々な人に売りつけていた詐欺師がいました。
この事案で最高裁は、
「たとえ相当価格の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、ことさら商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、詐欺罪が成立する。」
と判示しました(最二小判昭34.9.28刑集13-11-2993)。
最高裁の判旨は、
「真実を告知すれば相手方が財物を交付しないとみられる場合につき、財物の価値に相当する対価を提供しても詐欺罪が成立する」
との法理を示したものとして理解されています(前田雅英ほか編『条解 刑法』弘文堂,第2版,平19〕725頁参照)。
4.セーフではないので、被害に遭ったら警察へ
記事の事案においても、
「旦那が頼んだわけではない」ということが告知されていたなら、お金を渡していなかったという関係がある場合、
又は、
パクリ商品ということが告知されていたなら、お金を渡していなかったという関係がある場合、
には、詐欺罪が成立する可能性が高いと思います。
この種の法の抜け穴的な記事(私の感覚的にはセーフではなく、完全にアウトであって、全然抜け穴にはなっていないのですが)が出ると、「ギリギリセーフ」なんだという独自の理解のもと、真似をする輩が時折見受けられます。
お金相応の物が手元に残ったとしても、真実(注文していない事実・パクリ商品である事実)を告知されていたらお金を渡していなかったという関係がある限り、詐欺罪は成立する可能性が高いと思います。
被害に遭っても、泣き寝入りをすることなく、きちんと警察に行くことをお勧めします。個々の被害額が小さくても、同種被害の相談がたくさん寄せられれば、警察はきちんと守ってくれます(最高裁の事案でも多数の被害が問題になっています)。
また、個人的には、模倣を防ぐという観点から、マスメディアとしては、この種の記事で「ギリギリセーフ」といった適法性に誤解を招きかねない表現を使うことには、慎重になった方が良いのではないかと思います。