弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

相談しても解決しない? フリーランスのハラスメント被害

1.フリーランスのハラスメント

 ネット上に、

「フリーランスの6割パワハラ、4割セクハラを経験 相談機関なく泣き寝入りも」

という記事が掲載されていました。

https://news.yahoo.co.jp/byline/iijimayuko/20190910-00142072/

 記事は、

「特定の企業や組織に属さずに、個人で仕事を請け負うフリーランス。その数は300万人を超えるとの内閣府の試算もあるが、多様な働き方の一方で、フリーランスを守る法令は不十分なままだ。

「フリーランスに関する3団体が行った実態アンケートでは、フリーランス経験者のうち、パワハラを受けた人が61.6%、セクハラを受けた人が36.6%にのぼり、ハラスメント被害経験のある45.5%が誰にも相談できていなかったことが明らかになった。」

とフリーランスを守る法令が不十分であることを問題提起しています。

 確かに、十分とは言えないかも知れませんが、現行法の枠内でも、それなりの対応は可能です。

 どうにもならないと諦めてしまう人が出ないように、どのようなことができるのかを記しておきたいと思います。

2.精神的な攻撃、過大な要求、経済的な嫌がらせについて

 記事には、

「ハラスメントの内容は、『精神的な攻撃(脅迫、人誉毀損、侮辱、ひどい暴言)』が59.4%(724人)でもっとも多く、『過大な要求』42.4%(517人)、『経済的な嫌がらせ』39.1%(476人)と続いた。」

と書かれています。

 脅迫、名誉棄損、侮辱に関しては、脅迫罪(刑法222条)、名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)という犯罪が定められています。

 日常用語で用いられる脅迫、名誉棄損、侮辱が犯罪としての成立要件を満たすものかどうかは個別の検討が必要ですが、少なくとも、こういった行為の一部は犯罪として問題にすることができます。

 また、犯罪としての成立要件が満たされなかったとしても、別途、民事上の不法行為として直接の加害者や、加害者の使用者に対して損害賠償を請求できる可能性があります(民法709条、民法715条)。

 ひどい暴言についても、民事的に問題にできる余地はあるだろうと思います。

 また、「過大な要求」、「経済的な嫌がらせ」は、契約時に契約書をしっかりと作りこんでおくことにより予防可能です。

 何が要求されるのかを明確に定義しておけば、過大な要求は「それは契約上の義務を超える要求ですよね。」という理屈で断ることができます。

 どういう条件のもとで報酬が発生するのかをきちんと決めておけば、嫌がらせをしようにも、嫌がらせをされる余地はぐっと減るだろうと思います。

 きちんとした契約書は、弁護士に相談してくれれば、作ることが可能です。

3.プライベートへの立ち入り、容姿等への言及、性的な質問について

 記事には、

「『プライベートを詮索・過度な立ち入り』33.7%(410人)、『容姿・年齢・身体的特徴について話題にした・からかわれた』33.6%(409人)、『性経験・性生活への質問、卑猥な話や冗談』28.5%(347人)とセクハラ被害が相次いだ。」

と書かれています。

 高額の慰謝料が見込める事案は限定されてくるとは思いますが、プライバシー侵害は不法行為となりますし、容姿等への言及や性的な質問も、度を越えれば違法性を持つだろうと思います。

 また、こうした嫌がらせに対しては、代理人弁護士名で、止めて欲しいと要望書や警告書を出すことも一定の効果を発揮することがあります。

4.ギャラ未払い、局部を触られること、イラストの権利主張への難癖等について

 記事には、

「『打ち合わせと称して、ホテルに呼び出されてレイプされた』(女性40代、映像製作技術者)、『仕事で取引のある会社の社長に新事業を見て欲しいと言われ地方出張へ出向いたところ、ホテルで性的関係を迫られた』(女性20代、アナウンサー)、『主催者の自宅で稽古をすると言われて行ったら、お酒を飲まされて性的な行為をさせられた』(20代女性、女優)、『お尻を触られる、局部を触らされる』(男性30代、脚本家)といった深刻な性暴力被害が明らかになった。」

「また、『ギャラ未払いに対する支払い要求に逆ギレされた』(30代女性、女優)、『イラストの権利を主張した際、金の亡者と言われ謝罪させられた』(20代女性、イラストレーター)など、ギャラの支払いをめぐるトラブルをあげる声も複数あった。

 性暴力に関しては、強制性交罪(刑法176条)、強制わいせつ罪(刑法176条)、準強制わいせつ及び準強制性交罪(刑法178条 酩酊させて抗拒不能に乗じてわいせつな行為を行うことなどをカバーする罪です)といった形で刑事責任を問うことが可能です。もちろん、こうした行為は不法行為を構成するため、民事上の損害賠償請求も可能です。

 ギャラの未払いに関しては、ギャラの支払いを求めて訴訟提起するなどの措置をとることができます。金額が少なく事案も単純だという場合、裁判所の窓口で訴状の書き方を教えてもらえることもありますし、法律相談の中で弁護士に訴状に書く内容の骨子を聞くという方法も考えられます。民事調停といって、比較的自力で行いやすい手続もあります。

 イラストの権利を主張するなどの正当な権利行使に対して謝罪を強要することも、許されることではありません。脅迫や暴行が手段として謝罪が強要されている場合には、強要罪(刑法232条)として問題にできる可能性もあります。

 強迫による意思表示は取り消すことが可能なので(民法96条)、脅かされて権利を放棄したとしても、著作権の確認訴訟を提起することで権利の回復を図ることができます。

5.相談してくれれば、ある程度解決の仕方を提示することは可能

 記事によると、

「ハラスメント被害を相談しなかった理由として、『相談しても解決しないと思った』56.7%(240人)、『人間関係や仕事に支障が出る恐れ』53.7%(227人)、『不利益を被る恐れ』42.8%(181人)が上位をしめ、『どこに相談すればよいか分からなかった』37.8%(160人)という声もあった。」

と書かれています。

 何が解決なのかは人によって違うので、一概にお悩みを解決できるとは言い切れません。しかし、現行法上できることについて、ある程度の解決の仕方を提示することは可能だと思います。

 解決しないと思って最初から相談しないというのは、少し早計かなと思います。

 また、ハラスメントを止めるように言って、損なわれてしまうような人間関係については、果たして守るほどの価値があるのだろうかという気がします。ハラスメントの指摘に対して、不利益を科してくるような相手との関係も同じです。

 我慢してハラスメントに耐えながら仕事をするよりも、人の嫌がるようなことを敢えてしてきて、注意しても止めてくれないような人を相手に取引をするのは止めると開き直ってしまう方が、楽しく幸せに働くことができるのではないかとも思います。

 相談しないのは、やや勿体ないので、一人で悩んでいるくらいであれば、取り敢えず、弁護士に相談してみてはどうかと思います。