1.早期退職しない限り続く面談
「早期退職しない限り面接が続き…『45歳以上クビ切り』横行中」というネット記事が掲載されていました。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190422-00010000-flash-peo
記事によると、
「人手不足が叫ばれるなか、大手企業がいま、『早期希望退職』という名のリストラで、45歳以上の人員整理に走っている。」
とのことです。
そして、
「退職強要まがいの『面談』」を受けた方の、
「面談者の部長から、『今の部署に残りたいというのであれば、どのように貢献できるのか、示せ』と言われた。面談のたびに貢献策を提案したが、部長からは毎回駄目出しを食らった。結局、何を提案しても無駄な抵抗と感じた」(54歳、NEC経理)
「6回めの面談時に、『面談をやめてください』と何回もお願いしたが、部長は『答え(早期退職の選択)が出ない限り終わらないのよ~』と冷たく言い放った。いつまで面談が続くのかと、絶望感に襲われた」(54歳、NEC技術)
という発言が紹介されています。
2.社会的相当性を逸脱した態様の退職勧奨は許されない
指摘するまでもありませんが、社会的相当性を逸脱した態様での退職勧奨は違法です。行き過ぎた退職勧奨に不法行為への該当性を認めた裁判例は、古くから相当数出されています。
3.「退職」という言葉を出さなければ退職勧奨にならないわけではない
記事の事案に参考になりそうな裁判例として、神戸地判平28.5.26労判1142-22学校法人須磨学園ほか事件があります。
この事案では視覚障害を有する高等学校の教諭に対する教材研究命令の適法性が問題になりました。
裁判所は、
「この命令のあった3月24日、原告との面談において、被告Y2は、目が見えなければ授業ができないなどと発言し、また,被告Y1らは原告に対し教師として自分を改善するよう命じ、改善のチャンスを与えられても改善できなかった場合はどうするのか答えを出すようにとも求めた。この『答え』の内容は明らかにされていないが、退職を示唆するものであると容易に理解することができ、原告もそのように認識したと認められる。」
ことなどを指摘したうえ、
「一連の経緯からすれば、教材研究命令は、業務上の必要性から行われたものではなく、従来から勤務成績が悪く被告Y1自身もその直前に直接不快な体験をさせられた原告につき、自主的に退職してもらうための環境を整えるために行われたものであることが強く推認され、これを覆す証拠はない。」
「したがって教材研究命令はそもそも業務上の必要性が認められないうえ、原告を自主退職に追い込むという不当な動機・目的の下に行われたものであり、社会通念上著しく合理性を欠いているといわざるをえず、業務命令権を濫用したものとして違法無効である。」
と判示しました。
退職という言葉を出しさえしなければ退職勧奨にならないわけではありません。また、自主退職に追い込むという動機・目的のもとで行われる業務命令には、その適法性に強い疑義があります。
54歳NEC経理の方が受けたような面談や、ひたすら「どのように貢献できるのか、示せ」と迫る業務命令は、例え「退職」というキーワードそのものを出さなかったとしても、違法な退職勧奨とされる可能性が高いと思います。
4.際限のない面談にも問題がある
際限なく続く面談にも問題があります。
この点については、京都地判平26.2.27労判1092-6エム・シー・アンド・ビー事件が参考になります。
この事案では、
「合計5回の面談」
による退職勧奨が行われました。
裁判所は、
「第2回面談及び第3回面談で、原告は自分から辞めるとは言いたくない旨述べ退職勧奨に応じない姿勢を示しているにもかかわらず、繰り返し退職勧奨を行っていること」
などを指摘したうえ、
「被告の原告に対する退職勧奨は、退職に関する労働者の自由な意思形成を促す行為として許容される限度を逸脱し、労働者の退職についての自由な意思決定を困難にするものであったと認められ、原告の退職に関する自己決定権を侵害する違法なものと認めるのが相当である。」
と退職勧奨の違法性を認めました。
労働者側が明確に拒否しているにもかかわらず、退職勧奨を継続することには問題があります。
54歳NEC技術の方が経験したという、面談を止めてくれと言っているにもかかわらず、「答え(早期退職の選択)が出ない限り終わらないのよ」などと退職を迫るやり方は、やはり適法性に問題ありと言える可能性があると思います。
5.無力感・絶望感に襲われたら専門家に相談を
上述のとおり、行き過ぎた退職勧奨は違法です。
もし、お困りの方がおられましたら、無力感・絶望感にさいなまれる前に、専門家のもとに相談に行くことをお勧めします。違法性を指摘することにより是正できるケースは相当数あると思います。
もちろん、当職でもご相談をお受けすることは可能です。