1.フリーランス・個人事業主としての働く人は増加している
働き方の多様化に伴い、企業に雇用されず、フリーランス・個人事業主として働いている人が増加しています。
読売新聞の記事によると、厚生労働省が「企業から個人で発注を受けて仕事をする事業主(個人請負型事業主)が、全国で約170万人に上る」とする調査結果を公表したとのことです。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190413-OYT1T50194/
記事が指摘しているのは、厚生労働省の雇用環境・均等局が所管している「雇用類似の働き方に係る論点整理等に関する検討会」の第9回資料のことだと思います。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04375.html
「資料3-1 雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」を見ると約170万人という数値が記載されています。
厚生労働省は過去にも「個人請負型就業者に関する研究会報告書」という資料を発行しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005yde.html
この報告書は平成22年4月に作成されたものですが、個人請負型就業者の数について、
「個人請負型就業者に関する公的な統計は存在しないため、その総数を正確に把握することは難しいが、山田久(2008)は国勢調査からの推計で、2000年では約 663万人であったのが、2008年には約 110 万人まで増加していると指摘している。また、労働政策研究・研修機構『多様な働き方の実態と課題』(2007)によれば、労働力調査から各種補正を行った結果、125万人と推計されている。」
と言及しています。
フリーランス・個人事業主として働く人が極めて速いペースで増加していることが見てとれるのではないかと思います。
2.本当の意味でのフリーランス・個人事業主には労働法が適用されない
本当の意味でのフリーランス・個人事業主として働く人には労働法が適用されません。これは独立した事業主なのだから当然のことです。
「本当の意味での」と留保を付けたのは、就労実体は労働者そのものなのに、形の上だけフリーランス・個人事業主という「本来的でない」フリーランス・個人事業主の方がいるからです。
こういう「本来的でない」フリーランス・個人事業主の方は、当然、労働者性を主張することにより、労働基準法ほか各種労働法制による保護を受けることが可能です。
ある人が労働者か否かを判断する基準に関しては、ネットを見るだけでもたくさんの情報が掲げられています。独立行政法人 労働政策研究・研修機構ものが比較的よくまとまっています。下記にリンクを張っておきますので、労働基準法ほか各種労働法制による保護を受けられないことに疑問を持っているフリーランス・個人事業主の方は、一度参照してみてもよいかも知れません。
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/01/01.html
3.交渉力・情報力格差を放置しても良いのか
独立した事業主であるとはいっても、フリーランス・個人事業主の方が巨大な企業・法人から仕事を受注・受託する場面を想定すると、その力関係(交渉力・情報力)には歴然とした差があります。
伝統的な労働者の定義にあてはまらないからといって、これを放置しても良いのかという問題意識が、フリーランス・個人事業主として働く方の増加とともに、最近、顕著になってきています。
そこで、以下では現行法制上、フリーランス・個人事業主として働く人を守ってくれる法制度について簡単にご紹介したいと思います。
(1)下請法
これは正確には「下請代金支払支援等防止法」と呼ばれる法律です。
一定の資本金規模以上の親事業者が、個人を含む一定の資本金規模以下の下請事業者に対して、仕事を依頼する時のルールを規制している法律です。
発注の際の書面交付義務(下請法3条)、代金の一方的な減額の禁止(下請法4条1項3号)、著しく低い対価での買い叩きの禁止(下請法4条1項5号)などを内容としています。
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/index.html
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyagimu.html
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html
これによって、ある程度、事業者間での取引の適正が保たれることになります。
買い叩きが禁止されているため、読売新聞の記事にある「発注元の企業に一方的に決められている」とあるのが、原価割れするような水準を押し付けられているという趣旨であれば、そういう事態はこの法律で是正できる可能性があります。
ただ、下請法が適用される事業領域には限定がありますし、事業領域の問題がクリアされても資本金規模に関する規制にあてはまらない事業者間には適用されないという限界はあります。
(2)独占禁止法(優越的地位の濫用)
近時、注目されているのが独占禁止法の優越的地位の濫用という法規制です。
独占禁止法は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と規定しています(独占禁止法19条)。
不公正な取引方法は独占禁止法2条9項で定義されています。
その中に優越的地位の濫用という法規制があります。
これは、大雑把に言えば、
「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」
「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し」
たりすることを禁止する法規制です(独占禁止法2条9項5号参照)。
下請法との関係では、一般法と特別法の関係に立ちます。
昨年、公正取引委員会は「『人材と競争政策に関する検討会』報告書」という資料を発表しました。
ここでは交渉力や情報力の格差を背景に、あまりに個人事業者やフリーランスに酷な取引条件を押し付けることが独占禁止法違反になる可能性が示唆されています。
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.html
https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf
民事訴訟で独占禁止法違反を主張して力関係の是正を図ることは、従来の裁判例の傾向としては極めて困難でした。公正取引委員会の報告書は、こうしたトレンドを変化させる可能性のあるものとして注目されています。
4.保護のアプローチと法律家の役割
フリーランス・個人事業主の方に対する保護のアプローチとしては、①就労実体が労働者と変わらない人には労働者性を主張することによって労働者保護規制を及ぼしていく、②自営業者であることは否定できないものの不公正な取引条件を押し付けられている人には経済法(下請法、独占禁止法など)の適用を検討して行く、という切り分けが考えられます。
いずれのアプローチをとるにしても、法律家以外の方が簡単に展開できる議論でもありません。雇用類似の働き方に関する問題は、まさに厚生労働省で論点整理が進められている最中の問題であり、最先端法領域と言ってよく、専門家でもフォローしている人が限られている問題です。お困りの方は弁護士ほか法律家に積極的に相談されると良いと思います。