1.妻からのDVが原因で浮気をした夫。裁判で勝ち目がないと言われ・・
「妻からのDVが原因で浮気をした夫。裁判で勝ち目がないと言われ・・・」というネット記事が掲載されていました。
http://news.livedoor.com/article/detail/16301095/
記事によると、夫は妻から
「どうせ酒飲んで遊んでるんだろ。もっと早く帰ってこい」
「稼ぎが悪い、時給100円だろ!」
などの暴言を浴びせられていたり、
「吸いかけの火が付いたタバコを投げつけてくる」
「逆ギレされて顔、肩などバシバシ叩」かれる
などの暴力を受けていたりしたとのことです。
そうした中、浮気に及んだところ、浮気相手とのLINEを妻にみられ、DVは更にエスカレートしていったと書かれています。
これに対し、弁護士から、
「家庭裁判所ではDVよりも不貞行為の方が罪が重い。かなり難しいです」
と言われたとのことで、
「そもそも浮気も妻のDVが原因なのに、離婚できないなんてどうしたらいいんだ…」
と頭を抱えているようです。
また、第三者弁護士Aのコメントとして、
「DVを立証するのは非常に難しいです。被害者が怪我をし病院に運ばれたり、警察に通報するのであれば立証されることもありますが、稀なことです。妻の暴言を録音する、LINEのやり取りで暴言を吐いた証拠を見せる、DVを立証しそれによって夫婦生活が破たんしていると裁判で主張するしかないでしょうね。それがないと、不貞行為のほうが重くまず勝ち目はない。また妻のDVが原因で不貞行為に至ったという不貞行為に対する正当性も、裁判ではトータルで判断されます」
という言葉を紹介しています。
2.「難しいです」で放置して良いのか?
記事で夫が相談に行った弁護士は、「かなり難しいです。」という判断をしたようです。しかし、個人的には、もう少し踏み込んだ対応をしても良かったのではないかと思います。
3.本当に難しいのか、確認が必要ではないか?
確かに、不貞行為などに及んだ有責配偶者からの離婚請求には、かなり高いハードルがあります。
しかし、有責配偶者からの離婚請求が認められないのは、有責側でない配偶者が離婚請求を拒んだ場合だけです。有責でない配偶者の側でも愛想が尽きており、離婚しても構わないという心境であった場合、離婚が成立する可能性はあります。金銭的な条件によっては離婚に応じるという方も相当数います。
したがって、「かなり難しい。」という結論を出す前に、先ずは妻に対し婚姻生活を継続して行く意思があるのかを確認してみても良いだろうと思います。
4.暴行や暴言への手当が必要ではないか?
また、妻の側が離婚に反対していて、本当に現状での離婚請求が難しい場合であったとしても、暴言や暴行(特に暴行)に何の手当もしておかなくて良いのか? という疑問があります。
DVが横行する背景には、密室性があります。加害者が過激な暴言や暴行に及ぶのは、被害者は事を公にしないはずだと高を括っているという面もあります。
ですから、暴力が振るわれた場合には、民事・刑事上の相応の法的措置をとると代理人弁護士名で警告をするだけでも、暴行や暴言の抑止には一定の効果があるのではないかと思われます。
5.DVの証拠化を示唆することも必要ではないか?
記事のA弁護士は「DVを立証するのは非常に難しいです。」と言っています。
これは証拠化を意識していなかった過去の暴言・暴行を立証するのは難しいという意味ではないかと思います。
暴言は録音機を回しておけば普通に録取されますし、暴行も一定の強度がある場合、部位を写真撮影しておくだけでもそれなりの証拠になります。警戒していない相手から証拠をとることは、それほど難しくありません。
記事で夫から相談を受けた弁護士としては、警告書の発出などで介入しないのであれば、せめて暴言・暴行の証拠化はアドバイスしていて良かったのではないかと思います。累積してくれば意味を持ってくる可能性があるからです。「原告の有責行為が婚姻破綻の原因だとしても、それが唯一の、または主たる原因ではないとしたら、やはり離婚が否定されることはない・・・。いいかえると、相手方が原告と同等またはそれ以上に有責であるならば、離婚請求が認められる。」と理解されているからです(島津一郎ほか編著『新版 注釈民法(22)親族(2)」〔有斐閣,初版,平20〕395頁参照)。
長期間、大量の証拠が積み重なって、多くの人が「幾ら夫の不貞に触発されたからといって、これはちょっと・・・」と思うレベルになれば、本件の結論も、また変わってくるかも知れません。
6.DVが原因で不貞行為に至ったという言い分は通用するか?
記事のA弁護士は「妻のDVが原因で不貞行為に至ったという不貞行為に対する正当性も、裁判ではトータルで判断されます」と言っています。
その趣旨は今一判然としませんが、DVを受けたから不貞が許容されるという主張に正当性が認められることは、基本的にはないだろうと思います。
当然のことながら、DVを受けたからといって、みんながみんな不貞行為に走るわけではありません。むしろ、基本的にDVと不貞行為とは(因果)関係がないだろうと思います。
DVによって夫婦関係が既に破綻状態に至っており、不貞行為が夫婦関係に与えた影響はないという議論であれば考えられるかも知れません。「有責配偶者として離婚を拒否されるのは、その者の有責行為と婚姻破綻との間に因果関係がある場合にかぎられる」とされているからです(前掲文献395頁)。
しかし、これもDVが原因で既に一定期間別居状態にあるなど、外形的に夫婦関係が破綻していることがある程度明確になっていなければ、なかなか受け入れられる議論ではなさそうに思います。
本件の相談を受けるにあたっても、「DVが原因で」という部分に引きずられすぎると是々非々で冷静に見解を出すことの妨げになりそうだなと思います。
7.難しいならどうするかを考える
本当に手の施しようのないこともないわけではありませんが、事件は難しいとしても難しいなりに活路を見出せることもあります。そういう意味でも、法律相談でセカンドオピニオン、サードオピニオンを取ってみることは検討してみて良いことだと思います。