弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

有給休暇の申請を5営業日前に行うルールが否定され、前日夜のメールによる有給休暇の取得が認められた例

1.有給休暇の取得

 有給休暇の取得に際し、就業規則で一定の予告期間を置くように求められていることがあります。

 こうした就業規則の定めは、直ちに違法であると理解されているわけではありません。例えば、最一小判昭57.3.18労働判例381-20 電電公社此花局事件は、「交替服務者が休暇を請求する場合は、原則として前前日の勤務終了時までに請求するものとする。」との就業規則の定めを労働基準法39条(年次有給休暇)に違反するものではないとした原審の判断を是認しています。

 ただ、これは「前前日」であるから許容されたのであって、不合理に長い予告期間を設けるようなことがあれば、その適法性は当然問題になり得ます。近時公刊された判例集にも、有給休暇の申請を5営業日前に行うことを定めた就業規則の効力を否定した裁判例が掲載されていました。大阪地判令4.9.29労働判例ジャーナル131-20 大尊製薬事件です。

2.大尊製薬事件

 本件で被告になったのは、健康食品や医薬品、医薬部外品等の販売や輸出入等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、通訳等の業務に従事していた中国籍の男性です。被告から行われた解雇が違法無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告は種々の解雇理由を主張しましたが、その中の一つに無断欠勤がありました。

 その趣旨は、

被告では、

「年次有給休暇を取得しようとするときは、取得しようとする日の5営業日前までに所定の用紙にて請求しなければならない。」

とされていた、

原告が行った、令和2年12月17日、18日、25日及び26日午前について有給休暇の申請は、これに違反していた、

被告が原告による直前の有給休暇の申請を認めなかったにもかかわらず、原告は被告に無断で欠勤した、

というものでした。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、無断欠勤の事実を否定しました。

(裁判所の判断)

原告は、令和2年12月17、18日、22日及び25日について年次有給休暇の取得を申請したところ・・・、被告は、就業規則21条2項において有給休暇の申請は5営業日前に行うこととされていることから、上記の申請は適法な年次有給休暇の申請とは認められない旨主張する。

しかし、労働基準法39条5項は、使用者は、労働者の請求する時季に年次有給休暇を与えなければならない旨を定めているところ、就業規則の上記定めは、同項ただし書所定の時季変更権を行使する場合以外に労働者の請求する時季に年次有給休暇を与えない場合を創設するものであるから、同項に反し無効である(労働契約法13条)。したがって、被告の上記主張は、前提となる就業規則の定めが無効であるから、採用することができない。

「被告は、原告から総務経理業務の引継ぎを早期に受ける必要があったこと、経理業務に関する外部の公認会計士による調査が予定されており、原告の立会いが必要であったことから、令和2年12月17、18日、22日及び25日について有給休暇を認めなかったのは適法な時季変更権の行使によるものである旨主張する。」

「しかし、上記各日のうち最初の申請は同月16日に同月17日及び18日の年次有給休暇の申請をしたものであるところ・・・、その前日までに被告の従業員に対する同年11月分の賃金の支払は終えており・・・、原告には総務経理業務の引継ぎ以外に従事する業務はなかったのであるから・・・、上記申請の対象となる日に引継ぎを受けなければ被告の事業の運営に支障を生じさせる事情があったとは認められない。また、上記認定事実・・・のとおり、本件外部業者は同年12月21日及び24日に被告事務所で経理業務に係る調査や原告へのヒアリングを行って調査結果を報告したことからすると、原告が有給休暇の請求をした日に外部の公認会計士の調査を受けなければ被告の事業の運営に支障を生じさせる事情があったとは認められない。」

「以上によれば、被告の上記主張は、前提となる業務の運営に係る支障が認められないから、採用することができない。」

また、被告は、令和2年12月26日午前の原告の欠勤について了承していないから、無断欠勤に当たる旨を主張する。しかし、上記認定事実・・・のとおり、原告は同月25日夜に同月26日午前は所用により遅刻する旨のメールをP3(副社長 括弧内筆者)に対して送信したものの、P3はこれに対する回答をしていないのであるから、就業規則17条1項所定の申出に対する応答をしていないものと認められる。したがって、原告の同日午前の欠勤は、就業規則所定の申出をし、未だ承認又は不承認の判断が出ていないものであるから、就業規則に反する無断欠勤であるとはいえない。

「以上のとおり、原告が無断欠勤した日として被告が主張した日は、原告による適法な年次有給休暇の時季指定がされ・・・、被告による時季変更権の行使は認められない・・・ことにより、年次有給休暇と認められる日か、就業規則所定の遅刻の事前申出をしたもののこれに対する応答がなかった日・・・であるから、いずれも就業規則に反する無断欠勤ではない。」

3.5営業日前ルールは否定された

 上述のとおり、裁判所は、有給休暇の申請を5営業日前に行うとの就業規則の定めの効力を否定しました。予告期間が何日くらいまで伸びると違法になるのかは一義的には答えを出しにくい問題ですが、違法性があるとされる日数の目安として参考になります。

 また、直前の有給休暇の取得は紛議を招くことが多いのですが、使用者側の回答がない場合、前日夜にメールで行った有給休暇を申請して欠勤したことが無断欠勤に該当しないと判断されている点も、他の事案でも活用できる重要な判断であるように思われます。