弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

有期時給制契約社員と無期正社員との間での年末年始勤務手当・有給病気休暇の付与に係る労働条件の差異が不合理とされた例

1.旧労働契約法20条

 労働契約法20条に、

「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において『職務の内容』という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

という規定がありました。

 大雑把に言えば、有期契約社員と無期契約社員との間で、不合理な労働条件格差を設けてはならないとする条文です。

 この規定の理解について、近時、最高裁が、正社員に対して付与している年末年始休暇、有給病気休暇を有期時給制契約社員に付与しないのは違法だとする判決を言い渡しました。最一小判令2.10.15労働判例1229-58 日本郵便(時給制契約社員ら)事件です。

 昨日紹介した日本郵便ほか(佐賀中央郵便局事件)と同日に言い渡された判決ですが、テーマとなった手当が異なっています。

2.日本郵便(時給制契約社員ら)事件

 最高裁の判示は、次のとおりです。

(裁判所の判断)

-年末年始勤務手当について-

「第1審被告における年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると、前記・・・のとおり、郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

「したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

-病気休暇について-

「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)。」

第1審被告において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、第1審被告においては、上記時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、前記・・・のとおり、上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。」 

「したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

3.職務の内容、配置の変更の範囲と関係性の希薄な手当は合理性を否定しやすい?

 年末年始勤務手当の趣旨は、

「最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものである」

とされました。

 病気休暇の趣旨は、

「長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるもの」

とされました。

 いずれにも共通するのは、職務の内容や配置の変更の範囲との関係性が希薄である点です。条文構造上、合理性の判断にあたっては、職務の内容や配置の変更の範囲が考慮される形になってます。そのため、職務の内容や配置の変更の範囲に差異がある場合、それらと手当との結びつきが強ければ強いほど手当の差異の合理性は肯定されやすく、逆に、結びつきが弱ければ弱いほど手当の差異の合理性は肯定されにくくなります。本件の場合、年末年始勤務手当は特定の時期に稼働したことへの対価であること、病気休暇は継続的な雇用の確保を目的としたものであることから、職務の内容や配置の変更の範囲との結びつきが弱く、これらの差異から合理性を根拠付けることが難しかったのではないかと思われます。

 こうした傾向をみると、労働条件格差の不合理性を主張する場面では、手当の趣旨が職務の内容や配置の変更の範囲と関係の希薄なものであるかの見極めが重要であることが分かります。この見極めがしっかりしていれば、裁判に必要な労力や審理期間を、従前に比して大幅に少なくすることができるかも知れません。