1.会社の口コミ
会社を辞めた方が、転職サイトにネガティブな書き込みをすることがあります。
求人難の背景もあるためか、こうしたネガティブな書き込みに対し、使用者側から名誉毀損を理由に訴えられることがあります。
名誉毀損と民事上の不法行為責任に関して、最一小判昭41.6.23最高裁判所民事判例集20-5-1118は、
「民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である」
と判示しています。
つまり、使用者側からの名誉毀損に基づく損害賠償請求をブロックするためには、
① 公共の利害に関する事実であること、
② 公益目的であること、
③ 真実性、又は、真実相当性
を立証して行く必要があります。
それでは、会社でパワハラが行われていると指摘することは、①公共の利害に関する事実であり、②公益目的で行われたものと言い得るのでしょうか?
一私企業内で起きていることは大多数の国民にとっては関係がありません。また、この種のネガティブな書き込みは私的に社会的制裁を加えるために行われたと指摘される危険を含むものでもあります。
近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる判断が示された裁判例が掲載されていました。東京地判令7.1.15労働判例1334-63 ICT・イノベーター事件です。
2.ICT・イノベーター事件
本件で原告になったのは、人材派遣業及びITソリューション事業を営む株式会社です。
被告になったのは、原告の元従業員です。会社の口コミや求人情報を掲載する転職総合サイト(転職会議)に行った投稿が名誉毀損であるとして、原告から損害賠償を請求されたのが本件です。
本件では幾つかの投稿が問題視されましたが、その中の一つに「パワハラ、独断と偏見が凝り固まっているため、場合によっては精神的な治療が長期間必要になる可能性も充分にある」などと書かれた投稿がありました。
この事件では結論として真実性の立証がないとして、被告に金銭の支払が命じられました。しかし、公共の利害に関する事実が公益目的での摘示されたことは認められました。裁判所の判断は、次のとおりです。
(裁判所の判断)
「本件記事2(上記文言を含む記事 括弧内筆者)が投稿されたのは、cが運営する、会社の口コミや求人情報等を掲載する転職総合サイト内の『働く社員・管理職の口コミ』欄であり・・・、本件記事2は、『【良い点】辞めていなければ、良い営業が居る。愛想は良い人が多いため、薄っぺらい関係なら所属しやすい会社』との記述に続けて、同記述と一体のものとして作成された記事である・・・。このような本件記事2は、転職活動を行っている者が本件掲示板を見て原告に転職するか否かを判断するにあたり参考となる事実を摘示するものといえるから、公共の利害に関する事実を摘示したものといえる。また、転職活動を行う者にとって、良い点も悪い点もどちらも有益な情報となるところ、転職活動に資する口コミの投稿を行うためには、本件記事2のように『気になること・改善したほうがいい点』を記載することが公益を図るために必要であり、上記のとおり、本件記事2が『良い点』の記述とともに投稿された記事であることを踏まえると、本件記事2は、転職活動をする者の職業選択の参考とするという公益を図る目的の下にされた投稿といえる。」
3.公益目的が認められやすいポイント
公共の利害に関する事実と認められたことも興味深く思いましたが、より目を引いたのは公益目的の認定方法です。裁判所は、ネガティブな点だけではなく、ポジティブな点を併記していたことを指摘し、「転職活動をする者の職業選択の参考にするという公益を図る目的」を認定しました。
これは私怨による名誉毀損だと指弾されることからガードするための技法として、一定の参考になると思います。
ただ、結局、ガードし切れたところでマイナスを防げるだけでプラスには繋がらないため、個人的には、退職した会社にネガティブな内容を掲示板に書き込むこと自体、控えておいた方が無難だとは思います。