弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

医師の管理監督者性-年収1500万円~2000万円でも医師の平均的な年収と比較すれば管理監督者に相応しい待遇とはいえないとされた例

1.管理監督者性と「待遇」

 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。

 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監督者への該当性は、しばしば裁判で熾烈に争われます。

 管理監督者とは、

「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」

の意と解されています。そして、裁判例の多くは、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)、②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)といった要素を満たす者を労基法上の管理監督者と認めています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅰ」〔青林書院、改訂版、令3〕249-250参照)。

 このうち③待遇の要素との関係で、「同業者の平均的な年収と比較してどうか」という観点から検討を行い、年収1500万円~2000万円でも管理監督者にふさわしい待遇が与えられていたとまではいえないと判断した裁判例が掲載されていました。大阪地判令7.3.24労働判例ジャーナル161-28医療法人もみじの手事件です。

2.医療法人もみじの手事件

 本件で被告になったのは、診療所を経営する医療法人です。

 原告になったのは、被告との間で雇用契約を締結し、麻酔科医長として勤務していた方です。被告を退職し、時間外勤務手当等(いわゆる残業代)を請求する訴えを提起したのが本件です。

 本件でも原告の管理監督者性が争われましたが、裁判所は、次のとおり述べて、管理監督者性を否定しました。

(裁判所の判断)

「原告が労基法41条2号の管理監督者に当たるか否かは、職務権限及び責任、勤務態様及び待遇を総合的に考慮し、原告が同号の趣旨を充足するような立場であるか否かを検討すべきである。」

「これを本件についてみると、原告は、麻酔科に所属する従業員の採用権限や労務管理に関する権限を有していなかったことが認められる上・・・、被告の経営方針の決定に関与していたと認めるに足りる証拠もないこと、原告は、他の医師と同様に医療現場で麻酔科医としての業務に従事していたことに照らすと、原告が経営者と一体的な立場にあったとは認められない。このことは、原告が、麻酔科医長として、本件診療所における無痛分娩の運営に関する意思決定に関与し、これを推進する役割を担ったり、待機表を作成するなどして麻酔科医の待機スケジュールを調整、決定したりしていたとしても何ら異なるものではない。」

「また、原告の所定労働時間は、午前9時から午後5時又は午後6時までとされていたところ・・・、原告は、所定労働時間が午後6時とされている日に午後5時で退勤している日もままみられるものの、それ以外はおおむね所定労働時間に従って勤務していたことが認められ・・・、原告が自由に勤務時間を決定していたとか、勤務時間に関する裁量を有していたとは認められない。」

さらに、原告の待遇をみても、原告の賃金は、年間1500万円又は2000万円であり、それ自体相当高額であるものの、医師の平均的な年収(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」参照)と比較すれば、著しく高額であるとはいえず、麻酔科医としての業務以外の管理業務に従事したことに伴う手当が特別に加算されていたとの事情も見当たらないことからすると、原告に対して残業代が支給されないことに見合うような管理監督者としてのふさわしい待遇が与えられていたとまではいえない。

「これらのことからすると、原告は、労基法41条2号の管理監督者には当たらないというべきである。」

3.医師が待遇面で管理監督者性を肯定されることはあまりないのではないか

 以上のとおり、裁判所は、医師としての平均的な年収と比較すれば著しく高額とはいえないとして、管理監督者に相応しい待遇であることを否定しました。

 この裁判例をどれだけ一般化できるのかという問題はありますが、裁判所が示したロジックが通用するとなると、医師の残業代請求事件において、待遇面から管理監督者性が否定されるということは殆どなさそうに思われます。

 裁判所の判断は、医師の方の残業代請求事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。