1.体操の労働時間性
始業時刻前に体操を行っている会社があります。前近代的に感じられる方もいるかも知れませんが、法律相談をしていると一定の頻度で目にします。そのため、体操は特殊な会社が例外的に採用しているというわけでもないのだろうと思います。
個人的に見聞きしている範囲だと、体操が行われる場合、始業時刻以前に行われることが多いです。この場合、体操に要する時間が労働時間に該当しないのかが問題になります。
以前、
グダグダなルールは守ると損?-朝のラジオ体操の労働時間性 - 弁護士 師子角允彬のブログ
とう記事の中で、横浜地判令2.6.25労働経済判例速報2428-3 アートコーポレーション事件という裁判例を紹介しました。
この事件では、始業時刻前のラジオ体操の労働時間性が否定されました。
しかし、近時公刊された判例集には、始業時刻前の体操に労働時間性を認めた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令3.10.14労働判例1320-70 ナルシマ事件です。
2.ナルシマ事件
本件で被告になったのは、販売促進用商品の企画、デザイン、製作、販売等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告で勤務していたフィリピン国籍の男性労働者らです。
原告らは複数の請求を行っていますが、その中の一つに時間外勤務手当等(割増賃金、いわゆる残業代)の請求がありました。
その中で始業時刻前の体操時間の労働時間性が問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、体操時間の労働時間性を認めました。
(裁判所の判断)
「原告らは,8時40分から9時までの間,被告から,業務に従事するよう命ぜられたことはなかったが,オリエンテーション時に配布されたスケジュール書面に基づき,8時50分からは,他の従業員とともに体操を行っていた。なお,被告では,体操が始まる8時50分に,始業ベルを鳴らしていた。」
(中略)
「労基法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,同労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に定まるものと解するのが相当である。」
「前記認定事実によれば,被告は,原告らが来日した翌日,原告らに対し,被告作成のスケジュール書面を用いて被告における労働時間について説明しているところ,同書面には,1日のスケジュールについて,8時40分にタイムカードを押し,8時45分に出社し,8時50分からは体操に参加し,9時から業務を開始する旨記載されていること,被告においては,8時50分に始業のベルが鳴り,同時刻から従業員が体操を行っていたこと,原告らも8時50分から体操を行っていたことが認められる。また,原告らのタイムカードの打刻時刻・・・をみると,原告らは,おおむね,8時40分前後に出勤していたことが認められる。そうすると,原告らは,被告による労働時間に関する説明を踏まえて,スケジュール書面に沿って行動していたものと認められ,8時50分から開始される体操も同書面上1日のスケジュールとして組み込まれていることからすれば,同体操は,被告の指示を受けて行った業務の準備行為であるといえ,体操の時間は,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価するのが相当である。」
3.体操であっても労働時間としてカウントされることはある
上述のとおり、裁判所は体操の労働時間性を認めました。
アートコーポレーション事件でラジオ体操の労働時間性が認められなかったことからすると、体操の労働時間性の認定は厳しいのかとも思っていましたが、あながちそう言い切れるわけではなさそうです。
体操が行われている会社で残業代を請求するにあたり、本裁判例は参考になります。