弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

アカデミックハラスメント-学生に対するハラスメントの懲戒事由該当性が否定された例

1.アカデミックハラスメント

 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。

 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、法令上の概念ではありませんが、近時、裁判例等で扱われることが多くなってきています。職務上、大学教員・大学職員の方の労働問題を取り扱うことが多いことから、個人的に関心を持っている領域の一つです。

 アカデミックハラスメントの特徴は、職場の同僚間、上司-部下の間だけではなく、学生との関係でも問題になることです。

 学生に対するアカデミックハラスメントの成否を検討するにあたっては、パワーハラスメントで業務上の指導との区別が問題になるのと類似した問題が生じます。具体的に言うと、教育的指導との区別が問題になります。

 近時公刊された判例集に、学生に対するハラスメント等を理由とする懲戒の可否が問題になった裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介させて頂いている水戸地判令4.9.15労働判例ジャーナル130-14 学校法人常磐大学事件です。

2.学校法人常磐学園事件

 本件で被告になったのは、常盤短期大学(本件大学)を設置する学校法人です。

 原告になったのは、昭和58年4月に被告に雇用され、平成22年4月から本件大学幼児教育保育学科(本件学科)の教授として勤務していた方です。複数の教員や学生に対するハラスメント行為を理由に停職1年間の懲戒処分(本件懲戒処分:令和2年6月1日~令和3年5月31日)を受けた後、その無効確認や停職期間中の賃金の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告が問題にしたハラスメント行為のうち、学生に対するものは3人分あり、それぞれ次のとおり主張されています。

(被告の主張)

・学生g(以下『g』という。)に対するハラスメント行為

「原告は、平成28年春学期、g(2年生)に対し、1年生の前で、名前を呼んで立てと言い、『なんでお前はださないんだ』と言った。gが事情を説明すると、1年生の前で、『この人はダメな人だからこういう人にならないように』と言った。

 また、原告は、平成28年春学期、再履修している1年生との授業で、gらが実習から帰ってきて、2年生がどんな質問をされたか話すよう言われたのに対してgが話そうとすると、同人に対し、『ああgはいいよ』というようなことを言った。(以下『gハラスメント〔1〕』という。)」

「原告は、平成28年春学期、gに対し、『お前みたいのはこの学校にいらないし、お前みたいなのは保育士になってほしくないから今すぐ辞めてくれ』と言い、gが、親にお金を出してもらっているので『お金を返してくれるなら辞めます』と言ったところ、『もう話にならないからお前は出ていけ』と言った。また、幼稚園教諭にもなってほしくない、大学も辞めるようにとも言った。(以下『gハラスメント〔2〕』という。)」

「原告は、平成27年春学期から平成28年秋学期にかけて、高校のジャージを着ていたgに対し、他にも高校のジャージを着ていた学生がいたのにgのみを注意するなど、授業中に不当な注意をした(以下『gハラスメント〔3〕』という。)。」

・学生h(以下『h』という。)に対するハラスメント行為

「原告は、平成28年4月25日、授業の始まる午前9時に教室に入ったhに対し、『席の一番前に座れ、来い』と言い、hが『お腹が痛いのでトイレに行ってました』と言ったのに対し、『早く来い、いいから来い』と言い、hが言われたとおりに着席したがhに出席カードを渡さなかった。他方で、その後に遅れて来た学生には理由を聞いて出席カードを渡していた。hが半分ふてくされた態度をしていると、原告は大声で『その態度はなんだ』、『なら出ていけ』と言った。我慢していると出席カードを渡され、『これを書け』と言われて書くと、『なんだその汚い字』と言われ、出席カードの提出後、原告は、『お前、その態度は何だ』、『来年受け直せ』、『単位はあげない』と他の学生の前で言った。hは、その時点で教室を出て、泣きながら母親に電話した。」
 hは、原告のハラスメント行為により希望を失い、本件大学を退学した。

・学生i(以下『i』という。)に対するハラスメント行為

「原告は、平成30年5月23日、授業のたびに呼び出されて叱られており、原告から『メンタルをもっと鍛えないと保育者になれない』などと言われた。」

「iは、原告のハラスメント行為により、本件大学を退学した。iは、原告から『子どもの発熱があっても休むな』というようなことを言われたことで、子持ちは大学に通えないと考えた、原告から言われたことを思い出してメモをしたが、あまりにひどくそれを言われてまで大学に行きたくなくなったなどと述べている。」

 これに対し、原告は、次のとおり反論しました。

(原告の主張)

・gに対するハラスメント行為がないこと

「gハラスメント〔1〕につき、否認する。gは、グラフを提出する予定の授業に学外実習か何かが重なったことでこれを欠席せざるを得なくなったことから、遅れてグラフを提出する際に併せて欠席届を提出すべきであったが、これを怠ったために原告はグラフの受取りを拒んだものと思われる。gは、その次の授業の際、原告が受け取らなかったことに反発してあえて提出しないという態度を取り『先週出したところうけとらないって言われたので出しませんでした』と発言した。

 このようにgは注意に対して言い返したり、反抗的な態度を取ったりすることがあったため、毅然とした態度で接する必要があった。また、受講態度等に問題のある学生に対する注意はその場で即座に行う必要があるため、他の学生の前で行われることは回避できないが、これは良好な授業環境を維持するために不可欠なことであり、これによって学生がダメージを受けたとしても直ちにハラスメントに当たるものではない。」

「gハラスメント〔2〕につき、原告には具体的な記憶がないが、学生に必要な指導や叱責をすることはあっても、学生の人格を傷つけるような発言をしたことはない。一般に『保育士になってほしくない』という発言は、対象である学生の人格自体を理由として言っているのではなく、現状の勉学態度が改まらないままでは、保育士という専門知識を期待される職業に就くには相応しくないといった趣旨で、学生に対して望ましい方向への行動変容を求めるために言っているものである。」

「gハラスメント〔3〕につき、原告には具体的な記憶がないが、高校のジャージを着用していただけであればそれを注意するはずはなく、この学生が注意されたのであれば、着方がだらしないなど何らかの意味で授業に相応しくない点があったからであり、それを理解しない学生がそれに不満を抱いた可能性はある。」

・hに対するハラスメント行為がないこと

「原告には個々の発言につき具体的な記憶がないが、原告は、『お前』という言葉や被告が指摘するような極端な言葉は使っていないし、hに対して正当かつ妥当な指導をしたものである。」

「一般に遅れてきた学生がいた場合、前の席しか空いていないことがあるため、授業をスムーズに進めるため、前の席に座るように促すことはあり、このときも同じである。遅れて来て迷惑をかけているという自覚の乏しい学生に自覚を促すために指導や注意を与えたり、言い訳ばかりする学生に厳しい態度で接したりすることは教員として職務上必要な対応である(原告は、学生が静かに集中して授業を受けられる状況を作るように努めており、これは原告の授業を受けた学生の授業アンケートの結果にも表れている。)。その対応に腹を立て、泣き出し、母親に電話で訴えるなどの行動は、当時のhの幼児性がもたらすものである。」

「また、hは、1年生のときに原告の担当する授業である『身体活動論』が不合格となったが、2年生で再履修して合格して単位を取得しており、その際には原告との関係で何ら問題はなかった。hが退学したのは、自分の勉強不足から取得単位が足りず、保育士資格や幼稚園教諭の免許を取るのに2年半か3年かかってしまうためであり、さらにhは四年制の大学に入って体育の教員の免許を取ることを目指しているとも述べており、原告に対する不信感とは関係がない。」

・iに対するハラスメント行為がないこと

「i自身が作成した文書は僅かに乙3号証の2のみであり、ほとんどがcやdによる伝聞記録であるが、cとdは、原告を懲戒処分にさせるために、もともとハラスメントの訴えをすることなど考えていなかったf、g及びhに働きかけて協力させるなどしており、iについても、同人から聞き取ったとされる内容が正確に記録されているか大いに疑問である。」

「また、被告は、ハラスメント調査委員会の調査にも日程が合わず、i本人へのヒアリングによる直接の事実確認ができなかったにもかかわらず、cやdがiやその関係者から聞いたという話のみから原告によるハラスメント行為があったとずさんな認定をし、停職処分という重大な懲戒処分をしたものである。」

「i(入学当時18歳)には子どもがおり、普段は日立市に住む両親に子どもを預け、自身は水戸市内のアパートで暮らしていたが、子どもが熱を出すと保育園に預けられず、iが子どもの面倒を見ることになるため、欠席が多くなっていた。原告は、iの欠席が多かったことから、iに対し、『続けていけるのかな』という声かけをし、欠席が多いのでこのままでは2年間では卒業できない、資格取得も難しいということを丁寧に説明したことがあり、両親と相談して環境調整をするようにも伝えた。学生に対してある程度の厳しさを持って卒業や資格取得に向けて指導激励することは教員として当然の行為であり、パワハラには当たらない。」

「このように、原告は、iに対し、子どもが発熱しても欠席しなくて済むよう環境を整える必要があるという話をしたに過ぎず、『子どもの発熱があっても休むな』、『子どもがいたら勉強してはいけない。卒業できない。』などということは言っていない。iは、原告の話の内容を感情的に受け止め、『子持ちは大学に通えない』といった飛躍した結論に至ったものと思われる。」

 こうした当事者双方の主張に対し、裁判所は、次のとおり述べて、各行為の懲戒事由該当性を否定しました。

(裁判所の判断)

・gに対するハラスメント行為の有無

「gは、ハラスメント調査委員会によるヒアリングにおいて、原告からgハラスメント〔1〕ないし〔3〕を受けたなどと述べたことが認められる(乙11)。」

「しかし、原告は、上記・・・のとおり主張してこれを否認するところ、これが学生に対する指導として必要かつ相当な範囲を超えるものとは直ちにはいえない。原告も、学生に対して保育士になってほしくないとか、保育士に向いていない、学校を辞めたほうがいいなどと言ったことがあることを認めている。しかし、そのような発言をするのは学生が勉強を放棄していたり、注意を受入れなかったりするときにやる気を出させるような場合に限られる旨を供述しているところ、このような指導がされたからといって、威圧的であったり、侮辱的なものでない限り、許されない指導とまで断じることはできない(仮に被告としてこのような指導が適当でないと考えるのであれば、事前に原告に対してその旨を注意喚起すべきである。)。」

「また、いずれにせよ、gは、原告の授業の単位を取得して本件大学を卒業しており、ヒアリングにおいて、原告から受けた指導が何か影響しているということはなく、ハラスメントの申立てを希望するかはわからない旨を答えているように、cからハラスメントとして訴えるよう働きかけられたことがgがヒアリングを受けたことに強く影響したことがうかがわれる・・・。加えて、gの件は、cと当時の副学長が、原告に苦情の申し出があった旨を伝え、原告に注意喚起をしており・・・、その時点では、それ以上の調査や処分等がされなかったものである。そうすると、これを停職という重大な懲戒処分において重視することは相当でない。」

「以上によれば、これが本件就業規則73条3項の定める懲戒事由に該当するとはいえない。」

・hに対するハラスメント行為の有無

「hは、ハラスメント調査委員会によるヒアリングにおいて、原告から上記・・・記載のハラスメントを受けたなどと述べたことが認められる・・・。」

「しかし、原告は、上記・・・のとおり主張してこれを否認するところ、これが学生に対する指導として必要かつ相当な範囲を超えるもとは直ちにはいえない。」

「また、hは、本件大学を退学したが、その理由には単位取得に2年半や3年間を要する状況にあったことや4年制大学のスポーツ健康学部で体育教員の資格を取得することにしたという進路志望の変更があったことがあり、そこに原告から受けた指導が全く影響していないとまではいえないにせよ、直接的に影響したとまでは認められない(・・・原告との件がなければ、本件大学を卒業して資格を取得していたと述べている部分もあるが、退学の原因につき他責的な説明をしたり、質問者等の意図を汲んで話を合わせたりする可能性があることを踏まえると、必ずしも言葉通りの意味に理解することはできない。)。加えて、この件についても、cと当時の副学長が、原告に対して苦情の申し出があった旨を伝え、注意喚起をしており、その時点では、それ以上の調査や処分等がされなかったことを踏まえると、これを懲戒事由において重視することは相当でない。」

「以上によれば、これが本件就業規則73条3号の定める懲戒事由に該当するとはいえない。」

・iに対するハラスメント行為の有無

「後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。」

「iは、平成30年4月、本件大学本件学科に入学し、春学期において、原告の担当する授業である『基礎体育〈1〉』を受講した。なお、基礎体育〈1〉の授業は、卒業のための必修科目であり、保育士資格と幼稚園免許の取得にも履修が必要である・・・。」

「当時、iは一人親で1歳10か月の子どもを養育しており、平日はiの両親の実家に子ども預けて面倒を見てもらっていたが、子どもが熱を出して保育園に預けられなくなると、iが子どもを見るしかなくなり、また、子供の行事に参加するために、授業を欠席することがあった・・・。」

「原告は、平成30年5月17日の数日前、指導教員であったdに対し、iの欠席に関して、同人を指導した旨を報告した・・・。」

「平成30年5月21日以降、iが本件大学を欠席していたことから、dは、同年6月18日、iの母親と祖母同席の下、iを面談した・・・。」

「その際、iは、dに対し、原告の授業中に腹痛のためトイレに行きたいと言ったところ、原告から授業の始まりに体調不良を申請していなかったことをとがめられ、傷つきと不信感を持ったこと、その後3回ほど授業の度に原告から呼び出され、子育て(発熱の看病、参観日)を理由とした欠席をとがめられ、『卒業できない』と言われ、卒業や資格取得に絶望感を持ったなどと述べた・・・」。

「iは本件大学を退学するつもりであったが、母親はiが卒業することを希望しており、dは、iに対し、教員は応援しており、相談に応じるなどと伝えて、再度、学業を継続するか家族で相談するよう伝えた。」

「その後、iは、一度は卒業や資格取得に向けて頑張ろうとする意欲が見受けられ、秋学期にも当初順調に出席していたが、最終的には欠席や欠試により1科目1単位しか取得できず、平成31年3月末で本件大学を退学した・・・。」

「iは、原告から『子どもが熱を出しても休むな。子どもがいたら勉強してはいけない。卒業できない。』、『子どもの行事や体調よりも卒業を優先しろ』などと言われたと訴えていることがうかがわれるが・・・、これらの発言は、子どもがいる学生に対する教員の指導として余りに不合理なものであり、何らかの悪意でもない限り、教員がこのような言葉をそのまま学生に発言することはおよそ考え難いというべきである。この点、原告は、上記・・・のとおり主張しているところ、教員として欠席が続いていた学生に対して、その原因を確認し、欠席しないように働きかけることは自然かつ合理的であり、原告は、欠席についてiを指導した旨を自らdに報告したことなどに照らせば、ある程度厳しい指導がされたことがうかがわれるが、原告としてiに対して必要かつ相当な範囲で指導をしたとの認識であったと考えられる。」

「そして、実際に、担当教員の裁量の余地はあるものの、原則として、定期試験の受験資格として15回開かれる授業に6回以上欠席しないことがあり(証人d)、卒業や資格取得のために授業に出席することが必要であるため、学生に対して授業に出席できるよう環境調整に努めるよう指導することは当然のことであり、その際に学生の心構えを改めさせるためにある程度厳しい指導となることも一定程度許容されるというべきであって、それが学生本人のためにもなるという見方もできる。」

「他方で、iは繊細で傷つきやすい学生であったようであり・・・、子どもの事情により授業を欠席したことについて原告から厳しい指導を受けたことや環境調整が困難な状況にあったことなどから、iの受け止め方として、『子どもがいたら勉強してはいけない」などの極端な理解をしてしまった可能性も否定できない。本来であれば、当初からこのようなiの特性を踏まえた指導がされることが望ましかったということはできるが、原告がiを指導した時点においてそれを認識していたとは認められず、原告による指導が裏目に出てしまった可能性があることを踏まえると、iが授業を欠席するようになったことについて原告に全てを帰責できるわけではない。」

「また、結果として、iは本件大学を退学するに至っており、このことに原告による指導が影響した可能性は高いということができるが、それだけでなく、iがもとから繊細な性格であったことや学業・進路に対する意欲の程度、家庭環境等も影響した可能性は否定できない。この点、iは、退職願書を作成した際、退学の理由を「就職するので、退学する」とのみ記載しており、dが更に記載するよう求めたのに対しても、iが「何で就職するだけじゃだめなのか、それがわからない」と述べ、原告との件について、「a先生がいなければ、頑張れたしそれが一番大きい」と述べるが、「それ全部書いたらいっぱいになってめんどくさい。書いたら思い出してまた辛くなるから思い出したくもないし。就職だけでいい。」とも述べており(乙3の3)、iが実際のところ如何なる理由により退学を選択したのか必ずしも明らかでない(dも、iの退学の理由について、何か一つのことではない旨を証言している。)。」

「加えて、iが必修科目であった原告の授業を履修しなければならないことを悩んでいたのであれば、その不安を解消するために、原告において、iの事情を踏まえて単位取得に向けた何らかの対応をしたり、仮にiにおいて原告の指導に対する誤解があれば、それを直接正したりすることなどが考えられるところである。もっとも、iは、平成30年5月21日以降、原告の授業には一度も出席しておらず、cやdが、原告に対し、iに関する情報提供をしたり、卒業や単位取得に向けた協力を要請したりしたわけではないから、原告において何らかの対応を取ることは実際上困難であったということができる(原告がcらから協力を要請されながら何も対応しなかったということであればともかく、cやdは、それができないという前提でのみ対応していたものと認められるから・・・、これを試みることなくiが退学に至ったことにつき原告に帰責できないというべきである。)。」
 ここからすると、iが退学したという結果について原告に帰責できる程度には限度があるというべきである。

「さらに、cとdは、原告がiを指導した場面を直接目撃したわけではなく、i自身からもどこまで事実確認できたか定かでなく(同級生やiの母親から聞いた話というものもある。)、原告にも事実確認をしたわけではない。そうすると、cとdは、事実関係を正確に把握できていない可能性があり、iの様子や退学したという結果からiに同情的になり、原告に過度に帰責している可能性も否定できない。」

「また、被告は、原告の具体的な言葉まで確定できないが、iが原告から『核心をついてるのでぐさっとくる』ことを言われ、泣くような精神的状況になったことから、原告によるハラスメント行為があったと判断したことが認められる・・・。しかし、iの理解の仕方や受け止め方が介在する以上、指導の結果、iが泣くような精神的状況になったというだけで、原告の指導が必要かつ相当な範囲を超えるものであったと断じることはできない。」

「以上によれば、原告による厳しい指導が結果としてiの退学に相当程度影響したということはうかがわれるが、それが指導として必要かつ相当な範囲を超えるものとは直ちにいえず、退学に至った原因においても原告に帰責できる程度には限度があることからすると、これが本件就業規則73条3号の定める懲戒事由に該当するとはいえない。」

3.適切ということではないのだろうが・・・

 上述のとおり、裁判所は、学生に対するハラスメントが懲戒事由に該当することを認めませんでした。

 この事件の裁判所は、

「1年間の停職は、本件就業規則で定められている停職期間の上限であり、懲戒解雇、論旨解雇に次いで重い懲戒処分ということができ、これにより労働者は停職期間である1年間給与の支給を受けられないことになり、解雇に匹敵するような重大な影響を与えることから、そのような重大な懲戒処分が正当化されるには、それに見合うような事由が存在することを要する」

と懲戒事由該当性をかなり限定的に捉えています。

 懲戒事由該当性が否定されたのは、このように懲戒事由についての限定的な理解が影響している可能性が高く、原告の行為に全く瑕疵がないのかというと、おそらくそのようなことはないだろうと思います。

 とはいえ、本件で懲戒事由該当性が否定されたことは、大学教員の方からの事件処理の参考になります。