弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

新人指導とパワハラ

1.新人に対して行われるパワーハラスメント

 職場のパワーハラスメントに関して相談を寄せられる方は、一定の社会人経験、業界経験を積んだ方が多いように思います。個人的経験の範疇で言うと、新人の方からパワーハラスメントの相談を受けることも、なくはないのですが、それほどの件数があるわけではありません。これは、新人の方にとって、標準的な処遇がどのようなものなのかが分かりにくいことに起因しているのではないかと思います。

 そこで、本日は、新人に対するパワーハラスメントの成否が問題になった近時の事案をご紹介させて頂きます。高松高判令4.8.30労働判例ジャーナル129-24 国・高松刑務所事件です。

2.国・高松刑務所事件

 本件では、刑務所職員の方が原告となって、使用者である国に対し、

同僚職員及び上司からパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受けたこと、

それらの事実を申告したにもかかわらず、心情に配慮した適切な措置をとってくれなかったこと、

公務災害認定請求に対する判断を不当に遅延したこと、

などを理由に損害賠償を請求しました。

 原審が原告の請求を棄却したことを受け、原告側が控訴したのが本件です。

 本件の原告・控訴人は、同僚職員から受けたパワーハラスメントについて、次のような主張をしました。

(控訴人の主張)

「E(同僚職員 括弧内筆者)は、平成25年11月22日、控訴人に対し、『私仕事せん奴大嫌いやけん。お前は刑務官の服着たお人形さんや。今は新人やけん許されとるけど、ちゃんとやらんかったら見捨てられるぞ。』などと、執務時間中約40分にわたり、控訴人を罵倒するパワハラ行為をした(以下『本件パワハラ行為』という。)。」

 被控訴人は本件パワハラ行為の存在自体を否認しましたが、裁判所は、原告・控訴人の主張に添う事実を認定したうえ、次のとおり判示しました。

(裁判所の判断)

「前記認定事実によれば、拘置区女区で控訴人と一緒に仕事をしていたEは、女子用の更衣室などで、控訴人と会う度に、『私はお前のこと嫌いやけん』とか、『話しかけるな、質問するな、見て覚えろ』などと、きつい言葉で申し向けたりしていたところ、控訴人は、平成25年11月22日の執務時間中に、Eから小部屋に呼び出されて、『私仕事せん奴大嫌いやけん。お前は刑務官の服着たお人形さんや。今は新人やけん許されとるけど、ちゃんとやらんかったら見捨てられるぞ。』などと、約30~40分間にわたり、罵倒されたことが認められる。

「なるほど、前記認定のとおり、控訴人は当時、高松刑務所で勤務を始めて8か月弱程度経過しただけの新人で、他方、Eは平成18年に採用された経験豊かな刑務所職員であり、控訴人を指導する立場にあったのであるから、控訴人の職務態度等に問題があったのであれば、控訴人を指導することには特段の問題は見出し難い。しかしながら、他方で、前記認定のとおり、控訴人の仕事の能力や勤務態度に大きな問題があったという指摘は、Eがほぼ一方的に証言しているにすぎず、これを裏付けるような確たる証拠はなく、かえって控訴人はこれまで処分を受けたことはもちろん始末書を書かされたり、能力不足や勤務態度不良を理由として研修を受けさせられたりしたこともない。」

「そうであるにもかかわらず、上記認定のような叱責方法は、具体的に控訴人の仕事の問題点を指摘して改善を求めるという指導ではなく、男性職員が仕事をしない女性職員を揶揄する『お人形さん』との言葉も用いて、一方的に控訴人を侮辱し、責め立てるもので、時間的にも約30~40分間と常軌を逸した時間であり、指導の域を超えたいわゆるパワハラ行為あるいはいじめに当たり、違法であるというべきである。

「そして、本件パワハラ行為は、公務員であるEがその職務を行うについて控訴人に加えた違法行為であるから、被控訴人は、国賠法1条1項に基づき、本件パワハラ行為により控訴人が被った損害を賠償する責任がある。」

3.問題点の指摘が伴わない指導、揶揄的な言動、30~40分

 本件では、問題点の指摘を伴わない指導、「お人形さん」などの揶揄、30~40分間に渡る長時間の叱責などが問題視され、パワーハラスメントとしての違法性が認められました。叱責の時間が長いか短いのかは対象行為との相関によって決まるので一概には言えないものの、具体性を欠く指導や侮辱的な言動だけで構成される叱責は、30~40分も続けば「常軌を逸した時間」という評価になり得ます。

 本件のような指導を受けている新人の方は、割と多いのではないかと思いますが、このような指導は、違法なパワーハラスメントである可能性があります。

 この記事を読んで自分の処遇に違和感を覚えた方は、ハラスメントの成否について、職場の担当部署や弁護士に相談してみても良いのではないかと思います。