弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

みなし申込み選択権の発生が認められた例(無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること)

1.労働者派遣法上のみなし申込み制度

 労働者派遣法は、違法派遣による役務の提供を受けた者について、派遣労働者に対する労働契約の申込みを擬制する仕組みを設けています(労働者派遣法40条の6)。

 みなし申込み制度の適用対象になる違法派遣行為の類型には、

派遣労働者を禁止業務に従事させること(1号類型)、

無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること(2号類型)、

事業所単位での期間制限に違反して労働者派遣を受けること(3号類型)、

個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること(4号類型)、

いわゆる偽装請負(5号類型)、

の五つの類型があります。

 以前、5号類型のみなし申込み制度の適用を認めた裁判例をご紹介させて頂きましたが(大阪高判令3.11.4労働判例1253-60 東リ事件)、近時公刊された判例集に、2号類型でみなし申込み選択権(みなし申込み制度により生じる雇い主の選択権)の発生が認められた裁判例が掲載されていました。札幌地判令4.2.25労働判例ジャーナル124-1 ベルコ(労働契約申込みみなし)事件です。

2.ベルコ(労働契約申込みみなし)事件

 本件で被告になったのは、

冠婚葬祭互助会員の募集や冠婚葬祭の請負等を業とする株式会社(被告ベルコ)、

被告ベルコから互助会員業務等を受託していた株式会社仁智(仁智)の代表取締役(被告e)、

被告ベルコから互助会員業務等を受託していた株式会社ライズ(ライズ)の代表取締役f(被告f なお、訴訟係属中に被告fは死亡し、その相続人である被告gらが被告fの立場を承継しています)、

です。

 原告になったのは、

仁智の下で就労していた3名(原告a、原告b、原告c)、

ライズの下で就労していた1名(原告d)

の計4名です。

 本件の原告らは、被告らに対し、様々な法律構成で多岐に渡る請求をしていますが、2号類型のみなし申込み制度の適用との関係でいうと、大意、

被告ベルコは法令の規定に反して労働者派遣の役務の提供を受けた(2号類型)、

労働契約のみなし申込み制度により、原告らには、雇用主を選択する権利が生じた、

そうであるにも関わらず、被告ベルコは、原告らに対し「株式会社とは何らの雇用関係も存在しないことを認識しております」と書かれた確認書に署名押印させるなどして、承諾権(雇用主を選択する権利)を行使する機会を奪った、

ゆえに、慰謝料等の損害を賠償せよ、

というものです。慰謝料請求の構成がとられているのは、承諾権の行使に違法行為の終了後1年以内という期間制限があることが関係しています(労働者派遣法40条の6第2項、3項参照)。

 この事案で、裁判所は、次のとおり述べて、2号類型のみなし申込み制度による承諾権の発生を認めました。

(裁判所の判断)

「原告らは、概要、

〔1〕被告ベルコは、代理店(仁智及びライズ)ないし代理店主(被告e及び亡f)との間の業務委託契約に基づき、FAである原告らの派遣を受けて、葬儀施行業務に従事させていたものであって、このような葬儀施行業務の実態は、労働者派遣法所定の労働者派遣業に該当し、被告ベルコは労働者派遣の役務の提供を受ける者(労働者派遣法40条の6)に該当する、

〔2〕しかるに、代理店ないし代理店主は、労働者派遣法5条1項所定の厚生労働大臣の許可を受けておらず(同法40条の6第1項2号)、また被告ベルコは同法の規定の適用を免れる目的で役務の提供を受けたものである(同項5号)、

〔3〕したがって、被告ベルコにおいては、同法40条の6第1項の規定に基づき、原告らに対し、労働契約の申込みをしたものとみなされると主張する(なお、原告らの準備書面には『代理店主』から原告らの派遣を受けた旨の記載があるが、その主張全体の趣旨にも照らすと、上記〔1〕のとおり、『代理店ないし代理店主』から原告らの派遣を受けたとの主張をしているものと解される。)。」

「これに対し、被告ベルコは、原告らは被告ベルコから指揮命令を受ける立場にはなく、労働者派遣法のいう労働者派遣には該当しないのであるから、原告らの主張するみなし申込みはその前提を欠くと主張して、これを争っている。」

「そこで、以下、原告らの葬儀施行業務への従事が『労働者派遣』(同法2条1号)に該当し、被告ベルコは代理店(仁智及びライズ)ないし代理店主(被告e及び亡f)から労働者派遣の役務の提供を受けていたのかについて検討する。」

「労働者派遣法は、職業安定法が禁止していた労働者供給事業(同法44条)のうち、『自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること』を『労働者派遣』とし(労働者派遣法2条1号)、これを同法の規制の下でのみ適法としている。これは、労働者派遣を業とする労働者派遣事業(同条3号)に適切な規制を加え、その濫用的な利用を防止するとともに、派遣労働者の保護を図り、もって派遣労働者の雇用の安定に資することを目的としたものと解される(同法1条参照)。」

「このような同法の趣旨等に照らすと、同法にいう労働者派遣事業に該当するか否かを判断するに当たっては、請負等の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業者であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し、

〔1〕自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること、及び、

〔2〕請負等の契約により請け負うなどした業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであることのいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とするのが相当である(本件区分基準2条もこれに沿う。)。

「本件においてこれをみるに、前記認定のとおり、本件において原告らを雇用していたのは代理店である仁智ないしライズであると認められ、なおかつ仁智及びライズは被告ベルコとの間で業務委託契約を締結していたものと認められる・・・。したがって、以下、仁智及びライズにおいて、自己の雇用する労働者である原告らを、当該雇用関係の下に、かつ、被告ベルコの指揮命令を受けて、被告ベルコのために葬儀施行業務という労働に従事させ、もって労働者派遣事業を行っていたのかについて検討する。」

「まず、仁智及びライズが、自己の雇用する労働者(原告ら)の労働力を自ら直接利用していたのかについて検討する。より具体的には、仁智及びライズが原告らに対し、葬儀施行業務について、(《1》)業務遂行に関する指示・管理をしていたか、(《2》)労働時間等に関する指示・管理をしていたか、(《3》)企業の秩序の維持・確保のための指示・管理をしていたかについて検討することとする(本件区分基準2条一もこれに沿う。)。 」

「まず、業務遂行に関する指示・管理についてみるに、上記・・・のとおり、代理店である仁智及びライズは、FAである原告らに対し、葬儀施行業務に従事すること自体は指示していたといえるものの、実際の葬儀施行の場において個別具体的な指示をしていたとは認めるに足りない。」

「むしろ、実際の葬儀施行の場においては、館長や葬儀施行代理店の従業員が原告らに対して個別具体的な指示をしていたものであり(なお、葬儀施行の一場面である遺体搬送の際には、被告ベルコの関連会社であるさくら運輸の従業員として就労するものと扱われていた。・・・)、また、原告らの葬儀施行業務の成果については、被告ベルコにおいて就労するチェッカーが確認することとされていて、原告らは、葬儀施行後、被告ベルコから実施内容の確認を受けていたものである。」

「次に、労働時間等に関する指示・管理についてみるに、前記認定のとおり、仁智及びライズは、原告らが葬儀施行終了後に作成する出勤簿を通じ、出退勤の事実を事後的に把握するにとどまっていたのであって、葬儀施行業務における原告らの始業時刻、終業時刻、休憩時間、労働時間の延長等について具体的な指示や管理をすることはなかった。そして、原告らにおいては、葬儀施行業務に従事する際には、葬儀会館に直行し、葬儀施行業務を行い、そのまま自宅に直帰していたのであって、仁智及びライズは、原告らのタイムカードを作成せず、他に労働時間を管理する手段も講じていなかった・・・。」

「このように、原告らは、葬儀施行業務に従事するに際しては、仁智及びライズから労働時間等に関する具体的な指示・管理を受けておらず、その労務管理から離脱した状態にあったというべきである。」

「さらに、企業の秩序の維持・確保のための指示・管理についてみるに、原告らは、葬祭施行業務に従事するに際しては、葬祭施設でFAの制服を着用したり、配布されたGPS付き携帯電話の電源を常時入れておいたりするよう求められていたものであるが、これらを決定したのは被告ベルコであり、被告ベルコが仁智ないしライズを通じて原告らに伝達していたものであって・・・、仁智及びライズが、葬儀施行業務において、FAの服務上の規律に関する決定や指示を自ら行っていたものとはいい難い。」

以上によれば、仁智及びライズは、原告らに対し、葬儀施行業務における各種の指示・管理を自ら行っていたとはいい難いのであって、原告らの労働力を自ら直接利用していたということは困難である。

「したがって、その余の点について判断するまでもなく、仁智及びライズは自己の雇用する原告らを他人のために葬儀施行業務に係る労働に従事させたものであり、かかる従事は労働者派遣に該当する。」

「事案に鑑み、さらに、仁智及びライズが、被告ベルコから委託を受けた葬儀施行業務を、自己の業務として、被告ベルコから独立して処理していたのかについても検討する。より具体的には、仁智及びライズが、(《1》)業務処理に要する資金の全てを自ら調達・支弁していたか、(《2》)業務処理について事業主としての全ての責任を負っていたか、(《3》)自己の責任と負担で準備・調達した物品を用いて業務を処理したり、自らの専門的な技術・経験に基づいて業務を処理したりしていたかについて検討することとする(本件区分基準2条二もこれに沿う。)。」

「まず、資金の調達についてみるに、FAである原告らは、葬儀施行業務につき、その従事の回数に応じて施行手当を受領していたところ、この施行手当は、被告ベルコがその原資を拠出していたものである・・・。」

「したがって、仁智及びライズは、葬儀施行業務の処理に要する資金につき、全て自らの責任の下に調達し、支弁していたということはできない。」

「また、原告らは葬祭施設ではFAの制服の着用が義務付けられていたところ、被告ベルコはその制服代の半額を負担する旨申し出ていたほか(認定事実(10)エ)、GPS付き携帯電話についても被告ベルコが仁智及びライズに貸与し、原告らに配布していたものである・・・。」

「したがって、仁智及びライズは、自己の責任と負担で準備・調達した物品を用いて葬儀施行業務を処理していたということはできない。」

「以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、仁智及びライズが、被告ベルコから委託を受けた葬儀施行業務を、自己の業務として、被告ベルコから独立して処理していたということも困難である。」

「したがって、上記・・・において検討したところに照らせば、仁智及びライズは、自己の雇用する原告らを、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために葬儀施行業務に係る労働に従事させたというべきであって、かかる従事は労働者派遣法にいう労働者派遣に該当する。

そして、仁智及びライズは、かかる労働者派遣を業として行ったものであり、労働者派遣事業を行う事業主に該当するものというべきである。

「ところで、本件において、葬儀施行業務を直接遂行するのは、被告ベルコ自身ではなく、その委託を受けた葬儀施行代理店である・・・。」

「しかし、そもそも顧客との間で葬儀施行契約を締結しているのは、被告ベルコである・・・。」

「そして、被告ベルコは、同契約に基づく葬儀施行業務を葬儀施行代理店に委託しているのであり、また、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告ベルコは、遺体搬送業務についてさくら運輸との間で契約を締結し、その業務を発注していたものと認められる。それゆえ、FAは、葬儀施行業務に際し、遺体搬送以外の場面では、館長や葬儀施行代理店の従業員から指示を受け、遺体搬送の場面では、さくら運輸の従業員としての立場にある同じ人物から指示を受けることともなる・・・。」

「このように、被告ベルコは、顧客との葬儀施行契約の契約当事者であり、その遂行のため、さくら運輸や葬儀施行代理店との間で葬儀施行業務に係る契約を締結してその業務を発注しており、これらの事業者の指示のもとでFAが労働力として利用されていたものである・・・。」

「さらに、上記・・・のとおり、被告ベルコは、

〔1〕FAである原告らへの葬儀施行手数料につき、葬儀施行代理店を介することなく自らその原資を負担し、

〔2〕葬祭施設でのFAの制服の着用や、FAに配布したGPS付き携帯電話の電源の在り方につき決定し、仁智及びライズを通じてこれを原告らFAに伝達し、

〔3〕被告ベルコにおいて就労するチェッカーを通じて、原告らの労務提供の適否を判断し、葬儀施行後、原告らから報告書の提出を直接受け、労務提供の内容につき、葬儀施行代理店を介することなく自ら確認していた。
 また、

〔4〕葬儀施行に係るFAの研修の修了について、館長から書面の提出を受けて確認を行い(認定事実・・・、営業成績の良くないFAには葬儀施行業務に従事させなかったり、従事する回数を制限したりするなどの方針を代理店に示し・・・、もって、葬儀施行業務に従事すべき者について確認を行い、葬儀施行代理店を介することなく、その範囲につき方針を示すなどしていたものである。」

「以上の諸点を総合すると、被告ベルコは、葬儀施行業務につき、仁智及びライズから労働者派遣の役務の提供を受けていたものということができる。」

「この点につき被告ベルコは種々の主張をするが、以下のとおり、いずれも採用することができない。」

「まず、被告ベルコは、FAは葬儀施行の場では誰からの命令も特段受けることはなく、業務遂行上必要な情報共有をするにすぎないなどと主張する。」

「しかし、被告ベルコにおいても、FAが、遺体搬送、枕飾の用意、見積りへの同席、行政上の手続、遺影用の写真の預かり、供物や食事の手配、スケジュールの確認といった各業務を行うことは自認しているし、FAの被告ベルコへの報告書(・・・葬儀式において司会を行う場合も想定されていたものである(他のFAも、司会のほか、マイクや明かりの調整を行うことがあったと述べている。・・・)。しかも、そもそも葬儀施行は見積書に沿って行われるのであり、FAがその内容を勝手に変更することはできなかったのであって・・・、そのようなFAが、誰からの何らの命令も受けることなく、ただ自らの裁量のみで、葬儀施行についての各業務を行っていたものとは、にわかに考え難い。」

「したがって、被告ベルコの上記主張は採用することができない。」

「また、被告ベルコは、FAが葬儀施行業務に従事するのは、飽くまでも互助会契約を獲得するためにすぎず、その際に必要な物品というものは特段存在しないなどと主張する。」

「しかし、被告ベルコは、葬祭施設内での業務に従事する者につき、制服の着用を義務付けるよう通知していたものである・・・。また、被告ベルコは、自らが契約したGPS付き携帯電話をFAに所持させており、FAはこれを用いて葬儀施行の依頼を受けるほか、葬儀会館や病院、火葬場への移動に際して携帯していたものであって・・・、この点でも、業務上必要なやり取りをするために携帯電話が必要であったということができる。」

「したがって、被告ベルコの上記主張は採用することができない。」

以上によれば、被告ベルコは、葬儀施行業務につき、仁智及びライズから労働者派遣の役務の提供を受けていたものであるところ、仁智及びライズが労働者派遣法5条1項所定の厚生労働大臣の許可を受けていたことを認めるに足りる証拠はない(被告らもそのような主張はしていない。)。

したがって、被告ベルコは、同法24条の2の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けたものであるから、同法40条の6第1項2号の行為を行ったものとして、同項の規定に基づき、原告らに対し、労働契約の申込みをしたものとみなされる。

3.2号類型は意外と活用できるのではないだろうか

 2号類型は5号類型とは異なり、特殊な主観的目的が必要になるわけではなく、無許可営業でありさえすれば成立します。

 業務委託や請負を利用した労働法の適用を免れようとするスキームは、労働者を指揮命令することに伴う責任を回避しようとするスキームであるがゆえに、許可を受けた派遣元事業主から労働者派遣を受けるという形にはならないように思われます。こうしたスキームの問題点を突いていくにあたり、2号類型は有力な法律構成の一つとして他の事案でも活用できる可能性があります。