弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

会社は他社従業員に対するプレゼントの交付行為を注意指導できるか?

1.異性からのプレゼントの交付行為

 個人的に見聞きする範囲内でのことではありますが、職場で異性からプレゼントを渡されることに対し迷惑だと感じている人は少なくありません。このような異性からのプレゼントの交付行為を職場に注意指導してもらうことはできるのでしょうか?

 できて当たり前だと考える方もいるのではないかと思います。しかし、結論は必ずしも自明というわけではありません。

 男女雇用機会均等法11条1項は、事業主に対し、

「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」(職場におけるセクシュアルハラスメント)

を講じることを義務付けています。

 職場におけるセクシュアルハラスメントには、対価型と環境型があるとされ、それぞれ、

「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること」

「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」

と定義されています(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号))。

 プレゼント、中でも菓子等のそれ自体性的な意味合いを持たない品物の交付行為については、そもそも「性的な言動」といえるのかという問題があります。

 また、同僚や取引先からのプレゼントに関しては、受領・拒否したりすることによって解雇等の不利益を受けることと結びついているわけではありませんし、不快ではあっても直ちに能力の発揮に重大な悪影響が生じるというものでもありません。

 セクシュアルハラスメントに該当しないとなると、事業主に雇用管理上の措置をとる権限や、注意指導を行う法的根拠が存在するのかという疑問が生じます。

 そして、プレゼントが授受されるのが、他社の従業員との間である場合には、更に干渉が難しくなってきます。

 こうしたことから、プレゼントを渡さないように注意してくれと上長に相談しても、それほど真剣に受け止めてもらえないという悩みを聞くこともあります。

 それでは、職場にはプレゼントの交付行為を注意指導する権限があるといえるのでしょうか? この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令3.9.7労働判例ジャーナル118-60 ダイビル・ファシリティ・マネジメント事件です。

2.ダイビル・ファシリティ・マネジメント事件

 本件で被告になったのは、ダイビル株式会社(ダイビル)の子会社であり、不動産の管理等を目的とする会社です。ダイビルから、同社の所有するビル(本件ビル)その他テナントの工事管理、設備運転管理、点検、警備等の業務を受託していました。

 原告になったのは、被告を定年退職した元従業員の方です。

 同じくダイビルの子会社で、ダイビルから共用部分の清掃業務、一般廃棄物等の処分業務等を請け負っていた会社に商船三井興産株式会社(MOK)があり、MOKの子会社で同社から本件ビルの清掃業務を請け負っていた会社に興産管理サービス・西日本株式会社(KKSW)がありました。

 原告の方は、KKSWの従業員として本件ビルの研修センター等で清掃実習を受けていた女性であるベトナムからの実習生ら(第1期実習生)に対し、複数回に渡って菓子等を直接手渡しました。これに対し、被告が事実確認のうえ、口頭で注意したところ(本件注意指導〔1〕)、本件では、その適否が争点の一つになりました。

 原告は、

「第1期実習生に菓子等をプレゼントしたのは、清掃業務に従事する同実習生らとの円滑な人間関係を維持すること等を目的とするものであり、その行為自体は社会通念上責められるべきものではない。」

などと主張し、違法な注意を受けたことによる精神的苦痛を受けたとして、慰謝料を請求する訴えを提起しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、本件注意指導〔1〕の違法性を否定しました。

(裁判所の判断)

「原告は、第1期実習生に菓子等をプレゼントしたのは、円滑な人間関係を維持すること等を目的とするものであり、その行為自体は社会通念上責められるべきものではない、・・・などと主張する。」

「しかしながら、前記1の認定事実によれば、Cは、本件注意指導〔1〕において、ベトナムからの実習生に対する菓子等のプレゼントにつき、渡すこと自体が悪いと言っているわけではないとして、原告の意向にも配慮しつつ、個人的にではなく、管理部から渡すとかにした方がよい、プレゼントをされることで不快に感じる者もいることから、渡したいのであれば、事前に上司であるD、MOKのH、Eなどに相談してほしい、などと、受け取った相手方の心情にも配慮することや、その方法について具体的に注意指導したものであり、原告もこのようなCの注意指導を受入れているのであって、Cの対応に違法・不当な点があるとはいえない。」

(中略) 

「したがって、本件注意指導〔1〕が不法行為又は債務不履行を構成するとはいえない。原告の主張は採用できない。」

3.権利性があるとまではいえないかも知れないが・・・

 プレゼントの交付行為について、やめさせるよう会社に要求することに権利性があるかといえば、そこまでは難しいかも知れません。

 しかし、「セクハラではないから会社はなにもできない」というのは正確ではありません。少なくとも、注意指導程度のことは、やろうと思えばすることができます。他社従業員への交付行為ですら注意指導できるとされたため、自社従業員間でのプレゼントの授受であれば猶更可能ではないかと思われます。

 本件のような裁判例もあるため、気になる方は、会社に注意指導をしてくれないかと相談してみてもいいかも知れません。