弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部下の私生活上の不祥事(飲酒運転の車に同乗)について、上司の監督責任を問うことはできるのか?

1.部下に連座する上司

 従業員が社会的に非難を浴びるような行為をした時、批判の矛先が伸びて、勤務先が謝罪に追い込まれることがあります。仕事に関連した犯罪等であれば分からなくもありませんが、こうした現象は従業員が私生活上で非違行為に及んだ場合にもしばしば見受けられます。

 従業員の私生活上の行為を理由に勤務先を非難することは、二つの観点から好ましくないと思っています。

 一つは、勤務先による私生活領域への過干渉の原因になることです。本来、職場を出たら従業員は会社に気兼ねすることなく生活ができるはずです。しかし、職場を離れたところでの従業員の不祥事までリスクになるようだと、企業は私生活上の行状に色々な注文をつけてくるようになります。

 もう一つは、上司である労働者にまで過酷な責任が問われがちになることです。私生活を監督する権限などあるはずもないのに、「上司は何をしていたのか」と社内外から厳しいバッシングを受けることは、残念ながら少なくありません。

 このような問題意識を持っていたところ、近時公刊された判例集に、部下に連座する形で行われた上司への懲戒処分(戒告)が違法だと判示された裁判例が掲載されていました。徳島地判令3.9.15労働判例ジャーナル118-28 みよし広域連合事件です。

2.みよし広域連合事件

 本件で被告になったのは、三好市・東みよし市によって構成される広域連合で、区域内において、消防本部及び消防署の設置、管理及び運営に関する事務並びに救急業務に関する事務等を担っている特別地方公共団体です。

 原告になったのは、消防本部の消防長の職にあった方です。

 在職中に、消防本部及び東消防署を兼務する職員であるDが、飲酒運転の普通乗用自動車に同乗していたところ、同自動車の運転者がひき逃げ死亡事故(本件事故)を起こすという不祥事が発生しました。

 本件事故が発生した時、原告の方は病気休暇中でしたが、

「消防本部係Dが起こした交通違反等に係る懲戒処分について、地方公務員として全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった行為は、消防及びみよし広域連合への信用を失墜させるものであり、管理・監督者として日頃の監督不行届である」

との理由で戒告処分を受けました。

 これに対し、公務外の私的時間における行為にまで管理監督責任を問題にするのは行き過ぎではないかと、原告の方が処分の取消等を求めて出訴したのが本件です。

 この事案で、裁判所は、次のとおり述べて、処分の取消を認めました。

(裁判所の判断)

本件事件発生時、原告は、病気休暇取得中であり、部下職員に対する指導監督を行うことは期待できず、原告には、上記病気休暇期間中について、Dを含む部下職員らに対する管理監督義務の懈怠があったと認めることはできない。

「これに対して、病気休暇取得前である平成30年4月30日までの期間については、原告は、消防長部局の長である消防長の地位にあり、同部局に所属する部下職員に対する管理監督をすべき義務を負っていたというべきである。そして、地方公務員は、公務の信用及び職全体の名誉を傷つけてはならない(地方公務員法33条)こととされているから、その管理監督の範囲としては、当該公務員の職務自体に関する事項にとどまらず、私生活上の行為に関し、公務に対する信用及び信頼を損なわないように指導監督することまで及ぶものと解される。

「もっとも、原告が、消防長部局に所属する80名を超える部下職員に対して、直接かつ個別に管理監督を行うことが困難であることは明らかであるから、個々の職員に対する個別具体的な管理監督は、特段の事情がない限り、原告の部下であり、各職員の所属長である各消防署の署長らに委ねざるを得ない。そして、原告は、飲酒に絡む平成27年暴行事件が発生した際や、毎月の署長・課長会議等において、所属長らに対し、公務員倫理意識の涵養や社会人としての自覚の徹底、飲酒運転防止についての部下職員への指導を指示したり、年末には、職員らに対し、飲酒運転や飲酒運転車両への同乗の禁止について注意喚起を行うなどしていたと認められるのであるから、原告には、消防長に求められる部下職員に対する管理監督義務の懈怠があったとまではいえない。

「また、原告が、病気休暇取得前の時期において、Dが飲酒運転や飲酒運転車両への同乗など私生活上の非行に及ぶ蓋然性が高いというべき事情を認識していたなど特段の事情があれば、Dに対し、直接、個別具体的な注意を与えるなど、より高度の管理監督義務を尽くすべきであったと解する余地もあるが、前記認定事実・・・のとおり、Dの勤務態度に大きな問題はみられず、Dが酒臭をさせた状態で出勤したことがあったとの報告も原告にはされていなかったのであるから、原告において、Dが、飲酒運転車両への同乗といった私生活上の非行に及ぶ蓋然性が高いというべき事情を認識していたとはいえないし、その認識をする契機があったともいえない。そうであれば、原告が、Dに対し、直接、個別具体的に飲酒運転の危険性等について注意を与えるなど具体的監督権限を行使すべきであったともいえず、この点からも、原告に管理監督義務の懈怠があったということはできない。

「被告は、

〔1〕原告は、職員による飲酒関連不祥事が発生し、アルコールチェッカーの必要性を認識していたにもかかわらず、職員らにアルコールチェッカーの使用を義務付けたりしなかった、

〔2〕飲酒の影響があると疑われる勤務についての職場での報告体制を確立しなかった、

〔3〕原告が行っていた所属長への指示や職員への通知は形式的なものにとどまり、他の地方公共団体で行われているような飲酒運転防止に向けた行動指針を示すなどより職員に響くような管理監督を施してこなかったと主張する。」

「しかし、アルコールチェッカーの使用の義務付けや飲酒の影響があると疑われる勤務についての職場での報告体制の確立は、主として、職員が酒気を帯びて勤務することによる事故等の防止のための施策であり、そのような施策を行うことによって、勤務日前の職員による過度な飲酒を抑制する効果は期待できるものの、勤務時間外に飲酒運転車両に同乗するという職員の私生活における飲酒関連不祥事の防止に直接関連するとは認められず、これらを行わなかったことが、本件事件にかかる管理監督義務の懈怠であるとはいえない。また、飲酒運転が重大な犯罪行為であることは一般常識であり、所属長を通じて定期的に注意喚起を行ったり、年末年始など飲酒の機会が多くなる時期に職員に対する注意喚起を改めて行ったりすること以上に、具体的な飲酒運転防止に向けた行動指針を示すなどの施策を行うことまでもが消防長に求められているということもできない。」

「以上によれば、原告に管理監督義務の懈怠を認めることはできず、原告に懲戒事由該当性があるとはいえない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は違法であって取消しを免れない。」

3.指導監督が私生活上の行為にまで及ぶとはされたが・・・

 公務員の地位の特性上、裁判所は、私生活上の行為に対しても、原告の指導監督する権限は及んでいたと判示しました。

 しかし、多数の部下に対して直接かつ個別に管理監督を行うことが困難であることなどを理由に、管理監督義務の懈怠があったとまではいえないと判示しました。

 戒告は懲戒処分の中では最も軽微なものです。その効力すら否定されたことは、安易に部下の不始末に上司を連座させる風潮への警鐘として、重く受け止める必要があるのではないかと思われます。