弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

係争中のSNSの使用は要注意(ツイッターでのつぶやきが墓穴を掘った事案)

1.時短営業に踏み切ってフランチャイズ契約を解除された事件

 以前、時短営業に踏み切ったコンビニオーナーがフランチャイズ契約を解除されて、マスコミ等で話題になりました。

 24時間営業を求めることと優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号、19条)などの独占禁止法上の諸規制との関係性がどのように理解されるのかが気になっていたところ、近時公刊された判例集に、仮処分事件の裁判例が掲載されていました。大阪地決例2.9.23労働経済判例速報2440-3 セブン-イレブン・ジャパン(仮処分事件)です。

 しかし、裁判例に目を通すと、やや拍子抜けしました。独占禁止法上の論点が殆ど判断されていなかったからです。これはセブンーイレブン・ジャパン側が、時短営業とは関係のない解除事由を持ち出して裁判を組み立てたからです。

2.セブン-イレブン・ジャパン(仮処分)事件

 本件では二つの仮処分事件(第1事件、第2事件)が併合して審理されています。

 第1事件は、セブン・イレブンージャパン(債権者)側が、フランチャイズ契約の解除を主張し、コンビニエンス・ストア店舗建物(本件建物)の引渡しを求めた事件です。

 第2事件は、コンビニエンス・ストアの経営者(債務者)が、フランチャイズ契約の解除の無効を主張し、フランチャイズ契約上の地位の確認等を求めた事件です。

 中心的な争点は、フランチャイズ契約の解除の効力をどのように理解するのかでした。

 ここで時短営業に踏み切ったことが契約解除の理由だということであれば分かりやすいのですが、債権者側は、契約解除は時短営業とは関係ないと主張しました。

 具体的には、

暴行や暴言を含む異常な顧客対応、

ツイッターで債権者やその取締役を誹謗中傷したこと、

が解除事由に該当すると主張しました。

 債務者側は、フランチャイズ契約の解除は、本部の意向に反して時短営業に踏み切ったことによる意趣返しだと反論しましたが、債権者側の主張する解除事由がいずれも認められてしまったため、

「解除事由は債務者が債権者の意向に反して時短営業に踏み切ったこととは無関係である」

として、比較的あっさりと排斥されました。

 債権者が主張した解除事由等に対する裁判所の判示は、次のとおりです。

(裁判所の判断)

・異常な顧客対応について

「債務者の顧客に対する対応についてみると、上記認定事実・・・によれば、債務者は、①顧客に対して暴行に及ぶ、②顧客等の自動車を傷つけるなどの有形力を行使した・・・ほか、②自らの意に添わない言動をした顧客等に喧嘩腰で乱暴な物言いや侮辱的な言動をしたり、横柄な態度をとったりしていたこと・・・が認められる。これら債務者の顧客に対する対応・・・は顧客等の身体、財産を傷つけ、顧客等に不快な印象を与えるものであって、笑顔で挨拶する、丁寧な言葉遣いをするなどして顧客に対して気持ちを込めて接客する『フレンドリーサービス』に反するものといわざるを得ない。そして、債務者は、少なくとも1年以上の間、これらの行為を繰り返していたと認められる。」

「なお、債務者は、上記以外にも、時期や状況等は必ずしも明確でないものの、顧客等に対して暴行に及んだり、乱暴で横柄な態度をとったりしていたことが何度もあったことが窺われる・・・。」

(中略)

「以上によれば、債務者の本件各顧客対応は、いずれもセブン-イレブン・イメージの構成要素の一つである接客方法(『フレンドリーサービス』)に反し、セブン-イレブン・イメージ及び債権者の信用を低下させていると言えるから、本件基本契約5条3号及び4号に違反するものと認められる。」

・ツイートについて

「上記認定事実・・・の各ツイートの内容が、いずれも債権者又はその取締役らに関するものであることは、その文言に照らして明らかである。そして、これらの各ツイートの内容は、債権者の経営方針に対する論評と理解でき、直ちに不当とまではいい難いものも含まれている一方、債権者の取締役に対して、

①「人間落ちに落ちたらこんな顔出来るんです。」・・・、

②「人としても下の下!相手にするのも汚らわしい!」・・・

などと人身攻撃の内容が含まれていると評価せざるを得ないものや、債権者に対して

③「悪の本性」・・・、

④「セブンの腐敗」・・・

などと誹謗中傷する内容であると認められるものが含まれており、このようなツイートについては、正当な論評の域を逸脱したものであるといわざるを得ない。また、

⑤「自分たちが金の力だけで雇った、老いぼれの元警視総監のコネを使って、国家権力を我が物のようにして、長野県警に罪のない人を逮捕させてしまいました。」・・・、

⑥「セブン本部と国はたぶん金の力で繋がっています。」・・・、

⑦「金の力でつるんで、下の者を痛めつけて自分たちだけが栄耀栄華に耽る!」・・・

などという表現は、債権者が国等に不正に金銭を支払い、不当な利益を得ている旨の事実を適示するものであり、債権者の社会的信用を低下させ得るものであると認めるのが相当である・・・。」

「このように、本件各ツイートが正当な論評の域を逸脱して債権者及びその取締役らを誹謗中傷等するものや債権者の社会的信用を低下させ得るものであることに加え、債権者と契約関係にある債務者が実名を用いて本件各ツイートをしていること、本件各ツイートはツイッターという一般に広く利用されているソーシャルネットワーキングサービス上でされたものであり、その内容は広く伝播されたと認められること、以上の点を併せ考慮すると、本件各ツイートは、全体として、不特定多数の者に対し、債権者について否定的な印象を与えるものであって、その信用を低下させるものであると認められる。」

「以上によれば、債務者が本件各ツイートをしたことは、本件基本契約5条4号に違反するというべきである。」

・意趣返しであるとの主張について

「債権者による本件フランチャイズの契約解除は有効であること、同解除事由は、債務者が債権者の意向に反して時短営業に踏み切ったこととは無関係であること、以上の点からすると、債権者による本件フランチャイズ契約の解除及び取引拒絶が、債権者本部の意向に反して時短営業に踏み切ったことに対する意趣返しであるという債務者の主張は採用できない。」

「以上によれば、本件フランチャイズ契約が有効に解除されている以上、債務者に独占禁止法24条に基づく侵害停止請求権及び侵害予防請求権があるとは認められない。」

※ ただし、保全の必要性が否定され、結論として債権者の申立は却下されました。

3.ツイッターをめぐる問題

 係争中(法的措置をとる前段階を含む)の依頼人のSNSの使い方は、近時、弁護士の頭を悩ませる問題になりつつあります。紛争の当事者になると冷静でいられないことが多く、ついつい筆がすべりがちになります。しかし、事件の相手方は、そうした失点を見逃しません。当たり前ですが、取れる揚げ足は全て取ってきます。

 本件では、顧客対応の点も解除事由とされているため、ツイートしていなければ勝っていたというわけではないと思います。

 しかし、不要不急で、現実的な利益にも繋がらないツイートが、解除の有効性を支える二本の柱のうち一本を構成させてしまったことは否定できません。また、これが、社会的な問題としてクローズアップされていた時短営業の適否に踏み込まなくても勝てるというセブン-イレブン・ジャパン側の戦略的判断を惹起したことも否定できないと思います。

 弁護士的な感覚で言うと、ツイートに限らず係争中の相手がインターネット上に垂れ流すネガティブな情報発信は、目の前に餌が放り投げられているのと同じような意味合いで捉えられます。

 依頼人には注意喚起していることですが、ツイートをして、負けやすくなることはあっても、勝ちやすくなることはありません。少なくとも係争中は、SNSの利用は控えておいた方が賢明です。