弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

個人的な付き合いを拒否している女性に個人的なメールを送ったらダメ・返信があったからといって拒否の撤回と捉えたらダメ

1.抗議や抵抗がなくてもセクハラは懲戒処分の対象になる

 セクハラを理由とする出勤停止処分・降格の効力が問題となった事案で、最高裁が、

「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくない」(最一小判平27.2.26労働判例1109-5 L館事件)

との経験則を示して以来、被害者が明示的な抗議や抵抗を示していない事案においても、加害者に法的責任(勤務先からの懲戒処分の対象になる、被害者から損害賠償請求を受けるなど)が認められる例が増加する傾向にあります。

 昨日ご紹介した、福井地判令2.10.7労働判例ジャーナル107-26 公立小浜病院組合事件は、こうした観点から見ても興味深い判示をしています。目を引かれたのは、

個人的な付き合いを拒否している女性に個人的なメールを送ることは内容に関わらず、それ自体がダメだとした点と、

返信があったからといって拒否が撤回されたと受け取ったらダメだとした点

です。

2.公立小浜病院組合事件

 本件で被告になったのは、病院を経営する組合(地方公共団体の一種)です。

 原告になったのは、本件病院で内科診療部長として勤務していた地方公務員(医師)の方です。同じ病院に勤務する女性看護師に対し繰り返しメールを送付する等の「つきまとい行為」があったとして、停職3か月の懲戒処分を受けました。これに対し、処分の取消等を求めて出訴したのが本件です。

 女性看護師は、原告男性に対し、好意を持っている人物がいることから会うことはできないと伝えたほか、複数回に渡り、仕事外での付き合いを拒否していました。

 しかし、原告男性は、

メールの内容には問題がなかった、

付き合いをやめるよう申出を受けた後も、本件女性看護師からはメールが返信されてきていた、

などと主張し、「つきまとい行為」の存在を否認しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、原告の主張を排斥しました。

(裁判所の判断)

「上記認定事実によれば、平成29年9月及び同年10月19日に、本件看護師から原告に対し、個人的な付き合いをやめるよう申出があり、原告はこれを了承していたこと、それにもかかわらず、原告は、同月26日まで業務外の内容についてのメールを複数回送付し、また、同月25日午後9時頃に本件看護師の自宅を訪問し、郵便ポストへ本件シナリオ(※ 蘇生訓練のシナリオ。シナリオ上、被蘇生者の氏は本件看護師と同一であり、蘇生に当たるスタッフの一人の氏は原告と同一であった。括弧内筆者)を投函したこと、原告のこれらの行動に不快感や恐怖感を覚えた本件看護師が小浜警察署に相談に行った後、休職に至ったことが認められる。」

「これらの事実によれば、原告は、本件看護師の意に反することを認識の上で、繰り返しメールを送付する等のつきまとい行為を行い、本件看護師に精神的苦痛を与えたものと認めるのが相当であるから、本件懲戒処分に係る処分理由事実があったことが認められる。」

「これに対し、原告は、処分理由中の『相手方の意思に反することを認識の上で』とは、ストーカー規制法と同様に故意が要件となるところ、本件懲戒処分においてはこれが欠けている、また、本件における頻度のメール送付では『繰り返し』に該当しないなどと主張している。」

「しかし、ストーカー規制法と地方公務員法中の懲戒に関する規定とではその趣旨、目的が異なることからすれば、必ずしも懲戒処分においてストーカー規制法と同様の解釈を取らなければならないものではない。また、前記・・・認定のとおり、原告は複数回にわたり本件看護師から仕事外の付き合いを拒否されており、とりわけ、平成29年10月19日には、好意を持っている人物がいることから原告と会うことができないとまで告知されているにもかかわらず、原告は、その後も複数回にわたって業務以外の事項についてのメールを送付している。かかる事情からすれば、『相手方の意に反することを認識の上で』、メールを『繰り返し』送付したものと認めるのが相当であって、これらの点に係る原告の主張は採用できない。なお、原告は送付したメールの内容に問題がない旨も主張するが、そもそも個人的な付き合いを拒否している女性である本件看護師に対し、男性であり本件看護師の上司でもある原告が、本件看護師に対する個人的なメールの送付を継続すること自体問題のある行動であることは明らかであるから、原告の同主張も採用できない。

「ほかに、原告は、本件看護師から個人的な付き合いを拒否された後も、本件看護師からメールの返信があったことなどから、同拒否は撤回されたものというべきである旨主張するが、拒否が撤回されたことを認めるに足りる積極的な事情はない。むしろ、上司と部下という原告と被告の立場に鑑みれば、原告からのメールに返信があったからといって、それだけで拒否が撤回されたと認めることはできないというべきである。よって、この点に係る原告の主張も採用できない。

3.相手の拒否的な姿勢を甘くみない・構ってくれているからといって甘えない

 セクハラで懲戒処分を受けた方から相談を受けていると、突然大事になったという認識を示す方がいます。

 しかし、よくよく話を聞いてみると、婉曲的に拒否の姿勢が示されていたことが少なくありません。反応してくれているから嫌がっていないと善解することなく、反応してくれているのは立場の故ではないかと想像することが大切です。

 また、裁判例が指摘するとおり、不祥事の責任を問われるのを防ぐという観点からは、異性の部下に対し、仕事と関係のない個人的なメールは送らないに越したことはありません。性的な内容を含んでいなかったとしても、送信行為自体が不適切と評価される可能性があるからです。