弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

所定賃金が一定額の深夜割増手当を含める趣旨であることが明らかな場合とは

1.所定賃金は残業代込み?

 所定労働時間が深夜帯に係っているにも関わらず、労働条件通知書や労働契約書に割増賃金についての特段の言及がない場合、その趣旨はどのように理解されるのでしょうか?

 労働条件通知書など契約時に示された賃金が、割増賃金を含んだ金額として理解されるのでしょうか? それとも、深夜勤務等があった場合、示された金額に上乗せして、更に深夜勤務手当等を請求することができるのでしょうか?

 この問題について、最高裁は、

「労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない」

と判示しています(最二小判平21.12.16労働判例1000-5ことぶき事件 参照)。

 それでは、「一定額の深夜割増賃金を含める趣旨であることが明らかな場合」とは、具体的にどのような場合をいうのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になると思われる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令2.9.3TWO EYES GLOVAL LIMITED事件です。 

2.TWO EYES GLOBAL LIMITED事件

 本件はレストランシェフの勤務時間を午後6時から翌日午前5時までとする契約の理解の仕方が問題になった事件です。こうした勤務時間に対応する一定額の賃金が、深夜割増賃金を含んだ金額であるのか否かが問題になりました。

 裁判所は、次のとおり述べて、基本となる賃金に、深夜勤務手当も含まれていると判示しました。

(裁判所の判断)

「本件店舗の営業時間は前記認定事実のとおり午後6時から翌午前5時であるところ、その営業時間からすれば不可避的に深夜労働が生じることになること、前記認定事実のとおり、この営業時間を前提に原告及び被告代表者の間で協議をし賃金額について合意していたことを考慮すると、本件労働契約における賃金月額の中に、原告の深夜労働に対応した割増賃金分も含まれていたと解するのが相当である。

「よって、原告の深夜割増賃金及び時間外割増賃金の請求については認められないというべきである。」

3.所定労働時間が深夜帯に係っていいさえすれば問題ない?

 裁判所は、上述のとおり、所定労働時間が深夜帯に係っていることを根拠として、合意された定額の賃金に深夜割増賃金も含まれていると判示しました。「一定額の深夜割増賃金を含める趣旨であることが明らかな場合」について、かなり緩やかな理解を示したものと評価できます。

 本件のような裁判例もあることからすると、深夜割増賃金の取り扱いに関して予想外の不利益を受けないようにするためには、雇入れ前の段階から使用者と 認識をすり合わせておいた方がよさそうです。